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相棒と設定

『これより、当基地の保有戦力を報告いたします。オールド・レギオン主力コネクティブ・アルファ。機体モジュール一式、八機種各一機分。専用武装。ライトウェポン、九種一八基。ミドルウェポン、一七種三四基。ヘヴィーウェポン、一四種二八基。トゥハンドウェポン、一基。バスタードウェポン、一基。エクステンド、一一種各一対。対応兵装の弾薬及び触媒コンテナ、各一基。以上となっております。続きまして、各モジュールの詳細な――』

 カタログデータの表示された画像を使って、ミズキが丁寧に説明を行ってくれた。モニターの映像に合わせて、小型パネルが詳細な情報を日本語と英語を主とした文字とパラメーターグラフで表示してくれている。未知の言語ではなくて一安心だ。

 そしてコネクティブ・アルファという単語には、とても心当たりがあった。昨日父が、『若いころに発売されたゲームに登場する戦闘機械の総称だ』と言っていたのだ。それと同時に、今日からのアルバイトは、リバイバルさせたコネクティブ・アルファの続編だと聞いている。昨日は過去の作品の一つを実際に遊んでみて、シリーズの雰囲気を確かめた記憶がある。

 コネクティブ・アルファとは、早い話がプラモデルのように組み替えが可能な戦闘用機械だ。各所を繋ぐコネクターが全て共通の規格で造られているため、複数あるカテゴリーのパーツを選択して組み合わせることによって、自分だけの機体を簡単に組み上げることができる。パーツを交換するだけで、すぐに状況に対応することも可能となっていて、その組み合わせは膨大な数に及ぶ。

 タイミング的に、これも父からの贈り物と考えて良さそうだ。

『追加のモジュール及び弾薬などの補給物資を、総司令部へ要請しているのですが、未だに外部との通信が成功しておりません。有線・無線・衛星回線共に、完全に沈黙ちんもくしております』

「味方と連絡が取れないのか?」

『送受信共に、反応がありません。無線と衛星に関しては、味方の通信制限や封鎖ふうさ、敵の妨害などで説明が付きます。ですが、非常用の有線の場合は、途中で物理的に断線でもしない限り、通信が可能なはずなのです……』

 どうにも、雲行きがあやしくなってきた。非常用回線が、どこかで断線している可能性があるようだ。

 ついさっきまで休眠していた基地に対して、敵対勢力が通信妨害のような回りくどい攻撃を仕掛ける必要性は低い。基地の完全な破壊か、無傷で接収せっしゅうしているはずだ。でなければ、機体や武装だけを持ち出して、基地自体を放棄していてもおかしくない。その際、基地の破壊や再利用の是非ぜひは、敵味方の双方そうほうが決断しているはずだ。もしくはこの基地が、初めから勘定かんじょうに入っていなかった可能性も否定できない。

 ともかく、基地がまったくの手付かずだったという状況で、通信のみが不通というのは、理解に苦しむ。

「その非常回線は、どのように敷設ふせつされている? 場所によっては、俺が直接調べに行けるかもしれない」

『そのお申し出は非常にありがたいのですが、基地の地下から泥炭でいたんの地中を抜けて、湖沼こしょう地帯の水底にケーブルが埋設まいせつされています。専用機材と作業人員の確保できていない現状では、とても危険です』

「泥炭に湖沼だって? この基地は、湿地帯しっちたいの中にあるのか?」

『その通りです。ここは、ノースフィールズ湿原しつげんの、グリッド一〇五〇地点に建造されています。ゲートは全て水面下に偽装ぎそうされた状態となっており、解放時にのみ水面から上に浮体ふたいする構造となっています』

 どうやらこの基地施設は、湿原の地下に建設されていたようだ。それが今や、断崖絶壁に挟まれた谷の底にある。とても地殻変動ちかくへんどうでは説明の付かない、まったく別の場所にある。

 恭一郎の予想が正しければ、間違いなく非常回線は基地の周辺で、空間的に切断されてしまっているはずだ。

「ミズキ。可及的速かきゅうてきすみやかに、基地周辺の状況を確認しろ。可能な限り、詳細なデータが必要だ」

『命令を実行いたします……。偵察用カメラ起動……。基地周辺の地形情報に、深刻な齟齬そごが発生しています! 基地の上に、正体不明の建造物を確認しました! これはいったい……!?』

 予想は確定だった。こちらも、転移してきたクチだったようだ。

「ミズキ。君の気持は、痛いほど解るぞ」

 それから恭一郎はミズキに対して、今朝からの出来事を簡単に説明した。さすがに父が死んで、自称ではあるが神になってしまったこと。その父がこの世界を作ったことなど、ミズキにとって荒唐無稽こうとうむけいす極まる内容は、恭一郎の胸の内に仕舞っておく他になかった。

『現在の状況は、理解いたしました。にわかかには、信じられませんが……』

「今はそれでいい。想定外の事態だからといって、パニックになる必要はない。敵襲のような、差し迫った事態もなさそうだからな。まずは、現状を正しく認識することだ。何が可能で、何が不可能か。何をどれだけ保有していて、どれほどの期間過ごせるのか。冷静に再確認しよう」

 不測の事態に直面した時、まずは身の安全を図るための行動を起こす必要がある。今回のような特異な場合では、自宅にあるものだけで、今後起こりうる問題に対処しなければならない。

 重要なライフラインの一つである電気に関しては、今のところ電源設備が正常に稼働しているので問題ない。水に関しても、屋上の貯水タンク内の水は、充分に確保されているだろう。問題は、地下水の汲み上げ用ポンプが機能を果たしているか、まだ調べていないということだ。これからの生活に必要不可欠なこれらの情報は、今日中に調べておく必要がある。

『承知いたしました。――司令はこのような異常事態であっても、冷静さを保たれておられるのですね。尊敬そんけいいたします』

「買いかぶり過ぎだ。元々、自宅が自然災害などで孤立化することが想定されていて、常日頃つねひごろから備えをかしていなかっただけだ。その一環いっかんで、長期間の孤立状態でも生活できるように、父から様々な訓練を受けさせられてきた。その効果が出ているだけに過ぎない。まさか、このような形で必要になるとは、今日まで思いもしなかったがな……」

 恭一郎は父源一郎より、自宅へ通じる山道の寸断を想定した、サバイバル訓練を受けている。早ければ数日、長くても一年で道が開通するという想定で、被災生活の訓練を行ってきた。その中には、緊急性の高い医療品いりょうひんなどを入手するために、山の中を最も近い人里まで、徒歩で移動するという訓練も含まれていた。

 だが異世界では、最も近い人里が、どこにあるのかも分からない。気候も厳しい寒さ以外は、一から観測しなければ、天気の予測すら難しい。日本の山ならば、どのような危険生物が生息しているかは、訓練の成果で大体把握だいたいはあくしている。現在の自宅周辺には、身の危険を感じるような生物の姿は確認されていない。だが、水辺や森の中にどのような生物が生息しているかは、未だに不明だ。

 どこぞのロールプレイングゲーム(RPG)やダンジョンクエストゲームのように、ヒノキの棒やバターナイフ程度の装備で、初期のエンカウントモンスターと戦える保証はどこにもない。いきなりボスクラスが現れて、一瞬のうちに殺されるかもしれないからだ。

 死亡前提のゲームのようなマゾプレイをする予定もないので、今は石橋を叩いて渡る慎重しんちょうさが必要だ。

『随分と、慎重な性格の御父君でございますね』

「色々と苦労したらしいからな。それと、ミズキの認識で、俺は司令官となっているようだが、これでも昨日までは一般人で学生だったんだ。あまりかしこまった言葉使いは止めてくれないか。堅苦かたくるしくて話しづらい」

『分かりました。対外的に問題がない場合、フランクに行きましょう』

「ミズキが優秀で、助かったよ」

『当然です。馬鹿に基地の管制は、荷が重いですから』

 なかなかに、歯に衣着きぬきせぬ物言いだ。内心は不安が渦巻うずまいていた恭一郎にとって、話の分かるミズキは、好ましい相棒になってくれそうだった。




◇◆◇◆




 父の仕事部屋だった基地の司令室において、恭一郎とミズキは互いの情報を交換して現状の把握を図った。互いに別の場所からやってきた存在であり、互いに協力してこの状況を乗り越えるということで、双方の意見は一致した。

 さすがの恭一郎も、父から受けた訓練の中に、コネクティブ・アルファの管理・運用は含まれていない。あくまでも非常時のサバイバル訓練が中心で、他は応急救護おうきゅうきゅうご講習会こうしゅうかいに参加した程度である。

 ミズキとの協力は、この場において当然の帰結きけつだった。

 恭一郎とミズキはまず始めに、地上にある恭一郎の自宅の現状把握から取り掛かることにした。

 司令室以外の烏丸邸と回線が繋がっていないミズキの移動用端末として、父のスマートフォンを基地のネットワークに接続してシステムに改良が加えられ、基地のコンピューターと直接回線が繋げられるようになった。そのスマートフォンから恭一郎のスマートフォンに回線を繋ぎ、内蔵されているカメラとマイクで一緒に情報を解析かいせきすることになった。




 自宅屋上。

 本来ならば、地上四階となる部分だったのだが、一階部分が基地との合体で地下化したことで、現在は三階の高さに下がってしまっていた。

 屋上には太陽光発電装置、垂直軸すいちょくじく風力発電装置、貯水タンク、空調の室外機、衛星放送用アンテナなどが設置されている。発電装置は地下の蓄電ちくでん設備と繋がっていて、非常用電源としての役割が与えられている。貯水タンクにも改良をほどこせば、簡易的な揚水ようすい発電が可能となる代物だ。




 自宅旧三階。

 烏丸親子の寝室及び物置などの、プライベートな空間となっている。

 物置には有事に備えて、多くの日用品と道具類が納められており、日曜大工程度までなら、自宅の修復が可能になっていた。また、未稼働の小規模水耕栽培プラントは、すぐにでも使える状態に整えられていることが判明した。




 自宅旧二階。

 台所、食堂、居間、応接間、客間、風呂場、洗面所などの生活空間となている。

 烏丸邸は土砂災害対策として、この階に頑丈な合金製製の玄関扉があった。そのため、一階部分が地下に沈んだ影響で、玄関が閉ざされるという事態は回避されていた。




 自宅旧一階。

 本来であれば土砂災害対策として、開口部のない閉鎖された階層であった。

 ここには、父の仕事部屋と食料貯蔵庫がある。現在、仕事部屋に関しては、基地の司令室と同一化されている。

 食料貯蔵庫は常温・冷蔵・冷凍の三つの区画に分けられており、それぞれ大量の食材が貯蔵されていた。元々親子二人で、長期間の孤立化を想定してあっただけに、恭一郎が昨日補給したばかりの備蓄は、効率よく消費して行けば四年以上は確実に食い繋いでいけるだけの量が確保されている。

補給の絶たれた現状は、この食料の備蓄量が、恭一郎の生存限界の残りカウントとなる。




 自宅旧地下階。

 ここには、地下駐車場、上下水道設備、蓄電設備、焼却炉などの大型重量物が設置されていた。

 現在はコネクティブ・アルファ|(以後CAと呼称)のガレージがその大部分を占めており、地下駐車場に止めてあった自家用車の小型多目的スポーツ車(SUV)は、CA運搬用の大型キャリアーに置き換わっていた。

 上下水道施設は、地下水の汲み上げポンプに重水素収集装置じゅうすいそしゅうしゅうそうちが取り付けられており、基地とCAの燃料供給プラントとして稼働していた。加えて、電気透析装置が稼働しており、真水を生産している副産物として、塩分を含む地下水からミネラル塩が得られた。

 下水処理施設は、特に変更点が見当たらなかった。

 蓄電施設は屋上の発電装置からだけではなく、基地の主機である大深度地下のプラズマ動力炉と補機の小型原子炉にも接続されていて、その蓄電性能は地球の現代科学の技術水準を軽く凌駕りょうがする、とても高性能な設備に変貌へんぼうげていた。

 焼却炉はあくまでも非常時用の可燃物専用焼却炉であったものが、重水を利用したプラズマ焼却炉に置き換わっていた。設備の大きさこそ、日本で設置したモノより多少大きい程度だったが、炉内に入れることさえ可能ならば、いかなる廃棄物も安全に無害な状態まで分解して、焼却できる性能を持っていた。炉内が恒星こうせいのようになるのだから、悪に渡してはならない代物だ。




 続いて、オールド・レギオン第一〇五〇秘匿基地の現状把握に取り掛かる。




 司令室。

 父源一郎の仕事部屋と同一化してしまったこの部屋は、ガレージを見下ろすことが可能なように、間取りの一部がガレージの中に突き出していた。司令室には機体シミュレーターが設置されていて、このシミュレーターから直接、機体の組み上げ指示が出せるようになっている。

 司令室の隣にはコンピュータールームがあり、ミズキの本体である主管制人工知能の格納された機械が、こちらに設置されていた。




 ガレージ。

 天井までの高さは一五メートル、横幅が一〇〇メートル、奥行きが三〇メートル。機体の組み立て及び整備用のメンテナンスハンガーが二基あり、駐機用のエプロンハンガーが一〇基あった。ガレージの端はコンテナ置き場となっていて、CAの機体や各種武装が、カテゴリーごとに分けられて保管されていた。

 ミズキの所持していた搬入物資の一覧表と、現物を一つずつ確認していく作業を行う。

 組み上げ可能なCAは、タンク(無限軌道)、フロート(疑似浮遊)、ライトレッグ(軽量二脚)、ミドルレッグ(中量二脚)、ヘヴィーレッグ(重量二脚)、トライフォワード(突撃三脚)、トライリープ(跳躍三脚)、フォーレッグ(砲撃四脚)の計八機。

 機体に取り付けられる拡張装置のエクステンド、動力炉・冷却装置・蓄電装置が一体化したパワーパック、火器管制装置のFCS、加速推進装置のブースターも、状況に合わせて換装が可能な状態だった。

 ここで夜になってしまったため、本日の作業はここで一端打ち切りとなった。


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