猫ちゃんと遥香くん
夕暮れに染まるグラウンド。
そこで彼女はボールを蹴っていた。
たった一人で、そこに何か救いを求めるかのようにただ一心に。
「猫さん」
呼びかけると、彼女は僕を振り向いて微笑んだ。
「今日は練習お休みだよ」
そう言って俺に話しかけながらもボールを蹴るのはやめない。
「猫さんこそ、練習お休みですよ」
俺がそう言うと猫さんは、一緒に練習しよっか。と笑った。
「いえ、俺は……見てます」
「そう……?」
少し残念そうに猫さんは言う。
「ええ、すみません」
「大丈夫!練習してくるね!」
そう言って駆け出す猫さんを見送る。
猫さんは女子だから、練習試合にしか出られない。
女子だからと変に手加減する人間もいれば、逆に弾きだそうとする人間もいる。
どれだけ頑張っても彼女の力を示す場所はないのに、それでも彼女はサッカーを選んだ。
「強い人ですね」
ぽつりと呟いても、彼女には届かない。
誰にも……聞こえない。
「きっと一人になっても、あなたは戦い続けるのでしょうね」
否、最初から彼女は一人だった。
そして恐らく、これから先も……。
「高野くん、やっぱり一緒にやろうよ!」
笑顔で手を振る彼女に、俺も笑顔を返した。
孤独な彼女の力に、少しでもなれたら良いと思った。