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爪痕。

……どうすればよかったんだろうか。答えは見つからない、気が滅入るだけ。


「……お兄ちゃん……」


「……! 君は……そっか、アイツは子供は殺さないって言ってたっけ……」


以前、森の中で助けた子が近付いていた。後ろ手に何かを隠しているようだが……


「うん……弟も無事だったよ……でも、お母さんとお父さんは……」


「……そうか」


やはり、成長しきった龍人は全く気にせず殺して行ったらしい。やってることはアイツが言う、龍人にしてきた人間の所業と変わらない物だと思うんだが。


「それでさ……あの怖い人が言ってた……お兄ちゃんが目的だったってのは本当?」


「……あぁ、そうみたいだね、何で俺を狙ったのか分からないけど」


「っ!!」


俺の言葉を聞いた途端、目が鋭くなり、後ろ手に隠し持っていた短刀を振りかざし、それが俺目掛けて振るわれる。振りかざされた物を見て、ぎょっとしながら地面を転がり、距離を取ろうとするが目を目掛けて短刀を突き出して来る。上半身を仰け反らせ避けるが、バランスを崩し、地面に倒れる。


そこにすかさず、短刀を突き刺して来るが、ギリギリの所で義手で掴み、離さない。


「ぐっ、俺何かしたかなぁ! 正直心当たりはあるけどさ!」


「お前が……! お前がいなかったら! 皆生きてられたのに! こんなことにはならなかったのに!」


「……じゃあさ、すぐに俺が出ていって入ればよかった? そしたら君はあそこで死んでたよ?」


「まだそっちの方がいいよ! こんな悲しい思いなんてしたくなかった!!」


筋力にはかなりの差がある筈なのに、短刀の切っ先が少しずつ押し込まれていく。憎悪ってのは人の力を増幅させる。しかし、その憎悪に任せて目的を果たしたとしても、気持ちは晴れないと思う。


「……それは、お母さんとお父さんにも言えるか? 逆の立場になるだけだよ。君と、君の両親が」


「もう、お父さんとお母さんはいないのよ!! 話しかけることも出来ないし、どう思ってたなんか分かる筈ない! もうどうしようもないじゃない!」


そう言うと、更に切っ先が押し込まれ、服を裂く程度に留まっていたのが押し込まれ、痛みが走る。血が少し出たが、今までの怪我と比べて少ない為そこまで痛いと感じなかった。


「くっ……これは勝手な推測だけどさ、君の……君達のご両親は、生きていて欲しいと願ってると思うよ」


母親からの愛を満足に得てない身で、何を言ってるんだかと、内心で自嘲する。しかし、この子は俺とは違う。二親の愛をしっかり受けてきた。父さんだけだった俺とは違って。


「……そんなこと、そんなこと分かってるわよ!! でも、どうすればいいのよこの気持ちは! お前にぶつければ楽になると思ってたのに……辛いだけ……」


短刀を離し、だらりと両腕を下げる。しかし、この状況を脱することが出来た訳じゃない。


「……そういや、名前を知らなかったね」


短刀を傍に置きながら、話しかける。この状態は些か……うん、見られたら社会的にも精神的にも死ぬ。馬乗りにされてるし。


自分の上から下ろしてから、上体を起こし、その場に座る。


「……エステル」


「エステルか……ちょっと話を聞いてくれるか? 俺はさ、さっきまで考えてたんだ。俺がいたからここはこんな目にあった。でもさ、俺がどこにいてもここは狙われてたよ。アイツはそんなことを言ってた……信じてくれなくてもいいけどさ」


「……うーん……」


「俺も、出来ればここで過ごしていたかったさ。けど……もうそれは叶わない」


黒焦げになり、崩れた家を見る。その家を見ていると、どうしようもない怒りがふつふつと沸き上がってくる。それを無理矢理押さえながら、エスエルの方を向く。


「俺を殺すのなら、今ここで殺しても構わない。選択するのは君なんだから」


「……じゃあ、選ぶよ。私は、弟と一緒にお兄さんについていく。お兄さんが本当に悪い人だったら、私はお兄さんを殺す……って事にする」


「……そうかい。正直な所、ここで殺される物だとばかり思ってたよ。この惨状の引き金になったのは、俺だからさ」


本当に意外だった。生き残った彼女には、引き金である自分は殺されても仕方ないと本気で考えていたのだが……


「……冷静になって考えたのよ。このままだと食料もなくなるし、弟だって……」


「なるほどね。じゃあ弟君を迎えに行きますか。……そういや、どこで夜とか過ごしてたの?」


「近くにあった洞穴だけど……」


……運が良かったんだろうな。魔物に襲われず、3日も洞穴で夜を過ごせたのは……危ない所だった。


「……急ごうか、暗くなってきたし……弟君も危ないかもしれないからね」


「……しまった、そうだった……! 魔除けをしてない……!」


「一番大事な物忘れたなこの感じだと……!!」


俺はエステルを迷いなく背負うと、背中の指示に従って走り出した。














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