勇者一行との初邂逅。
「でもさー、森の中で迷った時ってあまり動き回らない方がいいんじゃないの?」
「俺らの場合、動かねぇと始まらねぇだろ。道を探す所からだ。それに魔力回復してんなら飛んでも大丈夫だと思うが……王都から誰かが送り込まれていると考えた方がいいだろうな」
鳥の囀りが響く森の中を、歩く人影二人。右腕はまだ使えないが左腕と両足はなんとか使えるレベルになり、今は支えられることなく自分の足で歩いている。
「そうなんだけどさぁ……道を探すって言ったって、目印になるような物はない、その上、木の枝とか岩だって同じような形だしさぁ……」
「……それは俺も分かってるから、全部言わないで欲しかったかなぁ……あー、案内役いねぇかなぁ……」
一度休憩を取ろうとその場に座り、直ぐ様横になるロビン。しかし案内役か……俺たちの知り合いだといな……
「あー!! いるじゃん案内役!!」
「マジか!?」
俺の声に反応しガバッと、勢い飛び起きるロビン。
「ほら、白焔! アイツここの主兼守り神みたいな物だったし、道とか覚えてるって!」
「なるほどな、試してみるか。じゃあ……待っておたくどう呼ぶつもりだ? 笛とかだったらアウトだろ、聞かれた時を考えるとデカイ音を立てるのは避けねぇと」
「前は大声で呼んだよ?」
「アウトじゃねぇか」
策はよかったのかもしれないが、肝心の呼ぶ方法が悪かった。本当に来ているという確証がないが、悪い方向に考えておいた方が良さそうだ。
という訳で、この案は……最終手段に取っておこう。
「はぁ……本当にどうするかな……」
「おたくの大声、役に立つ時が来たと思ったんだがねぇ……あ? 光牙、隠れるぞ」
「何、魔物?」
「人間の気配だ、数は四人。兵士の集まりとかそんな感じじゃねぇけど……万が一のことがあり得る」
「マジで? じゃあどこに隠r──」
瞬間、体が宙を舞った。重力が体にかかり、息が詰まる……というか首がしまって息が出来ない。
苦しいと感じてすぐ、衝撃とともに硬い何かに落ちていた。俺は咳き込みながら、今の場所を確認すると、太い木の枝に腰かけている状態だった。
「おい殺す気か!? 首がしまったわ、せめてやるにしても別の場所持ってくんないか!?」
「馬鹿、声がデケェよ。声を落とせ。それは悪かったと思ってる。ただ……マジかぁ、いきなり弱い方とはいえ勇者ご一行を使うか普通……!?」
ロビンが見ている方向を向くと、格好はバラバラだが、先頭を歩く男からは確固たる強い意志を持っていると感じさせられた。
「しかし……何故このような森に態々私たちを送ったのでしょうな、王は」
「検討はつく。先日、この森だけに何度も落ちた雷に、森から立ち上った煙。その原因を調べてこいと言うのだろう。……この森には前から龍人がいるのではないかと言われていたからな、漸く本腰を入れて調べようと言うのだろう」
おーい、村長バレてんじゃねぇですか。盗賊だけだと思ってたら結構バレてんじゃねぇですか。
「事情は分かりましたが……」
「あぁ、正直な……王が色々と考えているのだろう。龍人に殺されてしまえ、なんてことを。私は出来れば友好を結びたいと考えているのだが……もう一人の勇者があれではな……仲間も作らない、戦場に行けば敵味方関係なしに前に立った者を殺す。おまけに発言権はあちらの方が強い……全く、どうしたものか……」
そう言いながら、彼らは歩いていく。中心に向かって進んでいるのか、彼等は迷うことなく進んで行った。
どうやら、彼の発言権は低いようで、かなり鬱憤が溜まっていそうな立ち位置だ。でも何でそんな一歩間違えれば狂戦士のようなやつが、全うな勇者より……?
そう考えていると、不意に一番後を歩いていた魔法使いのような格好をした少女が立ち止まり、振り向いた。
「やっべ……!?」
「大丈夫だ、ギリギリで隠蔽間に合った……!!」
どうやら彼女には俺たちの姿は見えていないようだが……不意に立ち止まった仲間に不審に思ったか、勇者然とした格好の男が近寄ってくる。
「シェリル、どうしました?」
「アルバート……いや、誰か……いたような気がした。赤い物が見えたから……」
「何ですって? ふうむ……隠蔽でしょうか……よし……すみません、私たちは敵ではありません。どうか姿を見せてくれると有難いのですが……」
細い指をしっかりとこちらに向ける。どうやら、彼女には少し見えてしまっていたようだ。
ふと気付いたが、俺の髪は来たときよりかなり長くなっており、男にしては少し長めの髪だった物が、腰まで伸びてしまっている。
……そりゃ、上見たらバレるわ。勇者さんが前しか見てなくてよかった……
「……悪い、俺の髪だわ多分。チラリと垂れてたんだろうな。上まで見てるとは……」
ロビンに謝罪の気持ちを込めて、小声で話しかける。
「……いや、隠蔽を最初に使わなかった俺のミスだ。ついでに帰ったら髪の毛切るとか束ねるとかしとけ、多分それ鬱陶しくなるかもしれないから。どうする、顔を見せるか?」
「あぁ、この木の枝からすっと下りて……」
木の枝から降りようと、立ち上がる。立った瞬間に、足元からバキバキと音がする。
「……しまった、流石に立つのは耐えられんかったか……」
「おたくは何で立って飛び降りようとしたんだよ……」
バキリと大きく音を立て、体が落下する。右腕を庇いながら、そのまま真っ直ぐ落ち、ロビンとともに地面へ落ちていく。
それを見て、勇者然とした男は隣にいた魔法使い少女に指示をすると、落下スピードが比較的ゆっくりになり、怪我もなく地面に足をつけられた。
「えーっと……ありがとうございます、勇者ご一行……様ですよね?」
「えぇ、その通りです。少しここの調査をしろと王に言われてやって来ました」
少し締まらない感じもするが、これが俺の、異世界における勇者一行との初邂逅だった。