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黒狼。

「……光牙さん、あれ……嘘ですよね?」


……どうやら、雛は見つけてしまったらしい。嘘であって欲しかった。……見つからないで、欲しかった。


「嘘だったら……どれだけよかっただろうね……」


「そんなっ……あれ? でも何かおかしいような……っ、避けてっ!!」


「っ、どういう……ぐううっ!!」


「光牙さん!」


雛の切羽詰まった声を聞き、咄嗟にその場から飛び退いた。だが少し反応が遅れており、腹に衝撃が走る。何かは俺の腹を蹴り、距離を取った。俺の体は衝撃を打ち消しきれず、地面を転がる。


「かはっ……! 何がどうなって……!」


「大丈夫ですか!?」


正直大丈夫じゃない。けど仲間を殺されるのはもうたくさんだ。だからまず、雛を逃がそう。


「大丈夫だよ、誰か呼んできてくれ!」


「……信じますよ! 無事でいてくださいね!」


「……それは難しいかなぁ」


雛を救援を呼びに行くという名目で逃がしてから、何かが飛来した方向を向くと、信じられない物が目に入った。潰された頭を再生させながらこちらを獲物として見据える、白焔だった。


しかしその姿は俺の知る白焔とかけ離れており、純白の毛皮は暗闇を思わせる黒に変わり、焔を連想させる橙色の瞳は真っ赤に染まっていた。


「グルルルル……」


「白焔……なのか……?」


掠れた声が口からこぼれた。しかし俺の声に対する返答はなく、首を狙い飛びかかられた。


「うわっ!? ……もう白焔じゃないんだな、お前は!」


「ガウッ!!」


横に飛び退いて攻撃を避け、問いかけるが、こちらが体勢を整えるよりも早く距離を詰めながら振るわれた爪によって切り裂かれ、頬から血が流れた。


「お前と戦えっていうのかよ……」


「グルウッ……!」


「せめて敵になっても言葉だけは、失わないで欲しかったなぁ……!!」


こちらから仕掛けようと、一歩踏み出した途端にふらつき、地面に倒れる。倒れた所を狙い、屍の白焔が飛びかかる。尻尾で地面を叩いて跳ね上がるが、これは非常にまずい。


「っ、やりづらい……! そんなに疲労が溜まってんのかよぉ!」


「グルアァァァァ!!」


ふらつきながら何とか立ち上がると、唐突に白焔が一声吠えた。耳を押さえて棒立ちをしていると、腹部に痛みが走る。痛みを感じてからすぐに蹴り飛ばされた。


「ぐっ……!! 咆哮して足を止めるとか、本当に殺す気満々だなおい!」


腹部の痛みと疲れによるふらつきから、立っていられずに後ろに倒れ込む。剣を抜こうとしたが、この距離では白焔が距離を詰める方が早いだろう。


「グルアァァァァ!!」


白焔が大きく口を開け、唾液を垂れ流しながら飛びかかってくる。その光景がとてもスローに、鮮明に俺の目に映った。牙の鋭さと数に、瞳に宿るギラギラとした光。


そのどれもが、とても恐ろしく感じた。それと同時に、これが自分の死を告げる死神の鎌なのだと、どこか他人事のように感じていた。


そう考えながら牙を見ていると、皮膚に突き刺さる寸前で白焔の体が吹き飛んだ。白焔は空中で体勢を整えることなく草むらの向こうに消えていく。


その方向を警戒しながら見ていると、腕を引っ張られ、とてつもない勢いで進み始めた。


「うおっ……! なんだこれっ、何が起きてるんだよ!?」


地面に指を立てて抵抗をしても、この勢いが衰えることはなく、やがて指の痛みに耐えきれずに地面から手を離す。すると勢いのまま体が浮かび上がった。


強い衝撃が体を襲うと考え、目を閉じる。しかしそんなことは一切なく、誰かに受け止められたような感覚があった。


「よっし、何とか回収完了だ。危なかったな、クソガキ」


「すみません、遅れました!」


聞き覚えのある声に恐る恐る目を開くと、折れた薙刀の代わりに弓を背負っている雛と、ソレイユの里長がいた。今はその里長に抱えられているようだ。……前見た時にはそんなに疑問に思わなかったが、かなり鍛えられた体をしている。


「……どうした、頭打ったか?」


「はっ! す、すみません。考え事してました。この場から急いで離れて下さい! 流石にあれで仕留めたとは思えない!」


「だろうなぁ、じゃあしっかり掴まっとけ!」


そう言うと、里長はとてつもない勢いで走り出し、木々を何本か薙ぎ倒しながら走り出した。


「ぐうっ、絶叫マシンを彷彿とさせるようなスピードだ……!!」


ダメージが蓄積された体では、とても耐えられる速度ではなく、何度も意識が飛びかけた。まぁ、その……五回ほど。


そんな勢いだから、すぐに森を抜けることはできた。白焔も森の外までは追って来ないようで、背後からの強襲を受けることはなかった。


「でも……ここからは厳しい戦いになりそうだ。いや、最初から厳しいけども。更に厳しくなってきそうってこと」


「戦力差が目に見えるほどありますもんね……どうしましょう」


里長の肩を借りながら、雛とこれからについて話す。すぐにやるべきことは、白焔に代わる新たな移動手段の確立。もう一つは、敵の尖兵とも言える奴に対する切り札を探すこと。


「やること、多いなぁ……」


そう呟きながら、落ちてきた目蓋を抗うことなく受け入れる。すぐに疲労から来た眠気に呑まれ、意識が落ちる。


……この時の俺は目が覚めたら、あんなことになってるなんて、思いもしなかったんだ。



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