人との違いは何か……?
「漸く中心に辿り着きましたが……何があったのですか、ここで」
森の中心、リュミエール跡地。里らしき物が見えた時にアルバートは走り出したが、里の惨状を見た途端に足が止まった。
「ご覧の通りだよ、ここは他の龍人によって滅ぼされた。そいつが言うにはいずれ滅ぼすつもりだったが、出向いたついでに……らしい」
自然と拳に力が入る。目を閉じれば今も里が燃える光景が見える。あの炎が、あの時から瞼に焼き付いて離れない。
消える時は、ロアが死んだときか……俺が死んだとき、つまりどちらかが消えた時。
「人も龍人も、同じだよ。互いに邪魔だからとか、利益になるからって理由で喰らいあってる。……もっと目に見える敵がいたってのに」
魔族という共通の敵がいながら、この二種族は互いを憎みあうことしか出来ていない。リュミエールの人は比較的温厚だったが……それでも内心では、人間が憎いと言う感情はあっただろう。
そう考えるだけで、勝手に口が動き、止まらない。以前から続く憎悪は、収まる所か増幅されていたようだ。
「……人間と龍人。同じようで全く違う種族。共通してるのは、お互いに憎み合うことだけ。悲しいよね、こんなことだけ同じなんだ。こんなことじゃ、いつかどちらかが滅んでも残った側にも未来はないんじゃない? 次は互いに殺し合うだけさ、同じ種族で。あ、でもこっちは先に互いを減らす道を選んだね」
俺が多数の骸が眠る広場に入ると、続いて入ってきたアルバートは顔を歪ませ、墓の一つに近付くと座り込み、顔を押さえる。
「それでも私は……いつか手を取り合える日が来ると信じています」
手の平で隠れた口から、くぐもったような声が聞こえた。
「難しいでしょ、命が互いに散っていくだけだ」
「私は……! 魔族を倒すためには全ての種族が力を合わせねばならないと考えています! そのために……」
「無理だよ。今の段階じゃ無理。そっちの王様が、亜人や龍人を魔族と同義だと言う限り無理だ。俺は別だよ、何とかしたいと思う。こんな世の中じゃ録に外も歩けやしないし。でもまずは……俺はロアを倒さなきゃ。あいつがいる限り、魔族も龍人も同じ、人間の敵になっちまう」
魔族とかはまだ大丈夫だ。まだなんとか凌げる。だが、ロアは……正直言って、戦って生きているのが奇跡だと思う。今じゃ勝てない。
ロアを倒さなければ、龍人が人間の王を倒した後に、消耗仕切った所を攻められ、共倒れなんてこともあり得る。
「今は無理だよ。けど……いつか手を取り合えるよ。種族は違ったとしても、仲間になってる奴もいるし」
「……なら、この森で次会うことがあれば仲間と考えていいんですよね?」
「外で会ったら初対面か、昔の知り合いって感じで。……そういや、互いに名前は知ってるけど、自己紹介してないよね」
「あー……いつの間にか、互いの名前が聞こえてましたからね……」
「じゃ、ここでやっとこうか。白天光牙、龍人の一人。仲間はまだいるけど、まず一人。ここにいるけどずっと黙ってたロビン」
右手を相手の方に差し出し、左の親指で後ろにいるロビンを指指す。
「おたくらの話重いんだよ……ロビン・チェイサーだ、よろしく」
「ではこちらも。アルバート・ウォーカーです。勇者……とは言われていますが、未熟者です。仲間は魔法使いのシェリル・バーナード、その師匠のアラスター・アルフォード、魔導銃使いのクレア・バレットの四人です。これからよろしくお願いしますね」
「あぁ、これからよろしくな!」
互いの手を強く握る。初めて……ではないけれど、人間との繋がりが出来た。
──────────────────────
「にしてもさ……光牙?」
「なんです? クレアさん」
「あんた話聞いてる限り無茶苦茶してるじゃない、ネジ飛んでんじゃないの?」
「……多分二本は逝ってますね」
……これが治らないから質が悪いのだ。家に向かう途中で、どうしたら死に急ぎ癖が治るかとロビンが案を集めたのだ。
「うーん……これは難しいですね、行動を縛るのは無理でしょうし」
「……柱に、縛っておく?」
「何でそう物理なんですかあんたら」
先程から物理的な回答しか集まっていない。脳筋の集まりかここは……!
「じゃあ、こういうのはどうでしょう。一人で突っ込む度に、何か罰を設けるというのは」
「いい笑顔で言い切ったよアルバートさん。そういう笑顔はスッゴい嫌な予感がするんだよね、無理な物とか……」
嫌な予感に身を震わせながら、時折止まりながら道を歩き続けた。