健くんと猫ちゃん
急に寂しくなった。
猫を抱きしめたいと思った。
目の前に猫の背中がある。
手を伸ばせば届く距離に、猫がいる。
もしここにいるのが俺と猫だけだったなら、俺は猫を抱きしめていたに違いない。
だが残念ながら、ここは部室だ。
しかも今日は雨で練習が出来ないから、ほとんどの部員がいる。
「高野くんダウトー」
「な、なんでわかったんですか?」
「沢田が全部持ってるんだろ?」
星降と高野と楽しそうにトランプをしている猫を眺める。
今抱きしめたら猫は嫌がるだろう。
小さくため息を吐いたが、誰も気にとめるものはいなかった。
それが更に俺の心に寂しさを募らせる。
「猫……」
自分にしか聞こえないくらいの声音で猫を呼ぶ。
当たり前だが猫に届くわけもなく、猫は振り返ったりしなかった。
「……」
当たり前のことなのに傷ついている自分がいた。
こんなに自分を追い込んで、俺はどうしたいのか。
あと2、3時間もすれば猫と二人きりになれるというのに。
それまで我慢すればいい。
「っ!?」
そう思っていたのに、気がつけば猫は俺の腕の中にいた。
「健くん?」
猫の肩に顔を埋めるようにして後ろから抱きしめる俺に、猫は不思議そうに声をかける。
「恥ずかしいから離して欲しいな」
と言う声を無視して、俺は腕が食い込むほど強く猫を抱きしめた。
猫の髪に顔を埋めると、いい匂いがした。
さっきまで寂しくてしかたなかったのに、安心感からか少し眠くなってきた。
「佐倉、沢田。いちゃつくなら帰ってからにしろ」
「ご、ごめん……」
ウトウトとする俺の耳に星降と猫の声が聞こえたけれど
意味を解する前に俺は夢の中に落ちていった。




