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「――!」
言葉、出なかった。
真っ白になった頭の中が、目の前の光景、拒否して。
振り向いて、今来た廊下を勝手に逆走し始める身体。太ももに刺さる、スカートのプリーツ。小刻みに駆け下りる階段。
(――あ、息)
呼吸を止めてたことに気づいた瞬間。
ふわっと浮いた身体は、下まで一気に落ちた。
「……痛った……」
足首に、力が入らない。ひねったかもこれ。
でも、急がなきゃ。
右足を引きずりながら、あたしは必死で昇降口に向かった。一番奥の二年生の靴箱、自分のクラスのところ。ここなら、先輩たちは通ることないはず。
放課後、部活の時間の昇降口には誰もいない。
(よかった)
ほっとしたら、もうダメで。
足元に落ちる、リュックとくしゃくしゃになった紙袋。
都立高校の合格発表が終わったばかりの三月。校門の桜には蕾がいっぱいだけど、廊下はまだ、座りこむには寒い。
けどもちろん、膝を抱く手が震えるのは、寒いせいじゃない。両手の上、顔を伏せる。
今頃、出てきた涙。
(――なんで)