真実。
駆け出した勢いのまま、怪物の顔に左の義手を叩きつける。叩きつけられた怪物は大きく仰け反り、隙を見せる。その隙をついて、雛が風の槍を飛ばし、木を何本かへし折りながら吹き飛ばした。
「どうした、早く来いよ化け物。そんなもんじゃないんだろう?」
「ヴヴッ……!!」
俺の言葉が癪に障ったか、自分の肉体に魔力を流して飛びかかってくる。
「猿かお前は、頭を使えよ。こっちが言えた義理じゃないけど」
そう言いながら、腹に剣の腹を当ててから一気に振り抜く。血が少々顔にかかり、鬱陶しい。血を落とそうと顔を拭っている間に、再生をする際のぼこぼこという音が聞こえてきた。血は少量だった為、先程よりも再生スピードが早い。
(深手を負わせれば負わせる程に再生スピードは遅くなる……倒すには内臓にある筈の器官を潰すか、再生している間に高威力の攻撃を叩き込む……やるとしたら前者だな)
頭の中で考えを纏めると、目眩まし代わりに威力を極力下げたブレスを顔に向け放ち、全力で走った。
背後から叫び声が聞こえた為、成功したのだろう。流石に再生があっても目玉に炎は辛いと踏んだのだが、思った通りだった。
「これで……条件は整った……!!」
先程と同じように駆け出し、爆風によるブーストで飛び出しながら鉤爪を突き出す。勢いの鉤爪は俺の手首まで突き刺さり、勢いのまま地面を転がった。
「よっし……内部から焼かれて死ね」
そう言うと、一気に今出せる最大火力を爪から体内に向けて流し込む。炎に焼かれているなか、怪物が腹部に突き刺さった腕を引き抜こうとするが、俺の腕を掴む前に灰になっていく。
怪物の苦しむ声がその場に響き、膝下まで灰になってきた所で、溜飲が下がってきた。
「……もういいか」
そう言うと炎が消え去り、少し煙の上がっている腕を引き抜く。
すると怪物の体が少しずつ、本当に少しずつだが再生を始めた。流石に灰になった部分は再生しないようだったが。
(ここまで来ると、本当にピッタリだよな。化け物って呼び方……)
そう思いながら、また何が起こるか分からない、潰しておかねばと剣の切っ先を怪物の首筋に突き立てようとした瞬間、雛が翼を広げ、俺を抱えてその場から飛び退いた。
「え、何が……!?」
「すみません光牙さん、新手です……っ!!」
苦しそうな声を出した雛の腕を見ると、何か鋭利なもので切り裂かれた痕があった。俺を庇ったが故に、こうなったんだろう。
そう考え、油断しきっていた自分に対して心の中で思い付く限りの悪態をつきながら、雛の腕に包帯を巻いてから襲撃者の方を向く。
そこには、木の側面に立っている、フードを被った黒ずくめの人物がいた。
「ふむ……主の言った、楽しませてくれそうなのは赤い龍人だったな……抱えている小娘にも言っておこう、ここから立ち去れ。私はそこの怪物に用がある」
そう言いながら、倒れた怪物を指差す。聞こえた声からして、多分男性だろう。
「……怪しいやつの言うことなんて聞くとでも?」
「ふむ、確かにそれにも一理あるな。……なら」
フードの中が見えないから分からないが、一旦左手を口元に持っていき、考え込む素振りを見せてから、手を天に掲げ指を鳴らすと、辺り一体の影から鋭い刃が飛び出し、突き刺さる寸前で静止し、戻っていく。
「ここで私と一戦交えるか? エセルバートにその怪物との連戦以外にも、体力を消費する要素はあり満身創痍だろう?」
今の攻撃と、エセルバートと言う単語で分かった。
こいつは敵だ。しかも、万全の状態で挑んでも勝てるか分からない所から見て、エセルバート以上の力はあるだろう。
「……OK、要件はなんだ」
「光牙さん!?」
「今やりあったって勝ち目は薄い、俺達を狙ってきたんじゃなければここで引いてもらった方がいい……!!」
「でも……!!」
そうして話していると、いつか聞いた粗雑な声が響いた。
「おうこのクソガキども!! 前はよくもやってくれたなぁ!!」
「……エセルバート・ディーマー」
影の中から、片腕になった状態で何とか外に出ようとしているが、片腕では上半身を引っ張り出すのがやっとのようだ。
「チッ……おいシャドウ! 俺をここから出しやがれ!」
「……全く、あなたと言う人は……暫く黙っていなさい。敵に名前を知られてはならないと言うのに……」
エセルバートの口を影で塞ぎ、そのまま影の中に沈めていく。……アイツが狙わずにくれた情報では、シャドウと言うらしい人物を睨み、いつでも戦闘ができるように構える。
「……警戒されてしまいましたか。なら手短に話しましょう。要件はそこの怪物をこちらに引き渡せ、と言うものです」
「こんなボロボロになったやつでいいのか? 一体逃げられたんだが」
「えぇ、そちらは既に回収済みです。……かなりの被害を一体でも出せるようですしね」
……どうするのが正解なのだろうか。発言を聞く限り、回収すれば帰ってくれるのだろうが……
「……なら、一つ答えろ」
「おや、なんでしょう?」
「……その怪物の元になった生物は、なんだ」
剣の切っ先を黒ずくめの人物に向け、鋭く言い放つ。俺の言葉を聞いた黒ずくめの人物は一瞬硬直したものの、すぐに眉間の辺りに手を持っていき、呆れたような仕草を見せた。
「ハァ……もう既に分かっていると踏んでいたんですがね……」
「基本頭悪いし、信じたくねぇよ……」
「なるほど、知能はそこそこのようで。それでいて真実を受け止めている……よろしい」
そこで言葉を切り、芝居染みた動きをしながら淡々とその真実を俺達に告げた。
「その怪物の元は……人間ですよ」