【断章】
――ここは、昇神した烏丸源一郎の創造した世界の隔離空間。
彼の創造した世界の情報が、全てアーカイブされている空間である。
この空間には、源一郎が無意識のうちに生み出した管理者がいる。
SEY‐FX/Pキョウコ――実体を与えられた、ミズキの姉である。
キョウコはこの領域を統括し、来訪者に必要な情報を開示する役割を負っていた。
「ようこそ、アーカイブ烏の社へ。私は、キョウコ。ここの管理を行っております。アナタがここを訪れたということは、恭一郎視点でこの異世界を追体験しているはず。どうしても情報に恭一郎の知識と経験の影響が出てしまいます。ここはその情報を、もう少し正確に伝えるための場所となります。そして現在のアナタに開示可能な情報は、こちらになります」
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・《CONNECTIVE・ALPHA 666》 (コネクティブ・アルファ トリプルシックス)
烏丸源一郎が制作した、リバイバルゲームのタイトルである。
元々は源一郎の少年時代に発売された、戦闘メカアクションゲームであり、同名のシリーズを統合して再編集したものが、このトリプルシックスである。
源一郎は著作権者から正式に新作開発の権利を購入し、昔流行ったゲームの続編制作を仕事としていた。
この作品は、最終テストを残すのみの状態で源一郎が死亡したため、ほぼ完成といえる状態の遺作である。
このゲームの遊び方は、大きく分けて二通りである。
大規模多人数型オンラインプレイ。
依頼達成型ストーリープレイ。
オンラインプレイは、基本的に何でもアリとなっている。
フリーの根無し草として、特定の勢力に肩入れするもよし。気に入った相手と集団を形成するもよし。ただひたすらに強さを求めて、闘技場に参加するもよし。 登場する全てのモジュールやパーツを集めるだけでもよし。
ただし、プレイヤーの行動が事前に提示される規約に抵触した場合、公開討伐対象として、懸賞金付きの敵認定される。より悪質な場合は、ゲームからの自動的に永久排除となる。
ストーリープレイは、定期のミッション及び不定期のレイドミッションに個人で参加して、他のプレイヤーと共闘して、トリプルシックスの世界を体験するものである。
世界に存在する勢力や団体、個人などから依頼を受け、世界を裏で操る謎の存在に迫っていくというものだ。
ちなみに、オンラインプレイとは異なる時間軸という設定になっているため、話が互いにリンクすることはないが、登場するモジュールやパーツは全て共通である。
・《コネクティブ・アルファ》 (通称CA)
コネクティブ・アルファシリーズ作品に登場する、高拡張型戦闘機械の総称である。
名前の由来は、機体のパーツ同士の接続に用いられている『アルファ・コネクター』という、操縦系・動力系・駆動系・骨格・関節の統合共通規格からきている。
その基本的な構造は、操縦系と動力系を内包した骨格があり、その周囲を駆動系の関節が覆う形となる。この関節にはコネクターの装甲としての役割も付加されている。コネクターで重量物を保持する構造から、腰が最も太く、次に肩、そして首の順にサイズが小さくなる。
恭一郎の使用しているオールド・レギオンの使用するCAは、首・肩・腰の他に、肩の後ろの胴体に補助アーム用、肩の左右突端の装甲の下にエクステンド用のコネクターが設置されている。
補助アームはゲーム内単位で一〇〇〇までの重量を懸架することが可能で、五〇〇以下のライトウェポンは二基。五〇〇以上一〇〇〇以下のミドルウェポンは一基。そしてバスタードウェポンのBパーツが搭載可能となっている。
・《CAの機種と運用傾向》
オールド・レギオン第一〇五〇秘匿基地には、都合八機分の機体モジュールしか搬入されていない。
以後は、コンテナ番号ごとに組み上げた機体の、カタログスペックのデータの一部である。
1.無限軌道脚――タンク型CA。
最も構造が複雑で重量のあるAT|(anti thermos/対熱)装甲による高い熱エネルギー防御性能を有しており、その他の属性にもある程度の水準の防御性能を誇る、重装甲型の機体傾向となっている。
タンクは重火器の運用に最も適しており、正面切っての撃ち合いに最も向いている。
その反面、重装甲が祟って、機動性が最も低い機種である。
2.疑似浮遊脚――フロート型CA。
疑似反重力装置の恩恵である高い機動性を要求されるため、大胆に装甲を廃して軽量化が図られた、高機動型の機体傾向となっている。
フロートは素早く相手に接近して一撃を加え、そのまま相手の間合いの外へ移動する一撃離脱戦法に最も適している。
その反面、機動性確保のため積載重量に大きな制約が絶えず付きまとい、運用が非常に難しい機種である。
3.軽量二脚――ライトレッグ型CA。
フロートタイプに次ぐ高い機動性を持ち、優れた運動性によって複雑な立ち回りを可能とした、回避重視型の機体傾向となっている。
ライトレッグは相手の死角に回り込んで、執拗にドッグファイトを仕掛ける近接戦闘に最も適しており、機動性の低い機体には、最も近寄られたくない天敵となる。
その反面、操縦には高い技術が要求されるため、フロートタイプと並んで運用が難しい機種である。
4.中量二脚――ミドルレッグ型CA。
単純な構造で重量の軽いAK(anti kinetic/対実弾)装甲による高い運動エネルギー防御性能を有しており、機動性と運動性に加えて積載重量も確保された、バランスの良い汎用型の機体傾向となっている。
ミドルレッグはその汎用性の高さから、場所を選ばない柔軟な運用が可能であり、あらゆる場面で一定水準の安定した活躍が期待できる。
その反面、高い汎用性が故に突出した能力が要求される場面では決定打に欠けてしまい、特化型の機体の後塵を拝しやすい機種である。
5.重量二脚――ヘヴィーレッグ型CA。
AT装甲を採用したことにより、二脚型で最も高い耐久性を獲得した、防御重視型の機体傾向となっている。
ヘヴィーレッグは機動性と運動性をある程度犠牲にして、敵の攻撃に耐えながら戦闘を行うことに重点が置かれており、他の二脚タイプの中で最も防衛戦闘に向いている。
その反面、タンクタイプに次いで機動戦闘が苦手であり、攻勢時に先を見通した立ち回りが要求される、戦術的な運用が求められる機種である。
6.突撃三脚――トライフォワード型CA。
厚みとやや重量のあるAC(anti chemical/対成形炸薬)装甲の特殊複合素材による高い化学合成エネルギー防御性能を有しており、腰部前方の大型装甲脚で攻撃に耐えながら前進する、突撃型の機体傾向となっている。
トライフォワードは騎兵のように二次元方向の突進力が非常に高く、強行突破戦法で右に出るモノはない。
その反面、装甲の多くが正面と側面に偏っている影響で、背面からの攻撃には非常に脆い機種である。
7.跳躍三脚――トライリープ型CA。
小型簡易版の擬似反重力装置を採用したことにより、三次元方向に高い機動力を発揮する、立体機動型の機体傾向となっている。
トライリープは腰部後方の小型フロートによって機体重量を軽減し、跳躍に適した逆関節型脚部で他脚には再現不可能な高い跳躍能力と空間戦闘能力を獲得している。
その反面、高い跳躍能力のため遮蔽物から飛び出すことが多く、耐久力確保のために施されたAC装甲の重量のため、立体機動時以外の機動性と運動性が低下してしまっている機種である。
8.砲撃四脚――フォーレッグ型CA。
四本の主脚により場所を選ばない運用が可能で、主脚の全てにアンカーボルトを装備し、機体をその場に完全に固定させる移動砲台型の機体傾向となっている。
フォーレッグはへヴィーウェポンを始めとする重火器の反動を気にせず安定して運用することができ、特に精密狙撃でその真価が発揮される。
その反面、重火器での攻撃中は身動きを取ることができず、反動抑制と耐久性の兼ね合いから採用されたAC装甲によって、機動性と運動性は低い水準となっている機種である。
・《CAの装甲防御》
CAには多くの対戦ゲームと同様に、『三竦み』の要素が盛り込まれている。ナメクジとヘビとカエルの三者が牽制しあって、いずれも自由に行動できなくなるというものだ。
CAの場合は、実体弾による運動|(kinetic)エネルギー、成形炸薬による化学合成|(chemical)エネルギー、凝集レーザーによる熱|(thermo)エネルギーの三属性がこれに当たる。
CAの機体モジュールには、前記の三属性のいずれかを重視した防御が施されている。
そのモジュール同士を接続し、胴体を中心に頭部、腕部、脚部の組み合わせで、多様な性能の機体を生み出すことができる。
CAの装甲は、軽量機体が最低限のAK装甲、中量機体がAK装甲またはAC装甲、重量機体はAT装甲が施される傾向にある。
その傾向は、ほぼ全ての機体モジュールに該当し、装備重量の影響が大きい脚部の装甲を基本として、次に影響のある胴体、その次に影響する腕部、元々装甲のあまりない頭部で、属性防御の方向性を決めていく。
・《CAの攻撃手段》
CAの攻撃手段は、左右の腕に装備した主武装と、エクステンドの拡張武装によって行われる。
その武装のほとんどは、CAの最も得意とする機動戦闘のための射撃用の武器である。
一部の近接戦闘用の武装は、目標を確実に仕留めることを念頭においた高威力武器となる。
武装には装備カテゴリーがあり、重量五〇〇以下のライトウェポン。五〇〇以上一〇〇〇以下のミドルウェポン。一〇〇〇以上二〇〇〇以下のへヴィーウェポン及びバスタードウェポン。一五〇〇以上三〇〇〇以下のトゥハンドウェポンとなる。
ライトウェポン及びミドルウェポン、バスタードウェポン|(ノーマルモード/バスタードモード)は、全ての脚部で無制限に使用が可能である。
その他のへヴィーウェポン及びトゥハンドウェポンは、タンク型以外の脚部で使用する場合、脚部のアンカーボルトで機体を地面に固定した射撃準備姿勢が必要である。
ただし例外として、近接戦闘用武装とセントリーガンの設置型兵器は、射撃準備姿勢を必要としない。
バスタードウェポンは、腕部装備のAパーツと補助アーム懸架のBパーツに別れていて、Aパーツ単体をミドルウェポンとして運用しつつ、AパーツとBパーツを連結させることで、準ヘヴィーウェポン武装として運用が可能である。
トゥハンドウェポンはその名の如く、両腕に装備して運用する大型武装である。
その更に上に、ツイン・バスタードウェポンという、超重武装が存在するが、現在基地には配備されていない。
武装の各属性の傾向として、弾が単純な構造の多いK属性は装弾数が多く、弾が複雑な構造となるC属性は装弾数が少ない。T属性に関しては、内部構造が発生する熱により冷却触媒が激しく劣化するため、安全規定数までしか使用することができなくなっている。
以後は、オールド・レギオン第一〇五〇秘匿基地に搬入されている、オールド・レギオンCA専用兵装の一覧である。
補足事項。
K キネティック (kinetic)の略。
H ヒート (HEAT high‐explosive anti‐tank)C属性の略。
L レーザー (laser)T属性の略。
・《ライトウェポン》九種一八基。
キネティックガン。 装弾数二五 ×二基。
ヒートガン。 装弾数二〇 ×二基。
レーザーガン。 装弾数一五 ×二基。
パイルバンカー|(K属性)。 装弾数一|(繰り返し使用) ×二基。
ヒートパイル。 装弾数三 ×二基。
レーザーピアス。 装弾数五 ×二基。
ワイヤーガン。 装弾数一(繰り返し使用) ×二基。
マーカーガン。 装弾数一〇 ×二基。
ペイントガン。 装弾数五〇 ×二基。
・《ミドルウェポン》一七種三四基。
キネティックライフル。 装弾数三〇〇 ×二基。
ヒートライフル。 装弾数一〇〇 ×二基。
レーザーライフル。 装弾数六〇 ×二基。
ガトリングガン|(K属性)。 装弾数三〇〇〇 ×二基。
ヒートマシンガン。 装弾数一〇〇〇 ×二基。
レーザーバルカン。 装弾数六〇〇 ×二基。
ショットガン|(K属性)。 装弾数(四〇 ×一〇) ×二基。
ヒートキャニスター。 装弾数(三〇 ×八) ×二基。
レーザーブラスター。 装弾数二〇(拡散放射」) ×二基。
ソニックブレード|(K属性)。 装弾数一|(繰り返し使用) ×二基。
ヒートハンマー。 装弾数二 ×二基
レーザーカッター。 装弾数一|(繰り返し使用) ×二基。
AKシールド。 二基。
ACシールド。 二基。
ATシールド。 二基。
スナイパーライフル|(K属性)。 装弾数五〇 ×二基。
バスターライフル|(全属性)。 装弾数三 ×二基。
・《ヘヴィーウェポン》一四種二八基。
キネティックキャノン。 装弾数四五 ×二基。
ヒートキャノン。 装弾数三〇 ×二基。
レーザーキャノン。 装弾数二〇 ×二基。
Kセントリーガン(ガトリングガン)。 装弾数|(二〇〇〇 ×四) ×二基。
Hセントリーガン(ヒートマシンガン)。 装弾数|(七〇〇 ×四) ×二基。
Lセントリーガン(レーザーバルカン)。 装弾数|(五〇〇 ×四) ×二基。
KQライフル。 装弾数|(二五〇 ×四) ×二基。
HQライフル。 装弾数|(一五〇 ×四) ×二基。
Kモーターカノン。 装弾数三〇 ×二基。
Hモーターカノン。 装弾数二〇 ×二基。
ロングレンジキャノン|(K属性)。 装弾数一五 ×二基。
レーザーハープーン。 装弾数三 ×二基。
マルチプルジャマー。 装弾数一〇 ×二基。
ネットランチャー。 装弾数五 ×二基。
・《バスタードウェポン》一種一基。
フォールディングレールガン/ハイパーレールガン|(K属性)。 装弾数|(四〇/四) ×一基。
・《トゥハンドウェポン》一種一基。
ロングレーザーソード。 装弾数一|(繰り返し使用) ×一基。
・《エクステンド》一一種各一対二基。
フラッシュロケット。 装弾数二五 ×二基。
キネティックロケット。 装弾数五〇 ×二基。
ヒートロケット。 装弾数四〇 ×二基。
プラズマロケット|(T属性)。 装弾数三五 ×二基。.
キネティックミサイル。 装弾数二〇 ×二基。
ヒートミサイル。 装弾数二〇 ×二基。
プラズマミサイル|(T属性)。 装弾数二〇 ×二基。
サブコンピュータ。 二基。
サブアンプリファイア。 二基。
SC(エスシー)・レイ (自律遠隔攻撃装置)。 ダンシングダガー (K属性)/六連装リボルビングスロアー (C属性)/レーザーオービット (T属性)。 装弾数一|(繰り返し使用)/六/一〇 ×二基。
デコイチャフ。 装弾数一〇 ×二基。
・《トリプルシックスに登場する勢力と機体》
トリプルシックス世界におけるCAの歴史は、プラモデルのアニメーションに影響を受けた工学部の大学生が、趣味で制作したラジオコントロールの玩具がその起源である。
この時点でアルファ・コネクターの技術がほぼ確立されており、プラモデルの要領でパーツの交換が容易で、誰でも簡単に動かして遊ぶことのできる拡張性の高い高級玩具として成功を収めた。
その後は、大型化による汎用重機や汎用工作機として開発が進み、やがて人が搭乗して稼働する戦闘用モジュールが、コネクティブ・アルファとなった。
以後は、トリプルシックスに登場する勢力に配備されているCAである。
初期のCAは、市街地などでも運用できるように小型に造られており、全高が最大でも八メートル以下となっている。
また、入り組んだ場所でも味方の状況が把握できるように、機体間のデータリンク機能が標準装備されている。
高い技術が小型化されたこのCAは、後に『オールド・レギオン』の主力となる。
初期型CAで得たノウハウを投入して、CAを超えたCAとして開発されたのが、超高性能CA――ヴァンガードである。
全高一五メートル|(初期型CAの約二倍)まで大型化され、贅沢なまでに当時の最新技術を盛り込んだヴァンガードは、搭乗者を選ぶものの、その圧倒的な性能で、その後の戦争の定義を大きく書き換えた。
やがて破局的な戦争の終結をもって、その多くの先端技術が失われることになる。
その数少ない現存するヴァンガードは、『オールド・ワン』のみが保有している。
戦争によって地上文明が崩壊した後、地下都市で運用されたCAは、ヴァンガードの技術を再現して作られた。しかし、崩壊と共に技術のほとんどが失われていた。
そのため、性能は初期型CAにすら劣るものの、製造が非常に容易になったことで配備数が非常に多く、『アーリー・レイズ』の主力となっている。
崩壊した地上で僅かに残ったCAの製造施設から得た技術で再現されたCAは、初期型CAに次ぐ性能を有していた。
現存していた施設によって、ヴァンガードで使われた技術の一部が再現されており、後に安定供給されて『ネオ・フロンティア』の主力となっている。
崩壊した地上を捨て、月や火星へ逃れた人々がいた。
彼等の使うCAは、初期型CAの技術を基にしていたが、小型高性能の再現には技術や設備が足りず、大型凡庸化することになった。
後の研究と技術力の向上により、初期型CAに迫る性能を獲得して、『リターナー』の主力となっている。
前者五つの組織と一定の距離を保ち交流する集団が、『ワイルド・カンパニー』である。
組織同士の間接的な交易を仲介しているワイルド・カンパニーは、物資だけではなく、様々な情報や遺構の発掘、戦場跡のジャンク回収と、なんでも行っていた。
そのため、オールド・ワンを除くほぼ全ての組織のCAを幅広く所有している。しかし、特定の拠点を持たず流浪しているため、CAの製作は行っていない。
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「以上が、現在のアナタに開示可能な情報となります。この空間にこれ以上滞在すると、アナタが元いた世界に帰れなくなるため非常に危険です。時間をおいてから、改めてご来訪ください。その際は、新しい情報を開示いたします」