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雪嫌いのハスキー犬

作者: 文の練習生

シベリアン・ハスキーという犬種は、寒さに強いものとばかり思っていたが、わが家の犬は違った。


「あんた、クロを早く入れてやんなさい」


雪は音をたてないので、降り出してもすぐには分からない。

普段は外飼いをしているクロがそれを察知すると、庭に面した窓の網戸を掻いて鳴らす。

母がそれに気づいて、私にお鉢が回ってくるという寸法だ。


「寒かったな、ほら入っていいぞ」


使い古しのバスタオルを二枚、ひとつを縁側の床に敷き、もう一枚で体を覆って水滴を拭いてやる。

昔からクロは大人しくて、家にあがらせても暴れたためしがなく、自分の立場を弁えているのか、敷かれたタオルのうえに寝転ぶというのがお決まりだった。



クロという名前は、父の付けたものだった。

尤も直接の由来は、私にある。


大学卒業を控えた頃、てっきり私が一人暮らしをはじめるものと思いこみ、母が犬を飼いたいと言い出したのだ。

種類はシベリアン・ハスキーくらいの大きめのものが良いと、そこまでは思い描いていたが、細かい拘りは無かったようで、ペットショップでの最終的な吟味は、私に任せる事となった。


そして、講義やゼミの無くなった暇な私と、犬のほしい母とで、父の仕事休みに日程をあわせ、家族総出で犬を買いに向かった。



ペットショップとは言っても独立した建物ではなく、量販店の一角を占めるこじんまりとした店だった。

店の奥にある壁一面には、長方形に区分けされた小さなガラス張りの部屋がいくつも並んでいて、さまざまな犬猫がおのおのの過ごし方をしていた。


豆柴が裏手にいる店員へ元気そうに尻尾をふる、その隣のロシアンブルーの子猫は、前足をなげだして熟睡していた。

各人というか、各動物の各様の姿に見いっていると、手前にいた上目遣いのトイプードルと思わず視線を合わせてしまった。

気をとりなおして、目当ての犬を探す。

当時のこの店舗にはシベリアン・ハスキーの仔犬が、三匹いた。


「どの仔がいいかしらね」

「それほど大差ないだろう。早く買って引き上げるぞ」


洋服でも選ぶように楽しげな母を、無関心だった父が急かす。


「拓也、あんたはどの仔が好き?」


それまで私はシベリアン・ハスキーといえば、立ち耳でお腹の毛が白く、頭から背中にかけては黒い、くらいの認識しかもっていなかった。

ところがここへ来て、重要な特徴を見出だしていた。

目が怖く、大人びた表情にもみえるせいで、仔犬を見にきたはずだった私は、ただならぬ違和感を覚えていた。

だが一匹、クロだけは違っていた。

異国をおもわせる青い瞳ではなく、馴れ親しんだ日本人の目の色に近い、黒い目をしていた。

黒目がちのクロ。


帰宅してから、私の即断の理由を尋ねてきた父が、じゃあそのまま拝借と、このハスキー犬を名付けたのだった。



--お前が寒さに強くないのも、その顔が、ロシアのシベリアの人々ではなくて、日本人に似ているせいかもしれないな。

そんな考えに思い至ったとき、縁側のタオルのうえで丸まり伏せていたクロが、ふと私の顔を覗きこんだ。

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