喪失。
「白焔の怪我、やっぱり治りきってなかったのか……!」
「時間が足りなさすぎたんです……私と光牙さんは龍人だから、少し早めに回復が出来ますけど……」
息を切らしながら、未だ戦っている白焔の元へ向かい走る。既に体の節々から痛みが走っているが、気にしている場合ではない。そう考えて走る速度を上げた途端、先程と同じように爆音が響いた。
「っ、また……!」
「急ぎましょう!」
半壊した門を通り抜け、白焔がいる場所に辿り着いた。しかし、その場には白焔の姿はなく、敵の姿も見当たらなかった。そこには折れた木々や、抉れた地面があるだけだった。
「……白焔! 何処だ、何処にいるんだよ! 返事位してくれよ!」
辺りを見渡しながら、一歩、また一歩と慎重に歩き出す。これだけの戦闘が起こったのだから、痕跡は残っているだろう。雛も同じように、痕跡を探して回るが……
「くそっ、何も見つからねぇ……!」
「こんなことって……」
何も見つからないのだ。痕跡どころか、持っていたものすら。
「おかしいな……喰われたにしても、何か……綺麗過ぎる。血が無いんだ。あの傷なら垂れていてもおかしくはず……あった!」
地面を見回すと、血が落ちた痕がすぐに見つかった。内心で何故こんなに目立つものを簡単に見つけられなかったのかと悔やみながら、その血の後を追おうとした瞬間。
「っ、光牙さん! 上です、避けて!」
雛の声が聞こえ、避けようとしたが間に合わず、強い衝撃と共に地面に押し潰された。
「があぁっ!!」
「お前が……白焔さんをどこにやった!」
雛が風に乗ってぶっ飛び、薙刀で攻撃をしかけるが、その体表面に当たった途端に刃が砕けてしまった。砕けたのを見て、体を蹴って飛び距離を取った。怪物は少しも反応を示すことはなかったが、蹴られた部分を指で掻いていた。
「限界でしたからね……でもタイミングが悪すぎますよ……」
柄だけになった薙刀を構えながら、怪物がどんな行動を起こしてもいいようにしている。
怪物は蹴られた部分を掻き終えると、足元にいる俺を掴み上げ、そのまま雛に投擲した。勢いよく投げられ、俺と雛は衝突してしまう。
「ぐっ……!!」
「キャッ!」
すぐに立ち上がり、互いに怪物に向け武器を構える。
「ごめん、油断してた……!」
「話は後で……来ますよ」
武器を構えたのを見ると、異様に大きく口を開き、こちらに向け走り出した。
「さほど早くない、これなら……!」
俺もその怪物に向かい走りだし、飛び上がって剣を振り下ろすと、振り下ろすと同時に炎が吹き上がり、刃を叩きつけた部分を焼く。
「これは効いて……ないな!」
「ウ゛ア゛ー……」
唸り声を上げながら豪腕を振るわれたが、その豪腕を咄嗟に左の義手で受け止めた。しかし、内部から少し、パキンと乾いた音が聞こえ、直ぐに離れ飛び退く。
(……左の義手、壊れかけてるな……)
「光牙さん、どうなるか分からないので避けて下さいね! 《乱気龍》!!」
雛の掌から、二体の風で形作られた龍が現れ、俺の体のギリギリを掠めて飛んでいく。怪物の腕に龍が噛みつき、そのまま動きを封じ込める。それを見て、雛の元に駆け寄る。
「雛、どうなるか分からないってどういうこと?」
「あー……撃った本人でもどんな攻撃をするのか分からないんですよね……」
「ねぇ、それ前に仲間がいるとき撃っていいもんじゃないよね?」
そんな話をしている途中で、怪物は拘束を解き、勢いよく腕を伸ばして俺を殴り飛ばす。体が少しの間宙に浮かび、地面に落ちると、顔に何かドロリとしたものが着いているのを感じた。
「ぐうっ……いてて……なんだ? これ……」
頬に着いたものを指で取り、何がついていたか確認する。その色は赤く、鉄のような匂いがした。間違いなく、血だ。
「血……! つまりこの辺りに……っ!!」
血だまりの中から体勢を整え立ち上がり、周りを見渡すと、頭が何か大きなもので潰され、白い毛皮が真っ赤に染まった白焔の亡骸が横たわっていた。