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血濡れ。

「さーて、弟君を探しに森の中を走り回りながら探している訳だけどさ……弟君の名前なんだっけ?」


「今気にしてる場合じゃないわよ!? 早く見つけないと! 最近になって魔物の狂暴性増して来てるの!」


「本当に聞きたくねぇ情報を真っ先に聞いちゃったよクソッタレ」


森の中を、木の根に躓かないように気を付けながら出来るだけ全力で走る。本当なら、仲間の所に伝令のような感じで何かを送ることが出来ればいいんだが……


「……そういや、魔法って伝令に使えたりする? そしたら仲間を呼べて楽なんだけど」


「かなり集中力と魔力を使うってお父さんが言ってた気がするわ」


じゃあ走りながら、というのは俺には中々厳しいな……白焔が呼べたら……


「あ、あれを使えばいいか……紅蓮の子龍よ、今ここに顕現せよ。《フレイム・ミニドラ》」


一度止まって詠唱をすると、指先に火が灯り、その火から小さな龍が現れる。伝令用ということもあり、小さな龍で良いだろうと作ったのだが……


……これは結構堪えるな。魔力がかなり持ってかれる。言葉を話せも……しないようだね。地面を犬のように掘り返してる様子からして。難しいな、おい。取り敢えず、尻尾を掴んで自分の手のひらに乗せる。


「皆を呼んで来てくれ。それなら出来るだろう? 場所は分かるな、皆の魔力を……分かるよね?」


「キュウ!」


小さな火の龍は、俺の言葉に大きく頷くと、パタパタと翼を羽ばたかせ、空に向かい、見えなくなった。


「これで、仲間も向かってくるだろう……急ごう、どの辺りにいるの?」


「あの辺り! お兄さんが飛ばしてくれたお陰で、かなり早く着いたし、まだ大丈夫だと思う!」


正直最初に駆け出してから何も考えずに走ってた、なんて言えねぇ……なんてことを考えながら、エステルを地面に下ろし、洞穴の中へ入る。


「ヒュー、どこにいるの? いるなら返事をして!」


「……お姉ちゃん?」


「いた! あぁ良かった……ごめんね、一人にさせて……」


暗闇の中から、少し汚れてはいるものの無傷の……ヒュー君が現れた。無傷ならよかった……と安堵していたその時だった。


背後から感じる濃密な殺気と、あの時に漂っていた匂い……血の匂い。その二つを感じ取り、咄嗟に二人を抱えながら前へ飛ぶ。


硬い地面に何かが振り下ろされ、飛び散った岩の破片が背中に当たる。二人を下ろし、そちらを警戒して睨み付ける。


「くっそ、今日はよく不意を突かれるなぁ……!! 病み上がりだっつうのにさ……!」


外から入ってくる月明かりから見えるのは輪郭だけ。しかしそれだけでも、すぐに分かる特徴がある。


湾曲した二対の角に、3メートルを越える体躯。この里に来てから、初めて戦った魔物と同一種……


「くっそ、まさかここでもう一度、ミノタウロスとやり合う事になるなんてなぁ!! おさらいですよってか!? いらねーよそんな物は!!」


クソッ、まずい状況になった。後は戻るだけだったのに……! 出口がアイツによって塞がれた!


出る為には退かせる必要がある。しかし、出来るか……?


後ろの二人をチラリと見る。エステルは酷く震えている。一度同種に襲われたのがトラウマになっているのだろう。ヒューもエステルほどではないにしても、震えているようだ。


……ここで震えていなかったら、あの時の自分がとても弱かったと、そこらの子供が倒せるやつよりも弱いとか……と考えていただろうなと、内心で苦笑する。


「……仕方ない、俺がアイツを相手取る。だからその間に逃げて。分かった?」


「でも……」


「でもじゃないよ、あれ以上来ないのはアイツが剣を振り回せないからさ。だからまず俺が出口から引き離す。そしたら全力で里の方に向かって走れ……返事は聞かないよ、今から……始めるからね!」


跳躍しながら翼を広げ、足の裏から炎を噴射、ロケットのように飛び出す。丁度ミノタウロスの腹部に頭突きをするような体制になり、脇腹に腕を回し、炎の勢いを強め夜空に飛び立つ。


飛び立つ瞬間に洞穴の方を向くと、エステルがヒューの手を引いて走って行くのが見えた。


「よし、なんとか上手くいった! で……何かなぁさっきからずっと感じてるドロリとした感触は!」


地面に向かい、高度を下げていく。抵抗されながらも、勢いを利用し、放り投げ地面に叩きつけた。


「これならかなりダメージ入ったろ……大体予想はつくけど、丁度月明かりが照らす場所だし、これがなんなのか……っ!?」


自分の手を見て、驚愕した。自分の手についているのは血だとは分かっていたが、べっとりとついており、少量ではない。手のひらが赤く染まっていた。


そして土煙の中からズシンと音が響く。そちらを見ると、丁度姿を現す所だった。俺が見ていた土煙からゆっくりと姿を現したのは、無骨な大剣を片手で持ち、あらゆる部分が血で赤く染まっている、牛頭の大男……


「……血濡れのミノタウロス……ヤバそうな相手だな……!」


鞘から剣を引き抜き構える。すると、向こうもこちらに剣の切っ先を向けて来た。


舞台は森の奥深く、月明かりが照らす中、再度ミノタウロスとの闘いが始まろうとしていた。





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