勇くんと綾希ちゃん
「彼氏がほしいです……」
部室でダラダラしていたら、幼なじみの綾希が唐突にそう言った。
「……作れば?」
そう答えた俺に、どうやって作れっていうんですか?と綾希は言う。
どうやっても何も普通に作れば良いじゃないか。と言う俺に、綾希は深くため息を吐いた。
「無理ですよ」
「なんで」
「私と勇さんが付き合ってるって噂が流れてるからです」
そうして、そんなとんでもないことを口に出した。
「はぁ?!」
驚く俺に「やっぱり気付いてなかったんですね」と綾希は言う。
「幼なじみで登下校は一緒。同じ部活の上、部員はたったの二人。……さて、勇さんはそんな男女を見てどう思います?」
「……付き合ってるんだろうな。と思う」
「でしょうね」
私たちも付き合ってると思われてるんですよ。と言う綾希に聞こえないように、俺は迷惑な。と呟いた。
「こっちの台詞ですけど?」
ギロリと俺を睨み付けながら、綾希は言う。
綾希は地獄耳だ。
「勇さんが彼氏だなんて最悪ですよ……」
ありえないと言わんばかりにため息を吐く綾希。
「ありえないですよね」
言わんばかりどころか口に出した。
「まあ、ありえないな」
確かにありえないので仕返しのようにそう言うと綾希は「ですよね」と普通に返した。
全く堪えていない綾希に、少しだけ悔しくなる。
しかし、兄妹のようにして育った綾希に対して恋心を抱けないのは俺も同じだったので、それ以上は何も言わなかった。
「彼氏がほしいです」
「作ればいいだろ」
「勇さんは彼女欲しくないんですか?」
「彼女か……」
そう呟きながら、綾希に目をやる。
彼女が出来たら……登下校は彼女として、休日は彼女とデート。
もし彼女が綾希と二人っきりになるのを嫌がれば、部活もやめなくてはいけないだろう。
そうしたら綾希は、一人でこの部室にいるのだろうか?
そんなの寂しすぎる。
「綾希が寂しがるからいらない」
そう言った俺に綾希は「気持ち悪っ」と言って顔をそらした。
夕日のせいか、顔が赤くなっているように見えた。




