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【高拡張型戦闘機械 コネクティブ・アルファ】

――異世界生活二日目。




 朝から始めた各種武装と弾薬類の把握はあく作業は、夕方近くにとどこおりなく終了した。

 ここで改めて判明したことが、基地に搬入されていたコンテナの中に、予備の交換用パーツと弾薬類が、まったく見当たらなかったという現実だった。

 CAを組み上げて使用することは、現状でも何も問題はない。だが、使用した後で整備をする際に、消耗したパーツを未使用の新品と交換することができない。

 通常、一度使用しただけで即交換ということにはならないが、戦闘などで限界まで性能が要求された場合などは、その後の性能を維持するための整備と消耗したパーツの交換が必須となる。

 不完全な整備しかできないとなると、確実に機体が発揮できる性能が落ちてしまう。最悪の場合、戦闘中にこわれて、地獄を見ることになりかねない。

 必要とあれば、他の機体から使えそうなパーツを抜き取る『共食い整備』も止むなしの状況だ。当然、それにも限界はある。

 予備の弾薬類に関しては、現在所持している武装にパッケージされている最大携行弾数さいだいけいこうだんすうが全てであり、それが失われると、その火器に関してはは使用不能になってしまう。幸か不幸か、武装の数はCA八機がフル装備してもまだ余るだけ豊富にあるため、無駄遣いしなければしばらくはどうにかなりそうだ。

 そんなこんなで恭一郎とミズキは協議の結果、CAのご利用は計画的に。という基本方針が決定した。

 その折にミズキがくやしそうに『動けないCAは、ただの鉄屑てつくずだ』などと、某紅い飛行艇ぼうひこうてい乗り風のようなことを口走っていた。ミズキの存在意義として、この状況は不本意なことはなはだしいのだろう。

 今後の円滑な生活を考えて、恭一郎はミズキの気持ちをフォローをしておく。

「とりあえず、いつでも使える状態の機体を組み上げておこう。遅くとも数日以内には、基地周辺の調査に出なければならないわけだし。さて、どの機体がいいだろうか?」

 恭一郎からの提案を受け、ミズキがネガティブな思考を切り替える。

『恭一郎さんのシミュレーター結果を参考に、最も適性の低い機体を組むというプランと、丁寧ていねいあつかえば、比較的長持ちする機体を組むというプランがあります』

「前者は、俺がやってみないとわからない、だな。それで、後者だと、どの機体になるんだ?」

『機体の骨格フレームに最も負担のかからない、スタンダードなライトレッグがおすすめです。搭載するモジュールを可能な限り軽量なモノに限定して、携行けいこうする武装も最低限とすれば、数回程度は全力稼働が可能である。との試算が出ています』

「軽い機体と言えば、フロートが真っ先に思い浮かんだのだが?」

『その認識は間違いではありませんが、補給が絶たれた現状で、パーツの消耗が他よりも激しい疑似反重力装置ぎじはんじゅうりょくそうちの使用は、機体の使い捨てに相当します。もし連続使用時に整備不良で墜落ついらくともなれば、まだ使えた可能性のある搭載中のパーツも一緒に失ってしまうかもしれません』

 もっともなミズキの説明に、恭一郎も賛同する。CAに関して、ミズキの知識に頼らざるを得ない。

「そうなると、フロートとトライリープは、基本的に封印しておく方向になりそうだな」

『現状では、それがよろしいかと』

「分かった。後者のプランを採用して、ライトレッグを組み上げよう。そこまで作業したら、今日は終わりにしよう」

『分かりました。では、早速作業に取り掛かりましょう』

 ミズキが天井の大型ガントリークレーンを動かし、『3』と記されたコンテナをメンテナンスハンガーへ移動させる。コンテナの中から脚部を小型ガントリークレーンで吊り上げ、メンテナンスハンガーのロボットアームで固定する。同様の作業を胴体、腕部、頭部と繰り返し、ロボットアニメの合体直前のような光景となった。これから、各モジュールを接続する作業に取り掛かる。




 ここで簡単に、CAの特徴の一部を紹介する。

 CAの機体を構成するモジュールは、基本的に三つのカテゴリーに分けられる。各モジュールは重量別で、軽量級、中量級、重量級と分類されているのだ。この分類はモジュールの装甲と耐久性、一部機能の差に直結しているので、戦闘スタイルに応じて組み上げて行くことになる。

 CAの戦闘スタイルは選択する脚部モジュールの種類によって、大方の方向性が決まってくる。今回組み立てる軽量級のライトレッグを例とするならば、高い機動性を活かした近距離の格闘戦か、一撃離脱をむねとする射撃戦との相性が良い。

 軽量級の機体は機動性を高めるため、重心位置が他の脚部より高めに設定されている。このことによって初動そのものが迅速となり、軽量級ならではの素早い動きが可能となる。

 しかし、軽量であるが故の欠点がある。装甲が薄く、耐久性が低いこと。重量が軽いため、安定性が低くなってしまうこと。射撃武器使用時の反動を吸収しきれず、照準がズレてしまうことだ。

 装甲と耐久力に関しては、『当たらなければどうということはない』という理屈と、『られる前に殺ればいい』という運用で問題はクリアされる。

 安定性の低さは、被弾時に機体が硬直してしまう危険性が高いことを指している。CAにはかなり優秀な姿勢制御装置が搭載されていて、大破して戦闘不能にでもならない限り、基本的に機体が転倒することはない。

 射撃時の照準のズレは、遠距離の精密狙撃においては致命的となる。射撃武器発射の反動は、腕部と脚部の内部構造でその多くが吸収されている。しかし軽量級は反動を吸収するカウンターウェイトが少ないため、特に連射時の繰り返される反動を吸収しきれない。

 後者の二つは機体重量を上げることで、ある程度軽減することが可能となるが、軽量級最大の武器である機動力の低下を招いてしまうことになる。

 その結果が『当たらなければ……』であり、『殺られる前に……』ということである。基本的にライトレッグは、攻撃を回避して格闘戦の間合いに入り、一撃必殺級の高威力武装で敵を捻じ伏せる戦い方となる。

 同じ軽量級であるフロートは、基本的な運用は似ているが、一撃離脱の射撃戦に特化した脚部となっている。機体が常に浮いていて接地していないため、脚部による切り替えしが苦手なのだ。足そのものが無いのだから、足捌きができないという理由だ。

 軽量級とは真逆の重量級は、タンクとフォーレッグ、そしてヘヴィーレッグだ。装甲と耐久力が高く、重量があるため安定性も非常に高い。その反面、機動力は低く、遠距離での戦闘と相性が良い。

 タンクは装甲と耐久力が最も高く、へヴィーウェポンを装備した場合の圧倒的な火力は、軽量級機体を数秒で行動不能に追い込むほど強力である。

 フォーレッグは安定性が最も高く、へヴィーウェポンによる長距離からの精密狙撃は、機体をその場で固定するというリスクを鑑みても非常に魅力的だ。

 ヘヴィーレッグは重量級の中で最も汎用性が高く、同じ重量級の中でも機動性がある程度担保されている。タンクやフォーレッグのような特化した性能はないが、欠点の少ない汎用性が特徴だ。

 残るミドルレッグ、トライフォワード、トライリープが中量級となる。装甲と耐久性、安定性と機動性も良好だ。

 ミドルレッグは全ての性能が平均的で、汎用性が最も高い。機体の構成次第で、あらゆる状況に対応することができる万能型だ。

 トライフォワードとトライリープの二種は中量級ではあるものの、特徴的な性能が与えられている。

 トライフォワードは水平方向への突進能力が非常に高い。装甲は進行方向の正面側に集中していて、重量級の機体が軽量級の速度で突進してくると表現するのが最も分かりやすい。

 トライリープは垂直方向への跳躍能力が非常に高い。脚部の構造が跳躍することを前提に設計されていて、三次元の戦闘能力は陸戦兵器であるCAにとって大きな意味を持つ。

 胴体モジュールは、搭乗者を守る堅牢な部位となる。こちらも重量別に特徴があり、それによって同じ胴体モジュールでもフォルムが大きく異なる。

 軽量級の場合、装甲材は軽くて堅牢な特殊合金が用いられる。この装甲を鋭角的に配置して、被弾経始ひだんけいしによる跳弾ちょうだんと傾斜した装甲による防弾性の向上を行なっている。

 中量級の場合、装甲の多層化や特殊複合素材の追加装甲などで、装甲厚と耐久性の向上が図られている。装甲はやや鈍角に配置され、跳弾よりも耐弾に重きが置かれている。

 重量級の場合、装甲材に冷却機構が追加されている。レーザーによる熱量攻撃に対して防御性能が高く、重厚で丸みを帯びた装甲は、ある程度の被弾経始も期待できる。

 胴体モジュールは搭乗者だけではなく、重要なパーツを最も内包する部位であるだけに、例え軽量級であっても、耐久性は脚部に比肩するほど高い構造となっている。

 腕部モジュールは、CAの攻撃の要である武装を取り扱う部位となる。こちらも重量によって、運用方法に差が出て来る。

 軽量級の腕部は、武装の素早い取り回しに最も秀でている。特に近距離での激しい動きでは、精密さよりも標的を捉える能力が優先される。標的との距離が近ければ、多少の照準のズレは許容範囲内に収まるからだ。

 重量級の腕部は、精密な照準と射撃の安定性に最も秀でている。武装の素早い取り回しが苦手な代わりに、射撃時の反動を吸収して素早い再照準を可能としている。

 両者の中間である中量級は、どのような距離でも戦闘が可能な汎用性を持っている。武装の取り回しは扱う者の技量で補えるモノで、精密な射撃は射撃準備姿勢を執れば可能となる。

 頭部モジュールは、メインカメラや各種センサーの詰まった、精密機械の塊である。そのため厳重に防御対策が施されるのだが、常に機能と防御が天秤に掛けられている部位となる。

 軽量級の頭部は、機能を優先させた高機能型である。メインのセンサーカメラが三基搭載されていて、内蔵するセンサーの性能を最大限発揮できるようになっている。

 中量級の頭部は、機能と防御を両立させた汎用型である。メインのセンサーカメラを二基へ減らし、その分を防御に充てているため、平均的な能力となっている。

 重量級の頭部は、防御を優先させた簡易型である。メインのセンサーカメラを一基しか搭載しておらず、センサーの機能は必要最低限となっている。その分、防御性能が非常に高いため、頭部を破壊される危険性が低くなっている。




 昨日のミズキの説明を思い返しながら、ゲームの中から現れた実物の機体が組み上がって行く姿を見ているだけでも、結構楽しい作業風景だった。モジュール同士の接続時に思わず脳内で、『ガチャン』という効果音を付けてしまうほどだ。

 無事、機体モジュールの接続が終わると、内部搭載パーツの取り付け作業に入る。

 今回は軽量化の必要から、パワーパックは重量のある蓄電装置を小さくして、その分動力炉の出力が高い物を選択した。冷却装置も小型軽量のため、機体内に熱がこもりやすく、エネルギー効率も悪いが、絶えず超小型プラズマエンジンから、膨大な電力が生み出されていくことになる。幸いにして、軽量級は放熱性能が総じて平均を上回っているため、出力型のパワーパックと相性は良い。

 そしてパワーパックは、胴体後部に収納された。

 FCSは重量に差がほとんどないため、相性の良い近距離広角型の物を選択した。

 そしてFCSは、胴体前方に収納された。

 ブースターは、燃料の重水をレーザーで人為的にプラズマ爆発させることにより、その爆発力を指向性を持たせたブースター本体のノズルから噴射させることで、CAを素早く加速させる推進装置だ。また、燃料の瞬間的な追加投入によって一時的に超加速、継続的な追加投入で高速巡航を行うことが可能となる。

 ブースターの分類としては、液体燃料式の低出力パルスロケットエンジンというものだ。パルスロケットは核爆弾を連続で爆発させ、その反動を推進力とする方式だ。その爆発を核ではなくプラズマに置き換えて、より制御の簡単で安全な推進装置となっている。

 ただし、空中を自由に飛行するだけの推力を得るには、技術的に盛り込むことが困難だったため、脚部性能に依存した跳躍ちょうやくからの滞空時間の延長に用いられる性能に止まっている。

 今回は加速性の優れたブースターを胴体下方に四基、自動車のタイヤと同じような位置にある接続機構に取り付けられた。

 武装は最低限のものとして、ライトウェポンのキネティックガンを右腕に、パイルバンカーを左腕に装備させた。予備の武装と拡張用のエクステンドは、軽量化のため今回は搭載が見送られた。




 ここで再び、CAの特徴の一部を紹介する。

 CAの武装も、基本的に三つのカテゴリーに分けられる。それは格闘や射撃のような違いではなく、攻撃手段による属性の違いだ。それは、実体弾による運動|(kinetic)エネルギー、成形炸薬による化学合成|(chemical)エネルギー、凝集レーザーによる熱|(thermo)エネルギーである。

 K属性と称される運動エネルギー武装は、最もスタンダードな物理攻撃のことを指している。実体弾を発射する銃器や爆薬を詰めた榴弾などが該当する、地球で太古の昔から普及している攻撃手法だ。

 K属性に対抗するには、特殊合金装甲を持つ軽量級の被弾経始、中量級の多層化装甲のAK|(anti kinetic/対実弾)装甲が有効である。

 C属性と称される化学合成エネルギー武装は、成形炸薬式対戦車榴弾(high‐explosive anti‐tank)の略であるヒート(HEAT)弾のことを指している。ヒート弾は標的への着弾と同時に内蔵火薬の爆発エネルギーを一点に集中させ、そこで生じさせた超高温のメタルジェットと呼ばれる金属噴流で標的を貫く、貫通力の非常に高い攻撃手法だ。

 C属性に対抗するには、装甲の間でメタルジェットを拡散させる特殊複合装甲からなるAC|(anti chemical/対成形炸薬)装甲が有効である。

 T属性と称される熱エネルギー武装は、高出力のレーザーを凝集させて発射し、標的を熱量で昇華させる光学兵器を指している。レーザーによって融解した素材はプラズマ化して急激に体積が膨張し、プラズマ爆発と呼ばれる破壊現象を引き起こす攻撃手法である。

 T属性に対抗するには、融解やプラズマ化を抑える重量級の冷却機構を追加したAT|(anti thermos/対熱)装甲が有効である。




 一応の完成を迎えたライトレッグのCAは、全高七メートルのスマートな、最新鋭の戦車を想わせる鋭いシルエットをしている。

 メンテナンスハンガーからエプロンハンガーへ移された機体を見上げ、早く実際に動かしてみたいと、恭一郎は思いがけず自分自身の胸が高鳴るっていることに驚いた。


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