和音くんと玲ちゃん
放課後の教室。
「田村くん、ちょっと良いかな?」
憧れの女の子、城島さんに話しかけられて、心臓がドキリと跳ねた。
「なんだい?」
平静を装いながら返事を返す。
「あのね、その……」
誰もいない教室。
言いにくそうな彼女。
もしかしてこのシチュエーションは……こ、告白ってやつですか?
「この前井ノ上くんと、その……」
違った。
「井ノ上がどうかしたかい?」
沈んだ心を微塵も見せずに俺は城島さんにそう返す。
「えっとね、井ノ上くんにお買い物付き合って貰ったんだけど」
井ノ上と城島さんが買い物!?
「城島さんと井ノ上って付き合ってたのか」
思わず口からこぼれた言葉に城島さんは違うよ!と慌てて否定した。
「井ノ上くんはちょっと相談に乗って貰っただけっていうか……とにかく違うの!」
顔を真っ赤にして否定する城島さんを見て、あぁ井ノ上が好きなんだろうな。と思った。
「うん……それで、どうしたんだい?」
だからまぁ、平静を装えなくなってきたわけだけれど。
好きな子の好きな人が親友……。
井ノ上との橋渡しですね、わかります。
応援出来るさ……してやるさ。
「あ、うん。それでね」
と城島さんは話を続ける。
「これ……田村くんに」
そう言って城島さんは少し大きめの箱を俺に差し出した。
うん、田村くんに?
田村くんって、俺のことだよな?
「……俺に?」
ポカンと城島さんの顔を見ながら尋ねる。
その顔は、かなり間抜けに違いない。
「この前、ヘッドフォンを壊したって言ってたから」
井ノ上くんが選んでくれたんだ。と言って城島さんは曖昧に微笑んだ。
「あ、ありがとう」
そう言って俺は城島さんから箱を受け取る。
中には濃い青色のヘッドフォンが入っていた。
「似合うかな?」
さっそく付けて、城島さんに尋ねる。
「うん、似合うよ」
そう言って嬉しそうに笑う城島さんを見て、俺の心臓が大変なことになった。