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空の王。

「おい……! あ……ねぇか!?」


周囲の声がうるさい。まだ疲れてるんだ、寝させてくれよ……


「いつ……早……過ぎるな、急……しろ!!」


……目が覚めてきてしまった。途中までは途切れ途切れに聞こえていたのが、最後の方は完全に聞き取れてしまった。


「何事……?」


「さわがしいですねぇ……」


上体を起こそうとした瞬間、雛が上体を起こし、眠そうに目をこすりながら外へ向かうのが見えた。……おい、いくらなんでも男と女を同じ部屋にすんじゃないよ、間違い起きたらどうすんのさ……起こさないけども。


「適当に投げ込んだろあの人達、本当びびったわ……」


眉間を押さえながら立ち上がると、何故か体の左側が軽い。不思議に思い、そちらに目を向けると義手が外されていた。


「あー、結構ガタが来てたからなぁ……純白から真紅に変わったのもあるんだろうけど。あれのお陰で龍化しても少しは隻腕ってバレなくなった……わけないか」


正直あれでバレなくなるなら赤く塗った方が手間はかからないと思う。


「じゃ、ちょっと出てみますか……」


右手に剣を持ち、扉を開けて外へ出ると、朝にしては暗かった。雲っているのだろうかと空を見ると、案の定曇っていた。


「にしても暗すぎるよ、何が……」


「そんな事言ってる場合じゃないですよ!」


雛の声が聞こえそちらを向くと、義手を持ってこちらに向かってくる。背には弓と修復された薙刀を背負っていた。


「雛。なんで俺の義手を?」


「修復が終わったので、返すと。三日三晩かかりきりで強度や昨日を増やしたらしいですよ」


雛が、義手を俺の腕に合わせながら質問に答えてくれた。にしても三日三晩……三日間寝てたのか。……所で。


「その弓は? 助けられた時も使ってたけど」


「え? あぁ、これは里長さんが武器も持たずに行くんじゃないと言って投げ渡してくれました。……よし、光牙さん。痛みが来ますよ」


あーこれだけは本当辛い……


「……カウントしてね、心のじゅんb」


「ゴー!!」


俺の願いは聞き届けられず、直ぐ様義手が接続された。


痛みが腕から走る。顔をしかめ、腕を押さえた。しかし以前とは違い、耐えられない程じゃない。


……慣れだろうか。慣れって怖いなぁ。


「さぁ、行きますよ! ここを守らないと!」


「待って、どういうことなのさ……ぐえっ……」


雛は唐突に俺の襟首に手を伸ばし、そのまま引きずるようにして走り出す。……目的も何も聞いちゃいないんだけど。


しかし、この勢いからして録なことが起きてないな? 取り敢えずだ。


「雛、この状態はまずい……首、締まる……」


「……あっ、すみません……」


正直あの世が数回見えた気がする。しかし、そんなことを気にしている場合でもなさそうだ。そう判断し、一度コートの襟を正してから雛と走り出した。


──────────────────────


「よっと、ここだな? しかし何が来たんだよ、皆空を見てるけど」


雛に問いかけるも、雛は弓に矢をつがえながら空をじっと見据えていて、こちらの声が届いていなかった。


「あん? あんたこれが上通るの初めてか! ブレスでもなんでもいいので遠距離の攻撃を準備しとけってことさ、あれが何してくるかわかんねぇからな。今までは大丈夫だったけどよ」


「なるほど、助かったよ」


親切なおっちゃんから話を聞けたのはありがたい。しかし、何が来るのやら……上を通るとなると、デカイ龍とか、その辺りなんだろうけど……


「来るぞお前ら! 何か仕掛けてくるようなら撃ち落とせ!!」


そんな叫びが聞こえ、いつでも魔法を放てるように構えた。すると、雲の中から大きな体躯を持つ龍が顔を出した。顔の次は長い胴体と、大抵の街は覆える程の大きさを持つ翼が現れた。


その龍の全体像は依然として見えないものの、その瞳に見据えられた瞬間、一瞬息ができなくなるほどの重圧のようなものが襲い、集中が途切れる。


「おいおい……!! あんなの暴れたら無理だ、止めようがない……!」


「だからこうやって少しでも痛手を与えようと皆出て来てるんですよ! あちらが暴れなければ、私たちからは何もしません!」


そうだ、一応迎撃とはいえ、あちらが暴れだした時の話だ。あんなの相手にしようとするなら、この里ではまず無理だ。


まず防衛に使える兵器がない。大砲なら探せばあるのかもしれないが、今から玉込めた所で間に合わないし、届くかも分からない。


次に、あいつに魔法は通じるのか分からない。龍人でさえ、使用する属性には強い耐性があるのだから、あんなやつには最悪、全属性耐性みたいなものがあってもおかしくない。


「……頼むから、暴れないでくれよ……?」


兎に角今の俺に出来るのは、あいつが何もせずに通り過ぎることを祈ることだけだ。


歯痒いが、あいつに突っ込んだ所で、鼠が恐竜に飛び掛かるようなものだ。鬱陶しいと思われて叩きつけられるのが関の山だろう。


──────────────────────


「はぁ……何もせずに通りすぎてよかった……」


祈りが通じたのか、あの龍は数十分間ほど里の上空を飛び、雲の中に戻っていった。あの曇り空は、あの龍の住み処のようなものらしい。


実際、あの龍がいなくなってすぐ、雨が降りだしそうな程の曇り空だったのが、雲一つない晴天の空に変わったのだから。


取り敢えず、近くに座り込んだ里長さんに龍について話を聞いてみよう。


「なぁ、里長さん。あの龍ってなんていうんだよ。いつか、出来れば倒したい」


「……お前、自殺志願者か? やめとけやめとけ。あいつには俺達じゃ敵わねぇんだから」


「じゃあ、名前だけでも教えてくれないか」


里長は一瞬、悩むような素振りを見せてから、口を開こうとして閉じるを繰り返している。……無理なら無理に言わなくてもいいのに。


「分かったよ、自分で調べる」


「そうしてくれ……俺にあいつのことを伝えるのは無理だ……恐ろしい……」


恐ろしいねぇ……それだけヤバいと言うのは分かったが、それだけだ。


……取り敢えず、いつか倒せる程に強くなろう。空の王を気取られているようで、何か癪に障った。


「さて、今日はなにしようかなぁ……素振りしかねぇか……」


その為にも、まずはロアを倒す。そう思いながら、家の近くにある丸太に紅蓮を力任せに振り下ろした。

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