森の中で迷子。
「ほーん……強化されたミノタウロス、ねぇ……障壁を貼ることが出来て、パワーじゃ向こうに分があった……おまけに血が付着した地面に生えていた草は灰になったと……そんなヤバいのこの辺じゃ出てこないと思うんだけどねぇ……」
「事実だろ、じゃあ折れた右腕はなんて説明するんだ」
「おたくがすっ転んでぶつけどころが悪かったとか、色々思い付くぞ?」
「……そうか……」
森の中、二人で歩いている。完全に日は昇り、鳥の囀ずりや動物の鳴き声が森に響くような時間になった。
「にしても……」
「あぁ……」
「「迷ったなこれ」」
森は複雑に木々が絡みあっており、探しにくくなっており、来た時には気にならなかったが、似たような地形が多い。この木の枝の絡み方も何度か見た気がする。
「ロビン、鼻は利くか?」
「いんや、この森、匂いどころか魔力まで隠してる。魔力を探そうとしても、見つからない。鼻は……あ、大体お前のせいだな、服。土の匂いと血の匂い」
「戻ったらしっかり洗うよ……」
しかし、どうしたものか。このままだと、のたれ死んでしまうかもしれない。それにこの森、魔力を隠すと来た。
気になり、木にある葉っぱを一つ毟る。裏と表を繰り返し眺めてみるが……特に変わった所はない、普通の葉に見える。
観察と休憩を同時に行おうと、その場に座り込む。
「光牙、手に魔力を纏わせてみてくれれば分かる。炎とかだと燃えちまうから、普通に魔力を流して強化する感じにしてくれ」
「ん? 了解。けどそれでなんか分かるのか?」
ロビンの言葉に従い、魔力を腕に流す。やはり自分の目で見てもそんなに変化は無さそうだが……
「変化がないことが異常だろ。おたくの強化は良くも悪くもペカペカ光るだろうが」
「あ、そうか……なるほど、だからこの森に隠れてたのか……」
強化を施しても、何の変化も見られない。それが自分の中での普通だったが、俺の強化はどうやらロビン曰く、『ペカペカ光る』らしい。
その変化が見られないということは、俺一人なら完璧に強化を隠せる、ということになる。しかし……
「ちょっと光漏れだして来てるな……木から離れるともって3分。多分木が力の源なんだろうな。でもって、隠蔽としては低品質。数分しか持たないし、よく見たらバレるしと、あまり効果は見込めないと」
「うーん……これ沢山集めて、とか考えたけど無理か」
まぁマントの代わりにはなるか、見栄え悪いけどと、考えていた時、急にあの日の光景を思い出した。
燃える里、物言わぬ亡骸となった皆に、アイツの目的……
黒い煙が、空に立ち上っているのが、特に強く思い返された。見ていない隣国の者など、まずいないだろう。
「なぁ、確かあの時……煙が立ち上ってたよな」
「あ? そりゃそうだろ、煙ぐらい出るだろあんな雷とかで燃えてりゃ」
「……人間が、何があったか確認しに来るんじゃ……近くに国はあるか」
静かに考えを述べる。
「……あるな、しかもドデカイのが。王都エスプロジオーネ。軍備も国土も大きい……というか、エスプロジオーネ以外は全部魔王の手の元なんだけどな」
「詰んでねぇかそれ。後いないとは思うけど……【勇者】とそのご一行はいるの?」
「魔物のほとんどは烏合の衆なんだと。兵士一人で十体は相手できるが……」
ちょっと待って魔物弱くない? 俺一体で満身創痍なんだけど……
「そんな悲壮感に満ちた顔すんな、おたくが相手してるのはほとんどボスクラスだぞバカ。で勇者一行か……いるにはいる」
なるほど、いるにはいる……ここが問題だな。勇者ご一行がどんなものか、ちゃんと聞いておかないと。
「勇者は二人いてな……何て言ったらいいんだ? 簡単に言ったらあれだ。一人はいいやつで、龍人、亜人、人間が協力しなければ勝てないという思想なんだが……力が足りてない。もう一人は……魔物も亜人も変わらない、両方殺してしまえ。それか奴隷にでもすると、力説してるよ。」
つい、いつもの癖で頭を抱えそうになる。今は右腕を動かすなと何度も忠告を受けたのにも関わらず、だ。
当然、激痛が襲う。
「いっでで……!!」
「なにやってんだバカ!? でも悪かったな、固定忘れてた、なんか固定できそうなのは……」
「いい、魔力回復してきたから……《ファーストエイド》」
痛みが少し和らぐが、まだ鋭い痛みは腕に残っている。
「そんなんじゃあまり効果ねぇんだって!? 包帯と……結構丈夫な蔓があったから、それで固定するぞ」
手早く処置され、右腕が固定された状態になると、痛みは引いていった。
「本当手慣れてんよな、レーテさんのお陰で怪我とは無縁そうなのに」
「実家で覚えたんだよ、というか嫌でも覚えさせられた。動けるか?」
と言いながら、立ち上がってこちらの動きを待っている。
「あぁ、大丈夫だよ。もう大分動けるから」
休憩したことにより、大分体力も戻った。ゆっくりと立ち上がり、ロビンの方を向く。
「大丈夫そうだな。ただ、その腕じゃ飛ばすのは無理そうだな……」
「まぁ、そこはね……できるだけ急ごうか。人間達が来てるかもしれないし」
俺達は、今自分が出せる限界の速度で家に向かった。