湖にて。
「あっ!?……どこかで、雷でも鳴ってんのかなぁ。聞こえたような気がするんだけど……」
微かだが、雷の音が聞こえたような気がして飛び起きる。周りを見ると、まだ皆寝ているようだった。しかしカタカタという音が絶え間なく耳に入ってくる。少し恐怖を感じ、辺りを見渡すと自分の義手から音が鳴っていることが分かった。
「……やっぱり強烈な恐怖として、染み付いてるのか……」
義手の震えに気付いたからかはわからないが、右腕も同じように震えだした。それを見て、今の状態でもまだ倒せないと、改めて認識する。
(雷ならよくある、自分に電気を流して高速移動とかやってくる筈だ。おまけに龍人特有の攻撃方法、ブレスをまだ使っていない……まだまだ、力を隠し持ってると考えた方がいいね……)
中々あれほどまでの力の差は埋まらない。分かってはいたけれど、とても歯痒かった。次に戦う時本気を出されたら、一瞬で決着がつくのではないか、腹に大穴が空くのではないかと、どんどん悪い方向に思考が沈んで行く。
(……まず、勝ち目があるのか? 今のままじゃ広大な砂漠から一本の針を探し出せるかどうかじゃないのか?……駄目だ、さっきから何を考えている! 暗い方向ばかりじゃないか! 力は付いてる、ならまだ悪いことばかりじゃない……筈だ……)
悪い考えが浮かんでは頭を振り、頭を抱え込む。さっきからこの繰り出しだ。思考の渦に呑まれている。抜け出そうと手を伸ばすけれど、何も掴めずに奥深くまで引き摺り込まれる。
「はぁ……」
「溜め息着いてどうしたんです?」
いつの間にか雛が目を覚ましており、音もなく俺の横に来て座っていた。
「何でもないよ……上手くいかないことばかりだよなぁって、なってただけ」
「うーん……力の差とかですか?」
「ドンピシャ。少しは強くなったけど、それだけは全く埋まってる気がしない。元々少し喧嘩してきたやつと、ガチガチに殺し合いをしてきたやつって差がある……ここは本当にデカイ気がする……」
「そこは大きい違いですよね……」
「勝てんのかねぇ……仕方なく喧嘩してきただけの戦い方で……」
「……待って下さい、一人でやろうとしてません?」
「ん?……多分……」
またこれだ。一人で何とかしようとしてしまう。格上との戦いは一人で行ってはいけないと考えていても、勝手に一人で何とかしようとする癖。これはなんとかならないものか……
「はぁ……一人で出来ることは髙が知れてるって理解したんじゃないんですか?」
「……いや、理解はしてる。けど考えは自分一人で何が出来るかで纏めてちゃうみたいで、さ」
何気なく、近くにある石を拾って池に投げる。トポンと音を立て石が水の中に沈むと、水面に波紋が広がっていく。
「やっぱり考えはそう簡単には変わりませんか……」
雛もそう言いながら、近くにあった石を水面に投げる。
「そういうこと。そんな簡単に考えや人が変われるなら、俺はもっと気楽になってるよ。あの時も拒んだりしなかったさ、きっとね。髪や瞳の色で気味悪がられたって、俺には何か価値があるって思ってたろうよ」
自嘲気味に笑いながら、立ち上がるともう一度石を投げる。先程よりも力が入った分勢いよく飛んで行き、大きな波紋を作り出す。次の石を探し拾いながら言葉を続ける。
「でもそうはならなかった。価値はないって思ってそれを疑わなかった。それだから……!!」
歯を食い縛り、石を持つ手に力が入る。元々脆かったのか石に亀裂が走り、そのまま放り投げた。
「……うーん……取り敢えず、今は一人じゃないんですから、一人で何もかもしないようにしましょうよ。それだけでも何か変わるかもしれないですよ」
「そうしてみるよ、ちょっとスッキリしたな……」
水辺から少し離れようと、歩き出したその時。水面が膨れ上がり、何かが現れた。日差しを避けるため、手で顔を隠しながら、剣の柄に手をかける。
《人様の頭になーにさっきから投げつけてんだボケどもがぁぁぁ!! さっきからいてぇんだよ! 人様の睡眠を妨害すんなってぇの! あーくそ、やるってんなら容赦しねぇぞ!》
「「……え?」」
水中から姿を現したのは、細い蛇のような体に青い鱗を持つ龍だった。