走馬灯……?
……夢を見ていた。子供……といっても今も十分子供だが。昔からこの赤い目と赤い髪は余計なことを運んで来た。物心ついたときには、この真紅の目は気味が悪いものだと思われているのが嫌でも分かった。
そりゃそうだ、自分と違う物を不気味と思うのは間違っていないし、本能だと俺も思う。でも精神的にもまだ幼い子であったあの頃は……苦痛でしかなかった。外にいればこそこそと陰口を言われる上に、目や髪のことで色々と騒がれる。石投げつけられたこともあったっけ……
「……なんで今更、こんな夢を見てんだか。走馬灯か? にしてはいい思い出がないね……あ、いい思い出は数える程度しかなかったか……」
確かに、いい思い出もあった。友達……になる前に俺から拒絶しちゃったりした……あの後、スッゴい後悔したっけ。転々としてたからなぁ、あの子。その次の日にはもう引っ越していなかった。
「素直じゃなかったねぇ、俺も。いざ手に入るってなったらしり込みしてチャンスを無くしたんだから……家族方面で考えよう。……父さんは、俺に対して目のこととか気にせずに接してくれたなぁ、五歳頃に病気になって、亡くなったけど」
今でも思い出せる、あの力強い声。俺がどんなに素っ気なく返したとしても、豪快に笑ってた。叱る時は本当に怖かったりしたけど。でも、父さんが生きていた時は、まだ自分になんて価値がない、と思うことはなかった。
でもある日突然、病によってこの世を去った。あの病とは無縁そうな人でも、こんな簡単に死んでしまうものだと、痛感させられる出来事だった。
俺は葬式の時には不思議と泣かなかったのは不思議と覚えてる。分かっていたんだろうけど、心が追い付いていなかったんだろうなと今は思う。暫くして後で父さんの墓参りをしに雨の中向かい、墓石に向かい合うとその場に崩れ落ちて泣き出してしまったし。
……どうせ気味悪がられてしまうんなら、人から距離を置かれてしまうのなら、大切な人の死を悼むことのできる心も、他人との繋がりを求めることのできる全てのものを、無くした状態でいたかった。
その思いを抱くようになってから、自分には価値がないと思うようになった。同時に、どこかで繋がりを求めるようになったんだろう。
……父さんの代わりに、ポッカリと空いた心の穴を埋めてくれる存在を。
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「……起きねぇな、光牙のやつ」
「仕方ないわ、とてもひどく傷ついていたし、とても疲れているのよ。放っておけば起きるでしょうけど……」
レーテとロビンの会話を聞きながら、二人に近付いていく。手には火傷によく効く薬草を持っている。
「雛も大丈夫かねぇ……すぐ気絶しちまったけど」
「大丈夫……じゃないだろうな。自分の故郷が攻められるとは誰だって少しは考えはするが、いざ起こってみると全力で嘘だと否定したくなるものだ」
「それはおたくもか、ティナ?」
「無論だとも。だが今はフリードに対して聞きたいことが多すぎる。何がしたいのか、なぜこのような方法をとるのか……そういった点だな。何も話さず操って来たのだから、聞かねばならない」
ティナも思う所はあるようだと、薬草を擂り潰しながら光牙の容態を見る。目立つのは火傷だが、今はレーテの治療魔法により傷痕となった腹部にある五つの傷痕。鉤爪を突き刺されたのだろうか、それともナイフ等の小さな刀剣類の投擲による傷か……自分の知らぬ攻撃手段によるものか。
火傷は炎によるものではなく、雷が当たったのだろうと検討をつけていた。炎による火傷だとすれば、規模が大きすぎる。炎を使う龍人が、炎で火傷を負うと考えるなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
「犯人は雷を使う龍人……だな。ここまでするとなるとかなり強いぞ。束になってかかった所で相手にならないかもしれない。……しれないじゃないな、1対多の状況の方が得意だと考えると……勝ち目はほぼないだろうな」
「レイン、それ本当か? 正直信じたくないんだけども……」
俺の言葉を疑うように、問いかけてくるロビン。俺はそれに対し、包帯を手に持ちながら首を静かに横に振った。
「雷だぞ? まともに当たればそれで終わりな上に、纏まった敵ならそこに落とすだけで決着がつく。近接もこなせるだろうしな、切り傷が体に残ってるんだから」
擂り潰した薬草を火傷の部分に乗せ、包帯をその上から巻いていく。丁度近くに火傷によく効く薬草があったのは幸運だった。あまりひどい火傷だと放っておくと大変なことになっていただろうし。
「周りが見えなくなるのは……こいつの悪い癖だな。しかも行動が早いとなると……手のつけようがない。リーネと似た所があるな」
「え、脳筋ってこと?」
「そういうことだな。難しいこと考えられないってこと……」
「……それおバカって言うんじゃ」
「言うなよ本人には」