胎動。
組み合って、五分ほど経った。あれから少し押しては押し返されての攻防が続いている。ミノタウロスは角を掴んだ手を振りほどこうと、頭を何度も荒々しく振るう。
それに対抗して、離してなるものかと、がっしりと掴む。ここまでやって振りほどかれたら、同じ芸当はできないだろう。ひどく体力を消耗してしまった。次同じことをやろうとすれば、拮抗することすら出来ず、即座に撥ね飛ばされるだろう。
絶対に振りほどかれるなと考えていると、左の義手の指が力を入れすぎたのか、嫌な音が聞こえてきた。
義手もそろそろ限界なんだろう。無理もない、最近はあまり整備することがなかった。
次はない、その緊張感から冷や汗が垂れる。
「ブモォォ……!!」
「まだまだぁ!!」
互いに力を込めて、目の前の敵を押し合う。ミシリと両腕から音が聞こえ、鈍い痛みが走るが無視して力を入れて押し込む。
「ヴォォォォォォ!!」
「ぐうっ……!! ここでさらに力を入れて来るか……!!」
ミノタウロスの力が増大し、少しずつ後ろへ下がっていく。障壁に触れてしまえば最後、どんなに抵抗したとしても、押し潰されて終わりだ。
ミノタウロスの顔を見ると、ただでさえ醜悪な顔が俺を嘲笑うかのように見下していた。
「ぐっ……うぅっ……!!」
勢いが、少しずつ弱まり、停止する。足に力を込め、ゆっくりと広場の中心へ進んで行く。途中、さらにミシミシと音が腕から聞こえたが、無視して押し進んだ。
「ヴォォォォ……!!」
「ここで負けてられないんだよ……!! たった今決めたことだけど、アイツをぶっ飛ばす時まで絶対に死んでやれない!」
この里を壊滅させたあの龍人。このまま行けば、アイツは世界中でこの大惨事を起こすだろう。ここにいた人は自分によくしてくれた、それを……!!
そう考えると、感情が昂り、手に籠る力も増大していく。ミノタウロスの角に、ヒビが入る。
あまりの怒りに、視界が紅く染まった瞬間。
自分の中で、何かが胎動している。次第にその胎動している【モノ】は目覚めると鎌首をもたげ、目覚めたぞと一声吠え、何かが流れていくような感覚が走る。目覚めた【モノ】はさらに奥深くへ潜って行ったが、【モノ】が目覚めさせた力は体中に伝わって行く。
体中に伝わって行く力は、体に馴染んでいき、すぐに目に見える変化が起こりだした。
鉤爪と牙がパキパキと音を立て鋭利な物に変化し、尾と翼もそれに合わせ強靭な物となる。少し頼りなかった角は少し太くなり、鱗はより深い赤へゆっくりと変化した。
「ぐううっ……うぉぉぉぉぉぉ!!」
角を掴んでいる腕にさらに力が入り、ミノタウロスを持ち上げる。ミノタウロスは持ち上げられたことに驚き、四肢をバタつかせている。
「なんだこれ……こんな軽く感じるなんて……! いや、持ち上げてしまえば軽いもんなんだろう、なっ!!」
「ブモォッ!?」
ミノタウロスを上に放り投げ、落ちて来るタイミングを図る。そして、ここだと感じたタイミングで、炎を纏った回し蹴りを叩き込む。
叩き込んだ蹴りは、左腕を巻き込んで左の脇腹に突き刺さり、 ボキリと何かを折った感覚を感じると同時に脇腹の肉を炎が焼きながら吹き飛ばす。
「おぉ……凄いなこれ……体がとても軽く感じる。この世界に体に馴染んでなかったのかもな。いきなり戦闘しちまったし。前のテリーとの完全同化は、不完全だった状態での100%を引き出せるようになったに過ぎないわけで……今は完全な100%のポテンシャルが出せるって考えていいのか」
拳を握ったり開いたりを数回繰り返し、顎に手を当ててブツブツ言いながらその場で考え込む。その間、ミノタウロスは脇腹についた火を消そうと、脇腹を何度も手で叩いている。
「ま、どれも憶測の域を出ないか……さーて、どうやらまだ俺は不完全だったみたいでさ……自分でもどこまでやれるか分かんないんだ。ちょっと……付き合ってよ」
剣を構え、じっと見据える。ミノタウロスは脇腹についた火をなんとか消火し、近くに突き刺さった大剣を手に立ち上がる。
ここからは、自分の能力がどこまで上がっているかの確認になるだろう……幸い敵は再生するし、細かいところまで知れるな。
そう考えると、自然と口角がつり上がった。