止められても、止まれない。
やらかした、前回のは本当に気付かずに投稿してしまいました……本当にすみません。
「っ、光牙さんっ……!!」
雛の声が背後から聞こえ、すぐに地面に何かが落ちたような音がした。気を失ったのだろう。
こちらに向け言わんとしていたことは警告だろうか、それとも止めようとしていたのか。確かに、こいつは先ほどの雛との戦闘でヤバいというのはわかった。しかし、微塵も止まろうとは思わなかった。
自分と、目の前の敵に対する苛立ちが、冷静な判断を出来なくさせている。何故最初から飛び出さなかった、何故こいつも簡単に作業みたいに人を殺せる。
あぁ、やはり俺は弱いんだ。大事な時には怖がって、仲間が死ぬかもって時にならないと飛び出せなかった。心が脆い、脆弱過ぎる……
その思いが頭を駆け巡り、苛立ちを加速させる。怒りに歯を食いしばりながら、拳を強く握った。
「くはっ、いきなりご挨拶だなおい!!」
「話すつもりはないっての……!!」
何事もなかったかのように立ち上がったエセルバートに、再度炎を纏わせた拳を叩き込む。叩き込んだ直後に爆発が起き、エセルバートと俺の体が逆方向に吹っ飛ぶ。すぐに体勢を整え、立ち上る煙を見ながら手首を振る。
「くっそ、やっぱいてぇ……!!」
「おいおい、なんだこのへなちょこパンチは!」
煙の中で、斧を投げ捨ててから勢いよく走り出したエセルバートは、俺に向けて拳を放つ。その拳を腕で受けた俺は、鈍い痛みと共に吹き飛び、近くにあった大木に背中を強かに打ち付けた。そのまま重力に従い、地面に落ちる。
すぐに立ち上がるも、警戒してしまい
「ごっ……!? 何だ今の、滅茶苦茶硬いものをぶつけられたような……」
「オラ、もう一発行くぞ!!」
エセルバートはその場から動かず、拳を引いている。その拳が前に勢いよく突き出された。何も見えなかったが、腹部に殴られたような衝撃が走り、膝を着いていた状態から仰向けに倒れた状態になる。
「ははっ、どうするよ。見えない砲弾だぞ!!」
「そんなのアリかよ……!?」
すぐに立ち上がると再度拳を握り、体を加速させエセルバートの目の前に現れ、連続で拳を同じ箇所に叩き込む。しかし、エセルバートは拳を受けたのにも関わらず、平然としていた。それどころか、自分の拳がダメージを受ける始末だ。
「硬ぇ……!! 剣でも通るかどうか……!!」
「通らねぇよ、てめぇの攻撃じゃなぁ!!」
下から掬い上げるように振るわれた腕を受け、視界が揺れる。硬いもので殴られたからか、視界が揺れ、堪らず膝を着く。膝を着いた所に空気砲弾が連続で飛来し、全身に殴られたような痛みが走る。
その一発が腹部に当たり、血を口から吐き出す。
「ぐうっ……!! この……」
「ヒャッハー! ブッ潰れるといいぜぇ!!」
ブレスで怯ませようとした所に、拳が振り下ろされ、地面に叩きつけられる。エセルバートの周りの地面がひび割れ、俺のいた部分は陥没した。
頭から血を流し、地面に倒れる。立ち上がろうとするが体は言うことを聞かず、指の一本もピクリともしない。
(痛い……頭から血が出て、ちょっとは冷静になったと思う……けど、体が動かないんじゃ無意味だ……何もできない……)
無理だ、勝てない……そんな思いで頭が一杯になる。諦めて死ぬ、それ以外に道はない……そう考えていた。
(……待てよ? 何で勝とうとしてるんだ? アイツを撤退させるのも倒すのも難しいなら、逃げてしまえばいい。魔力探知とかもあり得るけど……大きなダメージを与えればまだ生きられるかもしれない……)
今、その当の本人は斧にゆっくりと向かっている最中だ。首を落とす気なのだろう。
生憎、今俺の立場が向こう……ロアの国ではどうなっているのか知らないから、どうしても推測の話になってしまう。でも今は生き残ることを考えよう。
少しずつ魔力を口に集め、いつでも放てるようにする。エセルバートは斧を肩に背負い進む。
一歩。火力的にも、倒すには足りなさすぎる。
二歩。まだ足りない。
三歩。ギリギリ足りない。
四歩目。ここならいけると、口に集めた魔力を吐き出そうとした時。
──横たわる俺の体を無視して、エセルバートが雛の方に向かう。
驚きのあまり、口に集めた魔力が雲散してしまう。体の痛みに耐えながら上体を起こし、注意を引こうとする。
「っ……おい、目的は俺じゃ、ねぇのか……!?」
「あ? 何だよまだ生きてんのか……順番に殺してやるから寝てろ。先にこいつだ」
そう言いながら、こちらに空気弾を飛ばし、片手で横たわる雛の体を仰向けにしている。
空気弾は、俺の目前に着弾したものの、暴風が吹き荒れ容易く吹き飛ばされる。空から地面に叩きつけられると、蓄積されたダメージのせいで、もはやその場で顔を上げることしか出来なかった。
「ぐうっ……! どういうことだ……!!」
「ん? そうだなぁ……こいつをここで逃がすと、俺の活動が難しくなるからだな。俺、名前は知られてるけど、顔を見たやつは大体あの世だからよ、そういった奴等も殺さなきゃならねぇ。だからこいつを先に殺す」
「くそっ白焔、来てくれ!!」
しかし、俺の呼び掛けに応じる気配はない。今までは聞こえたなら、来てくれたのに……!
「あー、その白焔ってやつな。どう見ても危険だから足止めしてんだ。魔物をけしかけんのは案外簡単なんだぜ? 群れのリーダーを殺せば、言うことは大体聞くからな。狼と熊の混合部隊じゃ中々厳しいだろうよ、アイツ。もう食われてんじゃねぇか?」
エセルバートが斧を雛の細い首に向けてから、大きく振りかぶる。
先程の白焔が感じ取った悪しき者というのは陽動だったらしい。白焔は複数を相手にできるものの、それでも限度はある。白焔の救援は期待できない。
……自分で、何とかするしかない。雛を殺させない為には、逃げてこれからどうするかではなく、こいつをここでどうにかしなくてはならない。
壊れかけのロボットのようにゆっくりと、だが確実に腕に力を入れて体を起こしてから、剣を手に取り、鞘から引き抜く。エセルバートがそれに気付かない筈もなく、ゆっくりと近寄ってくる。
「んだよ、そんなもん今更取り出したってどうにもならねぇだろ。全身ボロボロだろうが」
エセルバートは俺を先に殺そうと、斧を横凪ぎに振るう。
確かに、今の俺は立っているのがやっとの状態だ。しかし……
「誰が戦えないなんて言ったよ。ボロボロでもまだ剣は握れる、拳もそうだ。まだ負けてねぇよ!!」
義手で斧の刃を受け、片手に持った剣でエセルバートを突く。硬い物に当たったような音が響く。
「だから効かねぇって言ってんだろうが、馬鹿か!!」
拳が振るわれ、俺の頬を打ち据える。倒れそうになるが、気合いで耐え、もう一度同じ部分に突きを放つ。
「くそっ、死に損ないめ……!!」
次は焦りからか、とても大振りに拳が振るわれる。この程度なら避けられるし、カウンターを狙いやすい。
紙一重の所で顔を下げて避け、指を銃のようにして指先から炎弾を放つ。
大部分の炎弾は何も効果は見込めなかったが、先程二発突きを当てた箇所からピシリと音が聞こえ、間髪入れずに左腕の拳をそこに叩き込む。
「効かねぇって……ぐうぁぁあぁぁ!!」
皹が入った箇所から左の拳が、容易く貫いて大きなダメージを与え、吹き飛ばした。エセルバートはその場で立ち上がるが、警戒してか、こちらを見ている。
「てめぇ、なにしやがった……!?」
「教えるかよ、バーカ」
剣を構えてから言い放ち、エセルバートに向かい走り出した。それを見たエセルバートも走りだし、互いの武器がぶつかりあった。