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昴くんと奈津さん


「おはようございます」

「おはよう昴くん」


毎朝あいさつをする近所の家のお姉さん。

彼女は最近、俺の家の隣に建つアパートに引っ越してきたばかりだ。

一緒に住んでいる男の人はきっと彼氏なんだろう。

時々一緒にいるところを見かけては、もやもやとした気持ちを抱えている。

これは恋心なのだろうか?

それともただの憧れなんだろうか?

よく、分からないけれど。


「あ、昴くん」


彼女の声を聞くと、胸が高まるのだ。


「あ……こんにちは」


ウルサいほど鼓動が鳴り、顔が赤くなる。


「こんにちは。今帰り?」


にこりと笑う彼女に、はい。と頷いた。

じゃあ、一緒に帰ろうよ。という彼女に俺は再び頷き彼女と並んで歩き出す。


「荷物、持ちましょうか?」


重そうな買い物袋を下げた奈津さんに、俺はそう尋ねた。


「ありがとう。昴くんは優しいね」


微笑みながら差し出す奈津さんから袋を受け取りながら、たいしたことでは……と言葉を濁した。

褒められて嬉しい。

自分はこんなにも単純だっただろうか?


「この町も変わったね」

「そうですか?」


奈津さんと何気ない話をするのも嬉しい。


俺に彼氏の話をしないでくれることも。


「うん、10年くらい前に何回か来たことあるだけなんだけど、随分違う気がするよ」

「10年前に、何をしに来たんですか?」


あと少しで家が見えると言うところで、俺は奈津さんに尋ねた。


「戦いに、かな?」


「戦い?」


「この辺で大きな将棋の大会があったんだ」

「将棋……ですか?」

「子どもから大人までフリー参加の将棋大会でね、全国放送されるほど大きな大会だったんだけど……若い子は知らないかぁ」


その頃は昴くん幼稚園児だもんねぇ。と言いながら彼女は俺の頭をそっと撫でた。

子ども扱いされているようで腹が立つ反面、嬉しい気持ちもあるから複雑だ。


「荷物ありがとう。またね」


そう言って手を振る奈津さんが家に入るところまで見届けて、俺は再び歩きだした。


「将棋の大会、か」


30秒と経たずにたどり着いた自宅の扉を開けながら小さくつぶやく。

彼女のことがもっと知りたくて、少しだけ調べてみようと思った。




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