プロローグ
「ふむ、やめにしよう」
とどめを刺すタイミングで俺は勇者から切っ先を引いた。魔王と勇者の白熱のバトルが期待できると思ったが蓋を開けてみれば俺の一方的なワンサイドゲーム。こんなのつまらない。
「勇者よ。名前はなんと言ったかな?」
「ーーー何故トドメをささない、情けのつもりか?」
今にも俺を視線で殺せそうなほどの殺意を向けられて少しだけ表情を緩めてから俺は言った。
「それだけの元気があれば俺を殺すことくらいは出来るか、なあに、貴様が思いの外弱くてな。まさか最後の勇者がここまで弱いとは思わなかった」
かれこれ数千年、何千何万と勇者と戦い時には自らの手で育ててきてのだが、これほど弱い勇者は初めてだ。だが、おそらくこれが人間にとっての限界なのだろう。ならば仕方ない。
「最後の勇者よ。貴様に俺を殺すことを許可しよう」
「ーーー!どういうことだ……」
「文字通りだ。俺を殺せ。案ずるな魔力で防ぐことはしないし、貴様のその聖剣で俺の心臓を一刺しすれば俺は確実に死ぬだろう」
不死身の魔王などと言われてはいるが、一応の救済措置として弱点は作っておいた。それですら人間にはハードルが高いのだからこのゲームはそろそろ終わらせるべきだろう。
「さあ、最後の勇者よ。俺を殺し英雄となるといい。生憎と俺を殺しても魔物が人間を襲うのは止まらないがな」
「ふざけるな…お前が魔物を操ってるんだろう!お前が母さんを殺した魔物の主なんだろうが!」
「ふむ、もちろん違うがそれで貴様が納得するなら肯定しよう」
復讐の炎に身を焼かれる勇者とはなんとも哀れなものだが…しかし、最後がこやつのような輩で少しだけ安心する。大切なものを守る人間というのは見ていて気持ちがいい。これからこの勇者には他の魔王からの洗練があるだろうが、この勇者はそれされも復讐の炎で燃やしつくすのだろう。
(まあ、それが見られないのはいささか残念だが…しかし、そうだな。せっかくだ。次のゲームはこやつが作った未来で行うとしようか)
最後の力を振り絞ってこちらに刃を向けてくる勇者。その聖剣が俺の心臓を貫くのを確かめてから俺は少しだけ微笑んで言った。
「さらばだ、弱く美しい勇者よ。俺は貴様に敬意を抱く。その活躍は来世で見せて貰うとしよう」
ギンと鋭い視線を向けてくる勇者に微笑みながら俺の意識は消えていく。目覚めればおそらくこの時代からかなり先の未来にいるのだろうが………せっかくだ。次のゲームは面白くなることを祈るとしよう。