言葉と恐怖。
「とは言ったものの……案外難しいよなこの誓い……」
「難しいけど、やることに意味があると思いますよ。生き残ることを考えるなら、一番優先すべき事柄ですし」
森の中で、白焔を傍に連れて歩く俺達。まずは南へある、名も知らない人間の国を目指して歩いていた。
そう、白焔が出会った当初よりも小さくなっているのだ。それも普通に現れる狼のようなサイズに。食事は普通にしているようだし、体には異常は無さそうだが……
(いや、待て。なんで食事してるのに小さくなるなんて発想が出るんだよ……)
早い時間帯に家を出たからか、頭が上手く回っていない。取り敢えず、頬を叩いて眠気を飛ばす。
その後白焔に近付き、地面に膝をつけて白焔に問い掛ける。
「白焔、お前に何が起こっているんだ? 言葉が分かるってことは分かるんだけど、それに反応して俺達に伝えてくれると助かる」
「……反応トハ、コウイウモノカ?」
「そうそう……待って? お前今……!?」
咄嗟に驚いて後退る。自分でも情けないとは思ったが、正直この反応はおかしくないと思う。同時に失礼だとも思ったが。
「ひ、雛! 今白焔喋ったよね!? 聞き違いじゃないよな!?」
「き、聞き違いじゃないですよ私も聞きましたもん!」
「……取り敢エズ、落チ着いてクレ……」
半ば驚き過ぎてパニックになっていた所を、二人とも、白焔の言葉でなんとか冷静になってきた。
「あ、あぁ。悪かったな、取り乱した……でもなんで今になって……?」
「着イテ行クにしても、コチラダケ理解してイルのは不便デハと思ってな……先マデ黙ってイタノは……面白いト思ってな……」
「……なんでそう人の反応で楽しむやつが多いんだここは……!」
その場に頭を抱え、蹲る。しかし、理由が分かった。相互理解は確かに大事なことだ。例えそれが獣であったとしても仲間なら余計に。
「……で、なんか違和感があるんだけど」
「ソウカ?……ちょっと待ッテオレ……これならどうだ?」
先程より滑らかになり、流暢な言葉が耳に入って来た。目を瞑って聞けば、人と全く遜色はないように感じる。
「……お前本当なんでもありだな。お前らって大体こんな感じなのか?」
「知能は高めだからな。まぁ、特別だとは思うが……」
「まぁそんな簡単に喋れるようになっても困るんだけどな魔物が。やりにくいし、知能があるってことは罠とか仕掛けてくるし……」
「まずお主は戦闘時に頭を停止させるのをなんとかせよ。それでは死ににいくと同義だと何度言われたよ……」
白焔の前足が自分の胸に向けられる。人がやっているなら指が自分の胸に突きつけられているだろう。
「何でだろうねぇ……」
「まずはそこからだろうよ……さて、この辺りにしておいて……雛よ。お主に聞きたい。主はどうしたいのかがてんでよく分からん、だから話してくれんか?」
……雛がどうしたいのか、よく分からない? そういえば、俺は雛が何がしたいとか、あまり聞いてこなかった。聞かなければ分からないこともあるのにも関わらずだ。
「あ、確かに全く話して来ませんでしたね……すいません。私がしたいことは、親を探す……いえ、親代わりだった恩人を探すことです。私は以前、別の里に住んでいたんですが……そこに他の龍人が攻めてきて……」
雛の口がそこで止まる。雛の方を向くと体の震えを止めようと、必死で自分の体を押さえていた。
「すみません……どうしても、あのときの事を思い出すと……体が震えだして……!!」
なるほど、その際の光景がトラウマになっているのか。ならあの時に着いてきていなくてよかった……
「それと同時に、繋がりが怖くて……! 失ってしまってから心を蝕んで辛くなるなら、最初から……!!」
「……繋がりが、怖い……?」
なんだよ、それ。今まで俺が必死で求めても手に入らなくて、やっとのことで手に入れたものが怖い……? 何で……?