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智史くんと里沙ちゃん


「なんなのお前……?」


食堂の一角、正面の席で頭を抱えながら、智史はそう呟いた。


「……美少女?」


とりあえず智史の質問に答えながらカツ丼に箸をつける。

ちょっと冷めているが食べられないほどではない。

美味しいとは、とてもではないが言えないが。


「美少女……美少女ですか……はいはい、美少女ね」


馬鹿じゃねーの?と言いながら智史はパチンと割り箸を割って、私のカツ丼と同程度冷めたであろう焼き魚定食に箸をつけた。


「確かに私の成績は下から数えた方が早い」

「そう言うこと言ってるんじゃないから」

「……」

「俺に関わるなって言ったよな?」

「言ったね」

「じゃあ何で朝迎えに来たの?何で一緒に登校してんの?何で普通に話しかけてくんの?何で一緒に飯食ってんの?」


矢継ぎ早に質問する智史の言葉には呆れたような疲れたような気配はあっても怒りはない。

そういう人だ。

あまり怒りが持続しない、すぐに人を許せる優しい人なのだ。


「智史の命令に従う義務は私にはない」

「さようですか」


だから私は智史の親友と体の関係を持った。

わざとバレるように浮気したのだ。

智史が怒り狂うところが見たくて。


「じゃあ、改めてお願いするから二度と俺に関わらないでくれるか?」

「同じクラスだから無理だと思うけど」

「……必要最低限にとどめる努力くらい出来るだろ」

「何で?」

「何でって……わかるだろ」


わからないと答えると、智史は少しイライラしたように魚をつついた。

わあ、怒ってる。

智史が怒っているのを見るのは二回目だ。

この人、声は大きいしすごく騒がしいけど全然怒らないから。

智史を怒らせることが出来るのは、私だけだ。

私だけが、彼を怒らせることが出来る。


「なんなのお前?」

「美少女」


さっきとおなじような質問に、同じように答える。


「あっそ……」


智史はそういうと黙々と魚を食べ出した。

これ以上私と会話する気は無いのだろう。


「今日はいい天気だね」

「……」

「6時間目の体育は外だったっけ?」

「……」


さっさと食べてここを去ろうという算段か、私がどれだけ話しかけても智史は返事をしない。

たぶん、食べづらい魚を頼んだ後悔してると思う。

それほど食べ方が綺麗ではない智史だが、今日はいつも以上に魚がボロボロである。


楽しい。すごく楽しい。


いくら智史と言えど、私とその浮気相手である八木くんを許すことは無いだろう。

普通の神経を持つ人なら、当然だ。

だとすれば智史に関わり続ける限り、智史の心は私の物だ。

智史が誰と過ごしていても……例えそれが新しい彼女だったとしても、そこに私が現れれば彼の気持ちは私に向くに違いない。

怒りはせずとも不快に思うはずだ。

どれだけ楽しい時を過ごしていても、私が視界に入るだけで不快になるだなんて、何て素敵なことだろう。


「ふふ……ふふふふふ……」


思わず笑みがこぼれる私に、智史は怪訝な顔を向けるだけだった。



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