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距離。

……体が引き摺られている。何かに襟首を掴まれ、地面を引っ張られて進んでいるようだ。


「仲良く寝ているのは大いに結構。だがな、運ぶものの苦労も少しは考えんか! 儂が人間のように物を運べるように見えるか? 見えるわけがなかろうに。背負うので一苦労だわ戯け……」


薄目を開けて確認すると、自分の体は再び襟の部分を噛まれ、そのまま引き摺られているようだ。雛は背負われているというのに、この違いは一体……


「しかしどれだけこの二人は眠ればいいのだ……あれから暫く経ったが、目を覚ます気配が一向にない。目を覚まさせるには……あぁ、走れば体が揺れて、目を覚ますか」


「おいちょっと待てや頭の中まで毛並みみてぇに真っ白になったか」


咄嗟に声を出して、自分が起きていることを伝える。危ないところだった、頭に石を打ち付けては頭に大きなダメージが残ってしまう。


「ふん、やはりな。起きているならそう言え、背に乗せてやる」


「鎌かけかよ……ってどう見ても二人乗れるようには見えないけど? お前縮んでんだぞ、その点理解してる?」


今の白焔の大きさは誰がどう見ても、人を一人乗せるのが限界だ。それに雛が乗っている……というか乗せられて寝息を立てていると言うべきかは分からないが、とにかく俺が乗るようなスペースはない。


「儂は一応従っていても魔物ぞ? 体の大きさなんぞ自由自在じゃ……と言いたいが」


「なんだよ、魔力足んないの?」


「そういうことだな、という訳で雛を背負え。それで跨がればよいわ」


……はぁ? 何だって?


「おい待てマジで。何気なく背負えとかよく言えるなお前」


「何だ、別に悪くはないだろう? それに他に方法があるか?」


「ないけどさぁ……」


「なら仕方なかろう。ほれ、さっと背負ってしまえ」


そう言いきると、俺の襟首を離し、別の方向を向いてしまう。もう妥協はしないと言う強い意志を感じる。


「……説明お前がしろよ? 全く、こういうキャラじゃないでしょうよ俺は」


「そうだな、お主は知り合いが困ってたら迷いなく突っ込むであろうよ」


雛を背負ってから白焔に跨がる。白焔の毛並みは相変わらずよく、それどころか以前より良くなっているまである。


「にしても……軽いなぁ、雛ちゃんと食ってるのか? ほら、こんな細いし」


「食べているであろうよ、それなりに。ところでお主……どうだ、背中の感触は」


「お前なぁ……! 折角別のこと話して気を反らせてたってのに! なんで言っちゃうかなぁ!!」


先程から背中に感じる柔らかいものが二つ。あまり……と言うか全く異性との関わりがなかった自分にはこの状況は非常にまずい。なにがって、ナニが。


「……主は本当に色々と大丈夫か?」


「大丈夫じゃねぇよこの狼野郎……」


白焔の体毛に手を伸ばし、引っ張る。すると、案外簡単にブチりと音を立てて毛が抜けた。


「あっ」


「いったぁっ!! お主何をしとるかぁ! 急に儂の毛を引っこ抜くなど気でも狂うたか!」


「ゴメンて……マジで今のはそんな簡単に抜けるとは思ってなかったんやって……」


「全く……儂の体毛は物理や魔法は防げるが、引っ張る力には弱いのじゃ。その数本でも防げるだろうよ、何回かは」


こんな毛の数本で防げると聞き、半信半疑で手の中にある毛をマジマジと眺める。すると、一つの疑問が頭に浮かんで来た。


「じゃあなんで全員にあげなかったんだよ。あ、言われなかったとか言うのはなしで。俺が知ってるわけないじゃんそんなの」


「……痛いんだよ。儂が、好き好んで痛い目に合うように見えるか?」


ごもっともで。


──────────────────────


「進めど進めど道は悪く、見えるのは木だけ。なぁ、これどれぐらいで抜けるって言ってたっけ……三日?」


「どうだったかのぉ……」


「えっ待って把握してねぇの!? おいおい頼むぜ本当、俺らこのままじゃ迷子だよ!」


あれから少し経ったが、未だに道なき道を進んでいる。風景は変わらないわ、未だに疲労は消えないわで非常に大変だ。俺はもう白焔から降りて歩けるほどまでには回復したが、戦闘となると厳しい。


「……にしても……雛、起きないのぉ……」


「よっぽど魔力消費したんだろ……あの魔法、破壊力もあれば制御も難しそうだったし。あれを制御しなかったら俺らごと切り刻んでかもしれないぞ」


雛は未だに目を覚ます素振りもなく、俺の背で眠り続けている。魘されている様子もなく、小さく寝息を立てている。


「正直、こうしてなかったら死んでるんじゃないかって思うぐらいぐっすりと寝てるんだよね……」


「お主も人のことは言えんがな」


白焔の言葉に顔を歪ませながら、耳が痛いなと思っていると、雛が身動ぎをし、雛が自分の顔を背に埋め、再度寝息を立て始める。


「……ちょっとぉ……マジで待って、こういうことには本当耐性ないの……」


「一応言っておくが落ち着けよ、主が獣欲を暴走させようとさせた途端儂はお主の頭蓋をかち割らんといけなくなってしまう」


「しねぇよ……相変わらず俺の扱いひどくねぇ?」


片手で雛を支え、もう片方の手で自分の頭を抱える。


「であろうな、主はここぞという時に逡巡してしまうヘタレハートの持ち主であるし、まずこのような森の中で事を起こすような度胸はあるまいよ。万が一、というやつだ」


「誰がヘタレだ!!」


「まぁあれだな、役得だと思っておけばよかろう。中々出来んことじゃろうて、眠る少女を背に旅など」


「……そう考えるようにする。はぁ……」


そう言うと、俺は先程よりしっかりと力を入れ、地面を踏みしめて歩き出した。


──────────────────────


(しかし……中々見ていて面白いものよ、こういったものは。儂は獣だが、こやつらには手を貸してやろうと思っていたが……手を貸すのではなく、従ってやろうとするか。雛もそろそろ起きるであろうし、反応が楽しみじゃて)


光牙が歩き出したのを見て、自分も考えながら歩き出す。


急に光牙がこちらにふり向き、儂の表情を見ては露骨に嫌そうな表情をしておる。はて、何かしたかの?


(儂はただ、お主らがこの先どうなるかが楽しみになってきただけじゃわい。……おや、ニヤケておったわ。それは何か企んでるように思われても仕方ないの)


ここまで考えた所で足を止め、真剣な表情になって空を見つめる。


(儂は決めたぞ、お主がやりたいことには協力しよう。主の道の障害になる物は儂の牙が噛み砕く。主が間に合わないのなら儂が走り、間に合わせてみせよう)


ただ、目の前にある光景を何度も見るために。こういった光景が、別の種族同士でも行われるように。


そう決意を決めた白焔が視線を戻すと、その目に映るのは、頬を少し赤く染めた光牙と、足を止め空を見ている途中で目が覚めたのか、耳まで真っ赤になっている雛が映っている。


(……しかし、互いに耐性無さすぎじゃないかのぉ……?)


そう思いながら、少し離れてしまった距離を埋める為に走り出した。

















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