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ひどいよ先輩。
ずっと、我慢してたのに。こんなの。
どこか壊れたみたく、涙が止まらない。
ほんとはもう、こんなとこにいないで、家に帰った方がいい。わかってるけど、動ける気がしなかった。
今日はバスケ部練習ない日だから、みんなは先に帰っちゃってて。足も痛いけど、一人で帰んなきゃ。
不意に、廊下の向こうから、男子たちの声が聞こえてきた。
(……やば)
多分、男バスだ。
男バス軍団は、もれなくアホだけど、練習は女バスより真面目で。今日みたいに他の部活が体育館使う日は、廊下で筋トレして、校舎の外周走ってる。
「あれ? 柚木じゃね?」
「おーユズ! ってあれ? 泣いてんの?」
「えぐりん!
えぐりん、ユズ泣いてんぞ!」
聞き慣れた二年生部員たちの声。
(――最悪)
もー、だから同い年ってやだ。
こういうときは、そっとしとくもんなの! 泣いてる泣いてるって、その小学生みたいな優しさ、間違ってるから!
そういうとこ、島岡先輩は大人だった。いちいち言葉にしなくても、察してくれて。
でも、先輩は……。
思い出すと、涙がもっとヤバいことになりそうで、ぎゅっと膝に顔を埋める。
「ユズ、どうしたの?」
突然、上から声がした。
ちょっと響くこの声。同じクラスのえぐりんだ。
いじられキャラで、男子にも女子にも人気のあるえぐりんは、背は低めだけどバスケうまくて、男バスのキャプテンしてる。あたしも女バスのサブキャプだから、よく話すし、仲はいい方。えぐりんいいやつだし。天然だけど。
「大丈夫? 泣いてんの?」
えぐりんが、隣にしゃがみ込んだのがわかった。
もー、うるさい。
「……見たらわかるでしょ」
「うん、なんで?」
……もー、うるさい!