幸くんと空ちゃん
雨が降っている。
傘も差さずに立ちすくむ私に、通りがかった人たちは奇異の目を向ける。
傘なら持っていた。
鞄の中に猫の付いた可愛らしい折り畳み傘があった。
だけどそれを差す気にはなれなかった。
「雨宮、こんなところにいたのか」
星降が安心したような顔で私に近付いてくる。
私はぼんやりとそれを眺めた。
星降の傘で、雨が途切れる。
ポタポタと私の髪から落ちた滴が、星降の服に落ちた。
「びしょ濡れじゃないか」
咎めるようなその声に、私を心配する色が混ざってる。
「放っておいて」
私は心配する星降の手を振り払い、再び雨の中へ戻った。
「待て、雨宮!」
星降が追いかけてくる。
追いつかれないようにスピードをあげようとして、私は水たまりに足を取られた。
派手な音を立てて泥水が跳ね上がる。
「雨宮!」
泣きそうな私を、追いついた星降が抱き起こした。
「大丈夫か?」
心配そうなその顔に泥水をかける。
「私に構わないでよ!」
半分泣きながらそう言ったのに、星降は泥水なんか気にもしないで私を抱き締めた。
「泣くなら、俺の胸で泣けよ」
「泣いてない!」
「嘘つきだな、雨宮は」
ふっと小さく笑って力強く抱き締める。
その腕が暖かくて私はさらに涙を流した。
「あんなに好きだったのに!」
「ああ……」
「私、いっぱい頑張ったのに!」
「そうだな」
意味の分からない単語を叫ぶ私の頭を星降は優しく撫でる。
「私、馬鹿みたいじゃない!」
「そんなことない」
ずっと肯定していたのに、初めて否定された。
「雨宮が頑張っていたのを、俺はちゃんと知ってる」
私の顔を真っ直ぐに見て、星降ははっきりとそう言った。
「あれは雨宮を振った方が馬鹿だったんだ」
真剣なその声に、私の心臓がどきりと跳ねる。
「そうだろ?」
そう言って微笑んだ星降に、私は何回も頷いた。
「次は俺にしとけ」
ふっと笑いながら星降が言う。
そんな星降に私は何も答えられなかった。