雷鳴。
ゼロ距離で放たれた弾丸は、目の前の龍人の眉間に当たり、体を大きく仰け反らせた。そこですかさず蹴りを繰り出し、距離を取りながら自分の魔力を込める。
「……吹き飛びなさい!」
両手で構えた銃から赤いエネルギーの奔流が目の前の敵に勢いよく向かっていく。その龍人は仰け反ったまま動かない……仕留めた!
「やれやれ、少し遊ばせてやっただけだぞ? 思い上がるな」
私の攻撃が当たる直前で、その龍人の体は急に跳ね上がり、攻撃を避けた。
空中で腕が帯電し、その腕を振るうと、私に向かい雷が飛んできた。何とか回避出来たけれど、着弾の際に砕けた床の破片が勢いよく足に突き刺さった。
「ぐうっ……!!」
「足は潰れたな。攻撃手段も潰しておくとするか」
声が聞こえ、銃を向けようとした途端、右腕に鋭い痛みが走り、吹き飛ばされた。鈍い痛みが続き、プラプラとしている。確実に折られている……!
嫌な予感がし、飛んでいく方向に顔を向けると、そこには体全体に電気を流した奴がいた。
「ハハハ! どうした、抗ってみせろ! 仕留めるのだろう、このままではお前が死ぬぞ!」
「ぐうっっ!!」
何も出来ないと分かっているのだろう、高笑いをしながら蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられた。叩きつけられた瞬間、腹部に衝撃が走り、壁に叩きつけられる。
「ごふっ……!! お前ぇ……!」
「悪いとは思わんぞ、貴様らが仕掛けたのだから、なっ!」
龍人の姿がブレ、右腕に痛みが走る。だがすぐに痛みが消え、違和感を感じて腕を押さえようとしたが、空を掴むばかりで何も掴めない。腕を見ると、二の腕から下の部分が消えていた。
「ぐうっ、どこに……あれっ? 私の腕が……」
「あぁ、これの事か? あまりに辛そうだったのでね、斬り落としたよ」
龍人の方を向くと、左手が鉤爪に変化しており、血が付着している。右手で持っている私の右腕を気持ち悪そうに投げ捨てた。落ちた右腕を見ていると、徐々に切断面から痛みが少しずつやって来て、言い様のない恐怖に襲われその場に膝を着いて崩れ落ちた。
「あ……あぁぁぁぁぁっ!! 」
「ふむ、溜飲も下がった……では、殺すとしよう」
目の前の龍人が落ちていた槍を持って近付いて来る。怖い。このままじゃ殺されるのに、恐怖と痛みで動けない……
「……来るな……私に近寄るな!!」
痛みを堪えて左腕で銃を構え、近寄るようなら撃ち抜こうとする。怖い……けども、殺されてたまるかっての……!!
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(……ふむ、まだ折れてはいないか? いや、もう限界だろう。銃を持つ手が震えている)
突き刺される距離をまで近寄ると槍を片手で持ち、いつでも止めをさせるように切っ先を下にして振り上げる。銃を向けられているが気にもならない。クレアとか言う女の魔力はもう既に空だ。魔力が空で何が出来よう。
「何か言い残すことはないか? 聞くだけ聞いてやろう……言ってみるといい」
殺さないでくれでも何でもいい。結局は殺すのだから。
「……くたばれ、このクソ野郎」
「聞いてやったぞ、ではさようなら」
心臓に狙いをつけて勢いよく振り下ろし、背中を貫通するまで突き刺すと窓から槍ごと投げ捨てる。
「気に入っていたのだがな。汚わらしい血が着いた。後は貴様らが後始末をするといい」
窓の外を一瞥もせずに言い放つ。すると空から小さな龍達が現れ、落ちた死体に向かっていく。
「汚わらしいと言えば、あの数だけは一級品の小さな龍だな……死んだ肉を食い漁りおって……処理代わりに使うつもりではなかったら、真っ先に滅ぼしていたよ」
嫌な物を思い出したと言うように足元に落ちていた落ちていた魔導銃を踏み砕く。砕かれた銃から出てきた物を見て、怒りが滲み出した。分かってはいたものの、やはり……辛いものだな。
「やはりこの武器……魔物、龍人や亜人族にある力の結晶を利用しているのか。あの最後の砲撃、ブレスのようだと思い硬直してしまったが……滅ぼす理由が増えた、どこまで堕ちれば気が済むのだ!!」
勢いよく、怒りに任せて壁に拳を叩きつける。壁がひび割れ、欠片がパラパラと落ち、欠片が頭の上に落ちて来たことで少し頭が冷えて来た。
「……どうするか、勇者の断天とやらに興味があったが今撃たれては城が崩れかねん……非常に残念ではあるが、殺すとしようか」
それに、自分で覚えて使えばいい。人間が使える代物なのだ、難しい物ではないだろう。
「さて……厄介そうな勇者から……」
「させると……お思いですかな?」
勇者の方に向かう寸前で、目の前を氷の塊が横切った。その氷は勇者ともう一人の魔法使いに向かって飛んで行き、部屋を半分に分ける壁になった。この魔法使い、自力で復活したのは驚いたが、何を企んでいる?
「何のつもりだ、人間」
「その方を殺されては私も、困るのですよ。……私が望む場所に帰したまえ……《テレポーテーション》」
その魔法を唱えた途端、横たわる二人の下に魔法陣が展開され、光りだす。自分を犠牲に逃がすつもりか……!
「させるものか!! お前の企みは無駄なのだよ!」
掌から勇者達に向かって雷撃を放つ。すると先程の魔法使いが氷の壁の前に割り込み、その体を盾にして防いだ。
「チイッ、無駄なことを……!」
「ぐおおぉぉっ……!! やらせはしない……やらせて堪るか……!!」
魔法使いは両手両足を大きく広げ、自らを盾にしている。何故だ、先程の一発で体は限界を迎えている筈だ、何故倒れない!?
「死ねぇ……!!」
掌から雷で鞭を作り、何度も魔法使いの体を打ち据える。体に当たる度に苦悶の声が口から漏れるが、決して膝は着かなかった。そして、勇者達のテレポートが完了した。
「ははっ……何が無駄だって……?」
そう言いながら魔法使いは膝を着き、地面に倒れ込んだ。服はボロボロで、体も無事な部分を探す方が難しいほど焦げている。私はその男にゆっくりと近付いた。
「……貴様、名前は何と言う?」
「お前に言う名前はない……と言いたい所だが、もう死ぬみたいだな……ごふっ……アラスター・アルフォード」
「そうか……覚えておこう。貴様は初めて、一人で私の行動を完全に妨害した人間だ、と」
そう言いながら、腹部に拳を貫通させる。血が腹部から夥しい量が流れ出す。しばらくすると目から光が消え、物言わぬ肉の塊となった。腕を振って、肉塊を床に放り捨てる。
「……思ったよりもダメージを受けたな。左腕の血は止まったとはいえ、あまりダメージを受けた事がないからな……結構痛いのだな、これは」
焼け焦げた傷を掲げて眺める。貫通でこれなら、アラスターも尋常ではない痛みを感じていた筈だ。その状態で私に立ち向かうとは……
「少し認識を改めようか。……さて、この死体も同じように……いや、こいつは自分の手で後始末するとしよう……」
アラスターのコートを掴み、外へと向かい引き摺って歩き出す。その後少しして、雷鳴が轟いた。