検証。
「まずは筋力……はさっき分かったな。強化されていればミノタウロスを放り投げられる。でも素はまだわかんねぇや、試そう」
構えた剣を、地面に突き刺し、ミノタウロスに向かいながら素の状態に戻り、拳を振りかぶる。ミノタウロスも向かってくる俺を見て、同様に拳を構える。
「うぉぉぉぉらぁぁぁ!!」
「ヴォォォォォォォォ!!」
拳がぶつかり合い、強烈な衝撃波を生み出す。互いにまた拳を構え、今度は全力で殴ってみる。
先程の再現のように、拳がぶつかり合う。しかし、パキリとミノタウロスの拳から何かが砕けるような音が聞こえた。
「ヴ……ヴォォォォッ!?」
拳を押さえ、踞るミノタウロス。再生はするものの、やはり痛みがないわけではなさそうだ。
踞まったミノタウロスの頭が丁度足の前に来ていたので、ついでに脚力も試してみることにした。
「……サッカーボールの蹴り方って、こうだっけ?」
「ヴォォッ!?」
ミノタウロスの頭を、サッカーボールを蹴るような感覚で蹴り飛ばす。すると滑稽に思えるほど、勢いよく上空へ飛んでいき、ズシーンと音を立てながら地面に落ちた。
「うん、このミノタウロスを軽々と蹴り飛ばせて、腕の骨にヒビ入れるぐらいの筋力と脚力。うわ、軽っ。素でこれ位軽く持てるのか……」
ミノタウロスが落とした大剣に近付き、試しに片手で持ってみる。すると、面白い位に簡単に持ち上がった。
片手で振り回したり、もう片方の手に投げ渡したりしているうちに、ミノタウロスが起き上がり、近くにあった木を叩き折って武器にすると突貫してきた。
「ヴォォォォッ!!」
「あ、ちょっと防御力も試しに……ぐうっ……!!」
大木によるフルスイングを受け、脳が揺れる。体の構造は人間のままのようだ。どんな動物でも脳を揺らされては暫くフラフラとするだろうけど。
足が縺れ、地面に倒れる。
「ヴォォォォォォォォッ!!」
好機と見たか、何度も大木を叩きつけてくる。次第に大木が折れ、それを投げ捨てると次は自分の拳で殴りつけてくる。
「ヴォォォォォアァァッ!!」
最後は両拳を合わせ、振り下ろす。土煙が舞い、その土煙が晴れると露になったのは、立ち上がろうとするミノタウロスと、抉れた地面だけだった。
「あぁクソ痛ぇ……!! やっぱ俺馬鹿だよ、防御力なんて仲間に協力してもらって検証すればよかったんだよ!」
抉れた箇所から、頭を押さえて立ち上がる。正直他にも痛い箇所はあるのだが、視界がぐわんぐわんとしてそれどころではない。
ミノタウロスの方を見ると、焦ったのか、走って大木を折りに向かっていった。武器なしでやれるとは思わないらしい。すぐ近くに大剣あるんだから、拾えばいいものを……
「よいっ……しょぉ!!」
近くにあった岩を砕き、ミノタウロスに投げつける。大量に投げたものの幾つかが後頭部にが当たり、ミノタウロスの足が止まる。
「ヴォォォッ……ヴォォ!!」
ミノタウロスは後頭部を押さえながらこちらを憎々しげに見ると、両手を空に掲げる。するとその両腕に二対のハルバードが現れ、投擲体勢に入る。
「投擲か……多分なんとかなるだろうけど、案外ダメージ喰らっちまったからなぁ。しかも再生するんだから、どうしたもんかなぁ……」
ハルバードが投擲されるが、直線にしか飛ばないため、非常に簡単に回避できた。回避しながら、手を銃のように構える。
「《フレイム・バレット》!」
人差し指から、炎の弾丸が放たれる。胸部に当たった途端に、圧縮された炎が弾け、ミノタウロスの体を包み込む。
「ブモォォォォ!? ヴォォォォ……」
丸焦げになったミノタウロスの体が、前のめりに倒れる。しかし再生は続き、焼けた皮膚が徐々に色を取り戻し始める。
「うーん、やっぱり再生するか……丸焦げでダメとなると、やっぱ一撃必殺狙うかな……にしても首は堅くて斬れないし……」
正直、今は手詰まり感がする。首をへし折るしか方法がない気がしてきた。
ゆっくりと近くまで歩いていき、大剣を振り上げる。そして、迷うことなく振り下ろした。