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川流れ。

次第に体が重力に従い、落ちていく。結構な速度で落ちている割にはゆっくりと見えて、細かいところまで捉えることができた。


とはいえ、落ちていることには変わりはない。このまま行けば、また川流れかミンチよりひどいものになるだろう。


「うおおぉぉぉぉぉ!?」


「キャアァァァァ!!」


「これはヤバいって流石に! くっそ、、翼広げて間に合うか……!?」


白焔の胴を掴んでから大きく翼を広げ、何度も羽ばたく。だが速度は変わらず、かなりの勢いで落ちていく。


「ぐううっ、駄目だ全然速度が落ちない! 一人じゃ無理だこれ!」


「なら二人で!」


雛も同じように翼を広げ、羽ばたかせる。すると、少しずつではあるが速度が落ち始めた。


「よし、いいぞ二人共! このまま儂を引き上げてくれ!」


「引き上げる……」


「と言いますと……あそこですよね……」


二人で上を見上げる。いた場所はかなり高い場所にあって、普通に考えて行こうとするのは無茶だ。それに落下速度が落ちたとはいえ、完全に静止した訳ではない。今も緩やかに


「これは……言いたかないけれど……」


「ええ……これは……」


「「入水ルートまっしぐらですね」」


「ちょっ、待て!? 諦めるの早くないか!?」


白焔が何か騒いでいるが、それとは関係なしに少しずつ高度が下がっていく。まず白焔が思った以上に重いのもあるが、緩やかに落ちている今、高度が思うように上げられないのだ。


「まずいぞこのままでは……! 儂泳げないんじゃよ!」


「嘘じゃん!? お前狼だろ、泳げるようにしとけよ!?」


「すいません……実は私も……」


「マジかよ、二人はキツイぞ流石に! まず沈むだろ……」


やがて足が水に浸かる。勢いよく着水しないだけよかったと考えよう。勢いよく着水したら顔や腹を強かに打ち付けていた。しかし思った以上に水が冷たく、肌を刺すような寒さが足からじわじわと伝わってくる。


「冷たっ……ここまで冷たいとは思わんかった」


「流石にここまでだと冷たすぎます……まだ寒い時期じゃないのに……」


「ぬわぁぁ、冷たいぞ! 嫌じゃ嫌じゃ、儂は泳げないって言ったじゃろう!?」


「バカ、暴れんなって……あっ」


支えているのがやっとのことなのに暴れられ、手から白焔の体が滑り落ちる。白焔は頭から川に向かって落ちていく。


「畜生、間に合ってくれよ……!?」


手を伸ばし、何とか水に落ちる寸前で白焔の尻尾を掴めた。尻尾を両手で掴み、何とか引き上げていく。


「痛い痛い痛い……! 尻尾はデリケートなんじゃ、そんながっしりと掴まんでくれ!」


「ちょっとは我慢してくれ、それに尻尾の件はお前が暴れたからそうなったんだろうがっ」


白焔を背に乗せ、片手で支える。そしてもう片方の手を雛の方に伸ばした。


「……えっと、これは?」


「どうせ流されるんだったら一緒にいた方がいいでしょ。俺、人も物も探すのが下手くそだし」


「……確かに、はぐれると面倒ですしね……どこで合流、なんて手も使えそうにないですし」


そう言いながら、俺の手が握られる。俺の手と比べて、全体的に柔らかいという印象だった。


「硬いんですね、光牙さんの手……もう少し柔らかいかと思ってました」


「まぁずっと喧嘩してたからなぁ。お互い様でしょ、こっちも雛の手は硬いものだと思ってたよ、スッゴい形相で薙刀ブンブン振ってたし」


「あはは……」


そう言いながら二人同時に広げた翼を畳み、水の中へ落ちる。思いの外、勢いがよく一気に全身が水の中へ。それでも手を離すことはなかった。


上に向かおうと後ろを向くと、丁度水の中に火を突っ込んだ時のように翼が消える。


「ぶぼっ……!!」


驚きのあまり、口の中にあった空気がほとんど抜けてしまった。急いで上に向かおうと足を動かすが、水を吸った服が重く、思うように進めない。それに、思ったより流れが強く、先ほどからずっと流され続けている。


(やっべぇ、全然上がれねぇ……!! 幾らなんでも二人を抱えてくのは無理だ……うおっ!?)


突然背中を押され、上方向に向かい始めた。背中を見ると、小魚の群れが俺達を押し上げている。


(小魚の群れに押されて、上に……本当、何があって何が起こるのか分からねぇなこの世界!)


勢いのまま、水面から顔を出す。丁度近くに流れていた流木に白焔の手が乗り、雛がその流木を掴み、白焔を支えていた自分の義手も乗せ、漸く一息つくことができた。


「げほっ……戦闘以外で死んだわってなったの、これが始めてだわ……」


「まさか川流れとはの……しかも急流じゃ、大丈夫だろうか……」


「大丈夫じゃなくても、流されるしかないですね……」


そんなことを話していると、俺達の背を押してくれていた魚達が離れていくのを感じた。水の中に顔を突っ込み、去っていくのを見届ける。


(本当助かったよ、ありがとう……)


最後の一匹まで見送ると、顔を水から出し息を整える。


「でも、あんな魚もいたんですね……」


「雛、知ってたらここ落ちたことあるってことだからね? それだったら本当ビックリだよ……」


しかし驚くことと言えば、翼が水の中へ入った時に火のように消失したことだ。このまま出せないということになったら、ロアとの戦いの時に空中戦になった場合どうすればいいのか……取り敢えず、聞いてみることにしよう。


「雛、白焔。俺の翼、水の中に入った途端、消えたんだけど何か分からないか?」


「うん? それはな、お主の魔力属性が炎だった、それだけじゃよ」


「私たちの翼は自分の魔力で形成されますから、魔力が尽きたら飛べません。それに炎は水をかけたら勢いもなくなって、消えてしまうでしょう?」


「つまり、俺の翼は炎の魔力を変換させて作られてるから水が当たると消えるってこと? 出し入れできるのか翼って……うわぁ、今までずっとどうしようか考えていたのがバカみてぇ、聞いとけばよかった」


顔を流木に突っ伏させ、脱力する。自分で悩むとすぐこれだ。全く、嫌になるよ。


「……というか主ら、いつまで仲良く手を握っているんじゃ?」


「「あ……」」


「……仲良しかお主らは……」










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