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悔恨。

「やっぱりか……なんでこんな物を作った!? なぁあんた、ロアを止めろよ! 人間を全て支配するんだろ!? ならなんでこんな人間を使った無差別に襲うような化け物を作った!」


沸き上がる激情に堪えきれず、響き渡るような大声で叫ぶ。フードの人物は叫んだ途端、耳を押さえ、一度頭を振ってから話し始めた。


「うるさいですねぇ……まずは戦力を減らすことが先決なので。その怪物になってしまった男も、元はかなり腕の立つ男だったのです。それを洗脳、拷問等で服従させても……まぁ、あまり意味はない。ならばこちらの駒に変えてしまえばよいと」


「……人間を全て、この化け物に変えるつもりですか?」


雛がそう言い放つ。怒りから来るものか恐怖から来るものか分からないが折れた薙刀を持つ手が震えていた。


「えぇ、そうするでしょうね。支配するにはそちらの方が幾分か楽でしょうし」


「そんな……!!」


既に支配することを考えて始めている。何も考えていないか、もしくは……確実に勝てると言う自信があるのか。


「随分自信満々じゃねぇか、人も嘗めてかかるとかなり痛い目を見るぞ」


「……黒龍は魔王の傘下だ、またはこの怪物は死体を同じ種族に変え、無限に増えると言ってもですか?」


「そうだよ。あんたからしたら人間も俺も、劣等種程度にしか思ってないかもしれない。けど、そういう時こそ手痛い反撃を貰うもんだ……!!」


言葉を言い終えると同時に、爆発と共に体が前方へと跳ね飛ぶ。一瞬で黒フードの眼前まで近付き、力任せに左の拳を叩き込む。


「……確かにあなた達の龍人族や、人間は劣等だと感じています。しかしこれがその手痛い反撃とは、到底思えませんが」


義手の拳は容易く影に受け止められており、その義手の中に影が入り込み、勢いよく何度か地面に叩きつけられ、その場に縫いつけられた。


「今なら……雛!」


「その方も既に制圧済みです、動くことは出来ないかと……!?」


確かに、雛の周りは既に影の刃が取り囲んでおり、一歩踏み出せば刃に貫かれてしまうだろう。だが雛は一歩も踏み出すことなく、既に折れた薙刀を投擲した。


折れた薙刀は風に乗り加速していき、黒ずくめの人物に向かい飛んで行ったが、ギリギリの所で回避され、血が少し舞う程度で留まった。その間に俺は地面に縫いつけていた影の刃を力任せに壊し、脱出する。


黒ずくめの人物はその部分に手を伸ばし拭い、手に着いた血を眺めている。


「ふぅ……少し驚かされましたけど、その程度では私を討ち取るのは無理ですね」


「やってみなきゃ分からないだろ、現にあんた、俺達に傷をつけられたんだ。やってやれないこともないと思うけど?」


「……確かに、その通りです。しかし私が全力を出したと誰が言いました?」


その言葉が終わるや否や、黒ずくめの人物の魔力が異常な出力まで一気に高まっていく。影の刃も数を増し、30本程度だったのが倍の数程存在している。


「……おいおい」


「こんなことが……!」


「ですから、今のあなた達では傷をつけることが出来ても、私を倒すことは出来ません。……しかし少し調子に乗りすぎたようですね、この地の龍人達が向かってきている」


その言葉を聞いて、雛と二人で耳を済ませると、沢山の人が走って向かって来ているのが聞こえた。


「この数を相手にするのは非常に辛い、面倒……潮時ですね、ではまたどこかで。会いたくないでしょうけども」


そう言うと、黒ずくめの人物は水に落ちるようにトポンと音を響かせながらこの場から消えて行く。それと同時に、ソレイユの里長がこちらを見つけ、駆け寄ってくる。


「おい、大丈夫かおめぇら。ここで一体何があったか今話せるか?」


「えぇ、問題ありま……!?」


答えようとした途端、視界がぐらりと揺らぎ、フラついた。倒れる寸前で雛が受け止めてくれたが、意識が朦朧としている。


「光牙さん!?」


「あー、こりゃ疲労だな。また後で話を聞きに行くから、前使ってた家使え」


「分かりました。行きますよ光牙さん。白焔さんの所まで連れて行って下さい」


その声を聞きながら、体が支えられるのを感じた。隠しきれないよな、やっぱり……


「……そのまま、真っ直ぐに進んで。少ししたら見えてくるから」


「はい、真っ直ぐですね……案外近くにいたんですねぇ、さっさと合流すればよかったんじゃ……」


体が前進を始めた。このペースでは、すぐに白焔の亡骸を見つけてしまうだろう。自分の口から言えばいいのかもしれないが、どうしても口にすることはできなかった。


……口にしてしまえば、死んだと言うことが決定的な物になってしまいそうで。


でも、白焔は確実に死んでいる。頭を潰されたのだ、特異な生物でもない限り……即死だろう。


(クソッ……結局、自分にとって大切な物は何一つ守れやしないんだな……)


心の中で自嘲気味に呟き、悔しさに耐えるように歯軋りをした。


白焔の亡骸を雛が見つけるのは、その後すぐの事だった。







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