会話と迷子。
「調査……それは、この森に俺達が住んでいることがバレたから、とかそういうことじゃないんですよね」
「えぇ、以前の異常な落雷の調査です。バレてはいませんよ。しかし、龍人はいるかもしれないと言われている森ですが、まさか本当に隠れ住んでいたとは……」
どうやらこの勇者一行、ロアとの戦いで生じたあの雷の調査で命じられて来たようだ。しかし……
「あなた達の目的はそうかもしれない。でも、信用しきれない。信用が出来る筈ない……」
見ず知らずの人間を無条件で信用出来るほど、気楽に生きてきた訳じゃない。
「……そうでしょうとも。あなた方は私たちが憎いでしょう。龍人の方々に対して、私たちは酷い迫害を行ってきました。許されることではありません……」
アルバートと呼ばれていた男が顔を苦々しい物に変え、俯く。
……あれ、これ勘違いされてない? 俺はただ無条件で信用できないだけ。向こうは俺の言葉が、人間なんて信じられるか、的なニュアンスになってる気がする……
「アルバート、違う……彼、無条件じゃ信用出来ないってことだと思う」
「……あー……そういうこと。生憎俺はこの森と他の龍人の里しか、この世界を見たことがなくてさ……そういった迫害を聞いたことしかなくて、言われたとしても実感沸かねぇんだよ……」
頭を掻きながら、魔法使い……シェリルの言うことに補足をつけ、同調する。
「それによ、勇者様。こいつに謝罪したっていいことねぇぜ? 自分が受けたことない迫害で謝られてもとか、そういうタイプだ。そういうのはおたくの理想が叶ってから、代表同士で話しな」
今まで黙り込んでいたロビンが俺の肩に腕を回し、顔に指を指しながら言う。
「ひっでぇ。流石にそんなお人好しじゃねぇっての」
「あ? じゃあおたくは何か要求すんの?」
「……別に」
「だろ?」
危害を加えられてないのに、そんなことをする気になるわけがない。
「という訳でアルバートさん、あなたも気にしない方がいいですよ。正直、やりにくい所がある」
「……はい、分かりました」
……まぁ、悪い人ではないんだろう……多分。何というか、この人には嘘や騙すといったことは難しそうだ。
「そういえば、あなた達はなぜここに?」
「……あー……それ聞いちゃいます? ……迷子ですよ。迷子」
「なら、私たちとともに行きませんか? 中心部に向かおうと思っているのですが」
そういえば、ここの里があったのは中心部だったなと今になって思い出した。
あれ、この森の隠蔽効果、効いてない……?
「何故中心部に?」
内心で動揺しながら、それが顔に出ていないかと心配しながら恐る恐る尋ねる。
「多数の雷が落ちたのは森の中心部、なのでそこに行けば何かがあるだろうと思いまして。それに、龍人関係の物も見つかりそうですし」
なるほど、そういや目的は落雷の調査だった。それに、人の勘とは宛にならないものだと思っていたが、案外侮れない物かもしれない。
「……分かりました。ご一緒させていただきます。行き先は同じなので」
「おや、というと……」
「えぇ、あなたが言った龍人関係の物はこの森の中心にありますよ。……お気に召すかは、分かりませんが」
──────────────────────
「なぁ、光牙」
「なんだよロビン、暇なのか?」
「そりゃなぁ……」
勇者一行の後ろを歩きながら、頭の上で手を組みぼやくロビン。
「そこまで迷っていたってことだろ、白焔呼んでなくてよかったな」
「……呼んだら色々と、準備出来たんじゃねぇのか……?」
「何の用意だよ、食器か? ナイフでも用意すんのか」
「何でもてなそうとしてんだよ、馬鹿か。おまけに食事たってよ……」
「しまったそうだった、あまりバリエーションがない」
なんて下らない会話をしていると、シェリルがふとこちらを向いた。
「……楽しそうだね、君」
「ん? まぁ退屈はしないでしょ、いつもこんな感じだと。そっちは? 楽しかったこと、ないの?」
「……ない訳じゃ、ない」
俺が落ちてきた時もあまり表情の変わらなかった顔の口角が少しだけつり上がっている。楽しかったことを思い出したんだろう。
「でしょ? そういう物だよ多分。……きっと」
その後は、全員で下らない話をしたり、魔物に襲われたりと色々とあったが……
「アルバートさん……結局、戻ってない?」
「戻ってますね……足跡、ありますし……」
また、同じ場所に戻ってきているのだった。
……何でだよ!?