長老=愉快なおじいちゃん。
「この果物甘い…」
「甘いものが好きなんですか?」
「…そうですね、かなりの好物です」
…絶対に子供に思われてない?これでも17歳なんだけどなぁ…というか、雛さんは何歳なんだろう。同じ位な見た目してるけど、異世界だからなぁ…どうなんだろ。直接聞くのは失礼だし…
「そう言えば、これからどうするんですか?どこかに行こうとか決めてらっしゃったりは…」
「してないんですよね…ただ人に会いたいって一心で歩いていた所を、盗賊みたいな奴等に襲われてここまで流れついたので…」
「…やっぱりこの辺まで来てるんだ…」
「…やっぱり?」
どうやら、あいつらとは因縁…なのかよく分からないけど、そういった物があるらしい。あいつらに会ったら気を付けないと…
「最近、この辺りまで狩人が来てるようなんですよ…私達の角は、かなりの値段で売買されるので…」
「だから狙ってくると…ひどい話だ。いくら龍とはいえ、容赦ないな…」
「ここは基本的に、戦闘を好まない人が多いのでそこに付け上がっているのかもしれませんね…」
つまり、あいつらは普通に狩りをしている途中に、僕ら龍人を見つけると角目当てに襲って来るわけだ…世知辛いな!?龍人は迫害でもされてるのか!?
《確かに不愉快だな…一度対処した方がよいのではないか?》
テリー、ナイス。それは思ってたんだ…なんで反撃とかしないんだろうって。
「…それは…皆ある人を怖がっていて…」
「ある…」《人か…》
「はい…狩猟者の頭が、こちらが一人でも欠けるようなら、既に捕らえたお前達の仲間の命はない…と」
…本当に、そういう奴等ってどこでもいるんだな…!
《…おい、手を見ろ》
手?…あ、果物が…そんなに強く握りしめてたのか…あーあ、勿体無い事したなぁ…意外といける味だったのに…
「お、落ち着いて下さい…」
「…大丈夫ですって、怒ってる訳じゃなくて、また考え込む悪い癖です…」
…とりあえず、何とか出来ないだろうか。僕一人じゃ、出来る事はたかが知れてる。とりあえず、長老様に話をしてみようか…
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「なにこの階段の長さ…」
「これは確かに長いとは思いましたけどね…前長老が、高いところが好きだったのでこんな事に…」
「長老様自由過ぎない?」
…長い…本当に長い。もうかれこれ十分程登っているけれど、まだ中腹程なんだよな…これは長すぎる…遠すぎるよ…
《…飛ぶか?》
「飛べるの!?」
「…えっ…飛べないんですか?」
やっべ、衝撃のカミングアウトにデカイ声出しちゃった…飛べるのは当たり前なんだね…というかさ…
「それを巨鳥と戦ってる時に言ってくれないかな…?」
《…すまん…忘れておった…》
…結論、出来る事の確認は大事だからこまめにしておく事…
「おかしいなぁ…光牙さんの歳なら一人でも飛べる筈なのに…」
「あー、あまり練習しなかったんですよ…」
これは苦しい嘘だ…ただ、元が人間なんて言えるか?いや、言えないです。僕は基本、ヘタレなので、ここぞって時に…はぁ…
「あ、そうだったんですか?それなら仕方ないですね!」
いや信じちゃうの!?ごめんなさい罪悪感が凄いことになってしまうのでやめて下さい…純粋なんですね、この方…
「あの…どうしました?急に地面に両膝を付けて…」
「いや…何でもないです…それより、まだかかりますかねぇ…」
…あれ、無意識に地面に膝ついてた?…うおっ、何してんだろ僕。
「いえ…何でもないです…ホントに何でもないので気にしないで…所で、後どれぐらいで着きますか?」
「うーん…後、二十分程はかかりますね!」
僕はそれを聞いて、また地面に膝をつき、今度は両腕も地面についた…
「…いくら何でも長すぎるだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」
つい叫んじゃったって、悪くないよね。例えそれが、里中に響いても、僕は悪くないよね…?
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「やっと…着いた…」
こんな長い階段、用があるって人は毎回登ってるのか?というか雛さん凄いな。全く息切れとか起こしてないよ。…鍛えないとなぁ…肝心な時に、動けませんでしたじゃ洒落になんないし。
「大丈夫ですか?」
「…モヤシだったので、これはキツイです…」
「…モヤシ?」
あ、もしかして通じてない?うーんと…じゃあ…こうかな。
「運動音痴だったので…」
「あ、そういう意味のモヤシでしたか」
…何で食料の方のモヤシが出てくるの?
「長老様~。客人が目を覚ましましたよ~」
いやなんか緩くない?
「そうか…客人よ。もう少しこちらに来てくれ。名前も知らぬ故に、話を聞きたい」
これは…大丈夫かな…
そんな事を考えてしまい、うだうだしてると雛さんが、クスクスと笑いながら、
「別にとって食おうってわけじゃないですから…安心して下さい」
と、小声で伝えてきた。…ええい、何とかなる!
僕は長老の部屋の中に一歩踏み出した。すると見えたのは…
巨大な眼。それが僕を映していた。
「う、うわぁぁぁ!?」
「はっはっは、すまんのう。少しばかり硬くなっておったから、少しの爺さんジョークじゃ」
冗談じゃなくて本当に心臓が一瞬止まったよ…!?
「して、客人よ、名を何と言う?」
「あ、はい…白天光牙と言います…」
「…なんじゃって?すまん、耳が遠くての…龍の姿だと全く聞こえんのじゃ…ちょっと待っておれよ?」
その言葉と同時に、光と共に龍の姿が縮んでいき、そこにいたのは如何にも好好爺と言った風貌のおじ…老人がいた。
「よし…これではっきり聞こえるの。ほれ、もう一度」
「白天光牙と言います」
「もう少し大きく言ってくれんか?」
「白天光牙と言います!」
「もう一声」
「白天光牙と言います!!」
「耳元で叫ぶでないわ、うるさいわい!」
いってぇ!?何で今僕脳天を杖で殴られた!?悪い事してないよね!?
「全くもう…冗談じゃ。すまんかったの」
「長老?」
雛さんが笑って…いや違う!あれ目が笑ってない!!って言うか長老いつもこうなの?
「落ち着いてくれ雛ちゃん…これ以上やると怒られるの。儂は、リュミエール長老の…長老じゃ」
「…お名前は?」
「いやぁ…皆が長老、長老と呼ぶから忘れてしまっての…」
「名前を忘れないで下さいよ…」
…本当に大丈夫か?このおじいちゃん。なんかもうほとんどボケてない?いやボケとツッコミもそうだけど、老化が進んでない?
「失敬な!儂はまだまだ若いわい!まだ五百歳じゃわい!」
「「いや十分お年寄り(ですよ)だよ!?」」
本当に大丈夫かな、この里…もうスッゴい疲れた…本当におじいちゃんじゃないか…
「ふむ。してお主、元は人間じゃな?」
「っ…何故、そうだと思ったんですか?」
「ああ、何もするつもりはないから安心せい。珍しい事でもないでな。たまに現れるんじゃよ。そういうのが。龍がわざわざ別の世界で死んだ人間を選んだり、死体を動かしたり様々じゃ。雛もその一人じゃしの。別の世界から選ばれて来た種類の人間じゃ」
…あ、じゃあそこまで警戒する必要もなかったのか…ただ何で僕なのかは全く解消されてないけれど。それに、雛も似たような体験をしてたのか…
「…でも、雛の龍の声は聞こえませんでした」
「え?お主、選んだ龍の声、聞こえとるの?」
…え?これはおかしいことなの?
「…その場合、哀れに思って全部の力を託す訳じゃから、すぐに消えてしまうんじゃが…」
「…そういや、お前を選んでやるとか言ってたなぁ…何かをやらせるつもりなのか…?」
「…分からん…じゃが、これだけは聞いておかねばのう。儂の里に住むか?」
…これは、願ったり叶ったりの提案だ。これを言われなければ、僕から聞こうとしていただろう。
「いいんですか?だったら是非!」
「よろしい。しかし…家がないのう…そうじゃ!雛!」
「何でしょうか?」
「光牙と共用になるがいいかのう?」
…え?いやいや何言ってんの?流石に駄目ですって。
「あ、はい。分かりました!光牙さん、大丈夫ですよ。里にもそんな状態の人いますし。行きましょう!」
いや疑う事も覚えてぇぇ!?それと他にもいんの!?
「これからの生活、頑張っての~」
…うん。今日二つの事が決まった。まず第一に、住む家…それと第二に…
長老いつかぶん殴る。以上。