飛び出した場所は。
《簡単に言えば……噴水ってやつか? たまにやってたんだよ、お前らの長老を飛ばしたりな!
ブハハッ! あー、思い出したら笑えてきた! なっさけねぇ声出してたなぁそういや!》
「腰が悪くなってそうだよな……」
「着地のこと考えてるんでしょうかねこれ……」
とても嫌な予感に襲われ、体を少し身震いさせる。
しかしそんな俺達の様子を気にも留めず、吹き飛ばした時のことを思い出したのか、楽しそうに笑っている。
楽しい思い出があまりない自分には、思い出を振り返って笑える、ただそれだけのことがとても羨ましく思えた。
それと同時にどのような思い出なのか気になり、聞いてみようと口を開いた。
「……あなたにとってその思い出は、とても楽しい思い出だったんですね」
《あぁ、その通りさ。色々とアイツとバカをやったよ。あの時間が一番楽しかったかもな。木登りとか洞窟探索とか……》
(思い出はまだまともそうだな……とかの後が、少し怖いけど)
《ヤバいやつに喧嘩吹っ掛けてボコボコにされたりとか、逆にしたりとか。まぁ楽しんでたさ》
「あぁ少しでもまともだと思った俺がバカだったよ!」
水龍の顔に向けて、近くにあった石を拾い直ぐ様全力で投擲する。水龍はそれを笑いながら首を少し動かし、軽く避けた。
《おいおい、幾らなんでもあぶねぇだろ、石は人に投げたらいけねぇぞ?》
「それだったら当たってから言えよ……!!」
その後、体感で五分間程石を拾っては投げるを繰り返したが、当たることはなかった。
「光牙さん、落ち着いて……」
「ふー……ふー……すまんかった……」
《いいけどよぉ、準備はいいか? そろそろ飛ばすからな》
水龍の方を向くと、顔に浮かんだ笑顔は消えていた。だが、目はキラキラとこれからやることを楽しみにしているのが簡単に見て取れた。
まず白焔を起こしてからだと、白焔に近付き、体を揺するが、全く起きる気配がない。
「おい白焔起きろ、置いてかれたいのか……」
「ムニャ……もう食えないんじゃ……」
「お決まりの寝言だなおい。はぁ……こいつだけ寝たままバンジーか……」
全く起きない白焔を背負い、水面に向かう。
《ちょっと待ってろよ? ここをこうして……こうすると……》
水龍が腕を振るうと、魔力を用いて何かをしたのか、水面が一度光る。
「……何をしたのか全くわかんねぇけど……」
《ちょっと固定した、歩けるように》
「マジで? 固定とかできるのか……」
水に触れようと手を伸ばすと、透明な板があるかのように手が遮られた。しかし本物の板という訳ではないので、水面には波紋が出来ているのが見えた。
「便利だなぁ……手も濡れてもないし。こういうの欲しいわ」
固定された水面の中心部に向かい、歩き出す。噴水で飛ぶ日が来るとは思っていなかったし、あるとも思わなかったけれど、少しそれを楽しみにしている自分がいる。
《さーて、行くぞ! 喋ると舌噛むから、なるべく喋らないこと! じゃ……またな!!》
魔力を一気に流し込んだのだろう、水面が泡立ち始めたのが一瞬目で捉えたと思った瞬間、水が吹き出し、俺たちを呑み込んだ。水の勢いが強く、抵抗できないまま体が浮かび、勢いに乗ったまま上へ向かっていく。
(死ぬっ……! ずっとシェイクされてて気持ち悪いし、視界がぐるぐる回って吐き気がすごい……死ぬぅ……)
とても長く感じた地獄の時間は、唐突に終わりを告げた。水から足が飛び出たのか、風を足に感じた。
(……ここで顔出さないと死ぬ……! 体を反転させねぇと……!)
そんな風に考えていると、水の柱の中から一気に勢いよく飛び出した。咄嗟に翼を広げ、すぐに距離を取って背後を振り返る。
「ぷはぁっ! どれぐらい経ってたんだろう……とても長く感じた」
「ですね……この状況でも寝てますよ、白焔さん」
そう言われ、背負った白焔を見る。しかしこれはどうみても……気を失っていた。水中で暴れたのが問題だったのかは分からないが。
「……気を失ってるわ、白焔。で、目的地は……前行ったソレイユだっけ?」
「そうです、そこで少し情報を集めることになりますね。ここまで来れば……あと少しですね、とても近くまで来ていますけど……光牙さんの翼が……」
その言葉を聞いて、自分の翼を見る。すると、翼が時折、火に変化しているのが見えた。その度に少しがくりと高度が落ちては落ちた分上昇を繰り返している。
「……降りないとだめか……」
「そのようです……歩いて2日ほどの距離ですから、大丈夫ですよ。丁度馬車も通るかもしれないですし」
そう言いながら、地上まで降りて行く雛。その後に続いて、自分も地面に向かっていった。