森の外へ。
「にしても……深いなぁこの森。3日は迷ってるよ。というかここで三回も迷ってるまである。やだ、俺って迷いすぎ……?」
「直感に任せて進むからであろう、にしてもまだ起きんのか雛は。儂はそちらが気になってしょうがないわ。死んではおらんよな?」
「死んでたらこんな暖かい訳あるかい」
森の中で辺りを白焔に警戒をさせ、雛を背負いながら進む。こういう時、白焔がいてくれてよかったと思う。鼻と気配察知はこういう森の中ではかなり役に立つし、白焔の戦闘能力も高い。
「……そろそろ休憩にせんか? 疲れておるだろうし、主はあまり寝れておらんだろう?」
「こんながっしり組みくかれたらなぁ……横にはなれないでしょ。それだけで寝づらいってのにさぁ……二つの柔らかいものに意識が……」
「……そういう年頃か」
「おう、そういう年頃だよ。悪いか。……とりあえず、腰を下ろしますか……」
手頃な岩を探し、その上に腰を下ろす。白焔はその隣で、地面にぐったりと寝そべった。
「あ゛ぁ~……疲れたぁ……義手も今、騙し騙しで使ってるしさ、アイツどれだけヤバいやつだったんだよ……」
「黒龍はそういうものだ、今の我々では殺しきれん」
「殺しきれん……? 待て、ということはアイツ生きてやがんのか、あの怪我で!?」
「恐らくな。龍人族の中でも異常な程の耐久と、他の龍人にはない再生能力も持っている。戦闘面で危険視されているのはそこからだな。他と比べれば戦闘能力は段違いというわけだ」
「あれだけやって、まだ……」
エセルバートは完全に仕留めたものだと思っていた。目を潰した、腕を切り刻んだ……最後にはあの大穴に落ちたというのに、まだ生きて……
「……もしかして決定打を、与えられてなかったか?」
「恐らく。時間はかかるだろうが、あの者は姿を再度現すだろうな……」
「あまり言いたかないけど、化け物かよ……」
両の拳に力が入り、拳を握る。義手からは嫌な音が聞こえだした。
「おい、義手が壊れるぞ。お主が勝てないのは一に地力不足、二に相手が格上……まぁ地力と実戦不足だな。相手がこちらの実力を軽く凌駕した存在のことが多い」
……確かに。今まで戦った相手は……ミノタウロス二体、黒の龍人が二人、猪が一体、ロビン……後は盗賊共……そう考えると、普通に運がないだけ……?
拳に入れた力を弛め、遠くにいる牛のような魔物を見据える。
「……なぁ、白焔」
「どうした?」
「魔物肉喰ってみようかと思ったんだけど」
「もしやお主話聞いてなかったな?」
その言葉と共に白焔が飛び上がってから、強い衝撃と体が吹き飛び、木を何本かへし折ってから地面を転がって止まる。白焔へ視線を向けると、器用に後ろ脚で蹴りを繰り出したようだった。
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「いってぇ……思いっきり蹴り飛ばすことねぇだろ……」
「話を聞いておるかと思ったのでの。ついやってしまったわ、笑って許せ」
「全身余計に痛いんですがそれは」
「許せ」
「ハイハイ……いてて、どんだけの威力で蹴ったんだよ……」
痛みに顔を歪めながら、腕に包帯を巻いていく。蹴りを受けたと思われる腹部を確認した所、少しだけ青く変色していた。
「あまり力入れてなかったんだかなぁ……」
「俺が多分脆すぎんだよ、鱗とかそういう防御能力抜くと……さ……」
あることに気付き、包帯を手からポロリと落とす。
「どうした? 眠いのか」
「……あぁいや、なんでもねぇよ。少し考え事してただけだから」
「ならいいが……儂が少し眠くなった、自分が大丈夫だと思ったなら起こせ」
白焔がその場に寝そべり、ゆっくりと寝息を立て始める。
「……あっぶなぁ……!! なんか隠しちまうんだよね、雛以外には。同じ境遇の人には話せるけど、ってやつなのかなぁ……」
包帯を巻いた腕を見る。龍人の治癒能力は高く、少しずつ傷は治ると聞いていたが……問題はそこではない。
「防御面の低さは、俺がこの世界に来てからなんも変わっちゃいねぇ……ということは、まだ魔力が馴染んでいないのか……? 蹴りとかとあまり効いている気がしないし」
手で口を隠しながら、小さな声で自分の考えを纏めていく。
「でもそうなるとロビンとかに効いたのがおかしいよな、何でだ……? 防御だけまだ馴染んで……いや違うな、馴染んではいるんだ。なら防御がてんで出来てないだけ……やっべ、これ結局自分の責任……」
顔を片手で押さえ、その場に横になる。やはり疲労とダメージが溜まりすぎているのか、すぐに目蓋が落ちてきた……
のだが。
「おい、眠るとなると流石に休みすぎではないのか? 出発するぞ」
その一声と同時に地面を引き摺られながら、動き始めた。
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「目は覚めたか?」
「覚めたよバカ。お陰で全身で無事な部分探すよりも怪我した部分探す方が楽そうだよ」
白焔の言葉に、包帯を頭に巻きながらぶっきらぼうに返す。
「そうか」
白焔は素っ気なく、気にもしないで返してきた。少しイラッとして白焔の頭を咎めるように叩く。
「すぐ手が出るの、お主は……」
「うるせぇ。全身いてぇんだよマジで……ちょっとは自重してくんねぇか」
「そちらが自重するなら考えよう」
こんなやり取りをしながら、しっかりと歩みを進めていく。そうしていると、背おっている雛がモゾモゾと動き始めた。
「……ふぁぁ……寝ちゃってました……おはようございます」
「おはよう、雛。まだ森から出れそうにないけどね……うん?」
前を見ると、少し道が開けてきている。出口だろうか。雛を背負ったまま、白焔に跨がる。
「……前言撤回、出口かも。よっし行くぞぉ!!」
「心得た!!」
白焔が俺の言葉に従い、出口と思われる場所に向かい駆け出す。
「えーと……ここってどこかで見たような……あ、あれって……止まって光牙さん、この先確か崖です!!」
「「え゛?」」
雛が慌てた様子で声を出し、警告するが既に遅く、全力で走っていた白焔と、その上に乗っている俺達は崖から勢いよく飛び出した。