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一手。

「ごふっ……! しまった、突っ込み過ぎたな……」


「あ? 仕留められてねぇのか。まぁいい。てめぇはもう戦線復帰できねぇだろうからな」


乗せられていた足はゆっくりと引いていく。


「ま、面倒なことやられても嫌だし先に潰すわ」


俺の体は、簡単に宙に浮かんだ。サッカーボールのように蹴り上げられ、地面にゴミのように落ちる。


「よっし、これで終わりだな! 後は狗と女一人……しかも二人とも手負いだ。楽なもんだ」


エセルバートが雛たちの方を向き、のっそりと歩き出す。


俺の体の横を通る時、その足を掴む。エセルバートの足は俺に掴まれ、動きを止めることを余儀なくされた。


「……待てよおい。まだ意識失ってねぇのに戦線離脱? 随分甘いんじゃねぇの?」


自分でも声が震えているのが分かる。そしてこれは武者震い等の物ではなく、痛みや痛みを与えられた対象への恐怖から来ているものだとも。


「ハァ……お前……本当に死にてぇらしいな。そのボロボロの体で、その体勢からどうやって──」


突如襲ってきた白い何かの攻撃でエセルバートの体が仰け反り、俺は仰け反った時に足を引き、バランスを崩し転倒させた。


転倒したエセルバートは起き上がろうとするが、俺が馬乗りになり起き上がれないようにする。かかとから飛び出る刃を魔力を纏わせて、強度と貫通力を高め腕に突き刺す。


簡単に貫通したことに少し拍子抜けしながら、地面に縫い付けるように突き刺す。


「ぐあっ! お前……」


「喋ると舌噛むぞ、千切れるかもしれないレベルで」


何か言おうとしたが、そこに魔力を通した義手を叩きつける。拳を作ったりせずにただ振り下ろしただけだが、花から血が垂れ、歯も数本折ったような感覚が残る。


(なるほど、魔力を纏わせたりすれば鱗の防御を貫通させられるのか……)


次は右腕に同じように魔力を通し、殴りつける。魔力が尽きた上、右の拳の一部は折れて青く染まっているが、全力で叩きつけた。


「おいおい……てめぇの左が効いてるのは義手の固さがあるからだ」


ニヤリと笑いながら、こちらに視線を向けるエセルバート。


「という訳で、お前の右手の攻撃は通用しません、残念でした!」


「……左腕だけか……ナイフとかあればいいんだけど……それにお前の攻撃手段は封じた、お前こそ何が出来る?」


「一つ忘れてんじゃねぇか? 龍人が出来る攻撃手段はまだまだあるぜ」


エセルバートは掌に突き刺された刃を気にせず砕き、足を掴んで離さない。振り払おうとしていると、口元に黒い光が集まり始めた。


「ブレス……! 光牙さん、離れて!」


「さっきから振り払おうとしてるよ! でもこいつガッチリと掴んで絶対に離そうとしやしない……!」


腕に拳を叩き込んでも、足を動かして地面に挟んで潰しても、こいつにはそんなに効果がない。地面では逆に地面が凹み、魔力のない拳ではどうにもならず、逆にこちらの拳が悲鳴を上げた。


(こいつの集めた魔力量だと、俺の体に風穴が開けばいい方だ。最悪、消し飛ぶ。なら……)


発射口である部分を潰す。左では融解、または耐えたとしてもそこからは使用不可能になってしまう可能性がある。


(右腕を……叩き込むしかないな……!!)


既にボロボロになった拳を何とか握る。最早握るだけで鈍い痛みが手に走るが、歯を食い縛って耐え、その拳を迷いなくエセルバートの口内に叩き込む。


「ギャアアアアアア!!」


「ぐうっ!! ……くっそ、滅茶苦茶痛ぇ……!!」


口内で起きた爆発は、俺とエセルバートのそれぞれに多大なダメージを与えた。俺は右腕が焼け、黒く変色しており、まともに動かせない。


エセルバートは言葉が暫く使えないだろう。口の中で爆発が起きたので、口内に残るダメージは計り知れない。


「グァ……オバエェェ……」


「まだやる気なのかよぉ……!!」


互いに走り出し、エセルバートの拳をかわして腹部に肩で体当たりをし、穴に向かって押し込む。


「光牙さん!」


肩で押し込んでいる最中に聞こえた声に振り向くと、雛が両手をこちらに向けているのが見えた。


何をしようとしているのかすぐに察し、エセルバートに前蹴りを食らわし、飛び退いて距離を取る。


「雛、今だよ!」


「《デストリュクシオン・テンペスト》ォォ!!」


飛び退いて距離を取った途端、エセルバートに向かい黒い竜巻が二つ、荒々しく地面を抉りながら向かい、エセルバートを呑み込んだ。


「グゥアアアアアアァァ!! キッザマァァ……!!」


黒い竜巻は、エセルバートの強固な鱗も関係なく、バターのように容易く切り刻んでいく。先程切り傷を与えていた腕は、その傷から切り落とされて地面に落ちる前に血になった。


「こんなのがあったのか……中々エグいというか、なんというか……雛?」


「こんな……魔法だったの……?」


雛の様子がおかしい。口に手を当て、目が大きく開かれている。先の言葉からして、自分で編み出したのではないのだろう。今にも吐きそうだ。


「……雛」


「っ! はい、なんでしょうか?」


「無理しないで。あそこまでダメージ与えたなら、後少しで倒せるから。解除してもいいよ」


「……すみません、ありがとうございます。そろそろ魔力も、別の方面も限界近かったので……」


そう言うと雛は力を抜いて行き、竜巻はやがて消え去った。


竜巻が消えた場所には、切り傷だらけのエセルバートが辛うじて立っていたが、竜巻が消えてすぐに地面に倒れ、地面に赤い絨毯を作る。


「ゴロズ……おばえらだげば……」


「執念深すぎんだろっ、もう諦めてくれないか! 雛!」


「はいっ!!」


俺が駆け出した後、雛が風を操りトンネルを作る。その風に乗り勢いよく回りながらエセルバートに向かっていく。


エセルバートもそれを見て、向かって来る俺に注視して拳を構えた。


「グアアアアアアァァァァ!!」


「これで……終わりだぁぁ!!」


エセルバートの拳は風に吹かれて不規則な動きをする俺の動きを捉え切れず、俺の頬を掠める程度に終わったが、俺の勢いを乗せた蹴りは腹部に当たり、大きく吹き飛ばす。


吹き飛んだエセルバートの体は大穴の中心上まで飛んで行き、そこで落下を始めた。


「くっ……クッソガァァァァ!! ナンデコイツラニィィィ!!」


エセルバートは怨嗟の声を響かせながら、その身を暗い穴の底の闇に呑まれていった。


「ハァ……ハァ……」


視界が霞む。体が怠い。血を流しすぎた……体が言うことを聞こうとせず、そのまま倒れ始める。


地面に倒れ込むすんでのところで、誰かに支えられた。


「雛か……?」


「はい、私ですよ。……何とか生き残れましたね」


「あぁ、何とかね……今にも意識が消えそうだけど……」


先程からずっと、目の前が明滅を繰り返している。今日はというか、暫くは進めないだろう。白焔に乗れれば別だが。


「にしても、あの人の教えてくれた魔法が、あんなに殺傷力が高かったなんて、知らなかった……いざという時の切り札に使えって、何度も言われてはいたんですけど……」


「それが、あんな威力だったとはねぇ……」


エセルバートの強固な鱗を容易く切り刻み、切れた腕が空中で塵のようになっていくのを思い出して、あれは対龍人用の魔法だったのではないのかと考えたが、答えを出すより早く、視界が暗くなり、その場で眠るように意識を手放した。

















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