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幸くんと空ちゃん


「お前ら、ずっと名字で呼び合ってるよな」


佐倉に言われてから、俺は空を名前で呼ぶようになった。

だが、空は俺をいまだに「星降」と呼び捨てにする。


「いつまで星降なんだ?」

「……え?」


学校の帰り道、唐突に投げかけられた質問に、空は戸惑ったような顔を俺に向けた。


「名前で呼んでくれないのか?」


そう言うと、空はうーん……と小さく唸る。


もしかして俺の名前を知らないんじゃないかと怪しんでいるんだが……と言うと、空は慌てたように首を振った。


「知ってるよ!幸でしょ?」


そう言った彼女に少し安心しながら俺は頷く。


「今日からそう呼んでくれ」


そう言うと、彼女は困ったように曖昧に微笑んだ。


「星降じゃダメ?」


甘えたような声を出す空。


「ダメだ」


俺はそれをきっぱり切り捨てた。


「なんでダメなの?」

「呼んで欲しいからだ」


そう言うと、空の顔が一気に赤くなった。

何か変なことを言っただろうか?


「どうしても?」

「どうしてもだ」

「そっか……」


もじもじしながら彼女は俺を見る。


あまり恥ずかしがられると、俺まで恥ずかしくなるじゃないか……。


「こ……」


空は俺の名前を呼びかけ……


「やっぱりダメだー!」


唐突にそう叫ぶと走って逃げた。


「空!?」


慌てて追い掛けて空の腕を掴む。


「ただのマネージャーが……サッカー……部、に勝て、るわけない……か」


息も切れ切れに空が言う。


「なにを馬鹿なことを言ってるんだ……」


こんな短い距離で息切れする空を心配しながら、俺はため息をつく。


「空」


「……呼ばなきゃ、ダメ?」


荒い息を吐きながら俺を見上げる彼女。


「……ダメだ」


妙に色っぽいその姿に躊躇いながらそう言うと、空は「むぅ」と小さく唸った。


「どうして呼んでくれないんだ?」

「だって恥ずかしいもの」

「……そうか」


少しがっかりしながら、下を向く。


「空が嫌なら、仕方ない」


そう言って再び歩き出すと、空は慌てて俺を追い掛けてきた。


「嫌じゃないよ?」

「さっき散々嫌だと言っていたじゃないか」

「それは、そうだけど……」


しょぼんとしながら空は俺の横を歩く。


「あの、ね……恥ずかしいだけなの」


嫌じゃないよ?と見上げる空の頭を、俺は優しく撫でた。


「大丈夫だ。ゆっくりでいい」


そう言って、空に微笑むと、空は小さく頷いた。


「ありがとう幸」


耳まで赤くなった彼女がそう呟いたのは、それから30秒ほど経った後の話。




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