運搬。
「あんの馬鹿野郎……!! 周りが見えてなさすぎるだろ、どれだけスピード上げたんだ!?」
燃える森の中を駆ける、人影が一人。男の名はロビン・チェイサー。その風貌は狼のような特徴を持ち、ある人物を探していた。
「ぜぇ……ぜぇ……漸く見えてきた……さっきから聞こえてた雷とか爆音があまり聞こえなくなってきたな……ヤバい気がする」
里の惨状を見渡すと、大部分の家屋が焼け、無事でない家を探すことの方が難しい。何があったのかは容易に想像がつくが、今は先に突っ走ったあの馬鹿を何とかしなければ……
そう考えながら走っていると、何か重い物が地面に落ちるような音が聞こえた。狼人の耳は人より音を聞き取ることに長けているから聞きとれた。そんな程度の大きさの音だが。
「そっちか、待ってろよ!」
光牙の居場所に繋がる手がかりとしては、申し分ないものだった。
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「……臭ぇな。鼻が曲がりそうだ……狼人の鼻、こういう時にはデメリットしかねぇんだよな……」
音がした方向に向かうと、広場に辿り着いた。大量の亡骸が山積みにされており、その肉が焼ける匂いがずっと漂っていた。亡骸の一つに近付き、死因を調べる。
「即死みてぇだな。外傷は刺傷。そこが焦げてるってことは……内側から焼かれたか……ひでぇことしやがる」
亡骸の腕を地面にそっと置きながら、最後の方は呟く程度に思ったことを言葉にする。
「……こんなことになるとはなぁ……里を火の海にするのは盗賊の奴等がやるか、同じ龍人がやるかの二択だったわけだ。なんともまぁ……生きにくいよな、龍人って」
自分の頭の後ろを乱暴にガシガシ掻きながら、足元にある、一度見たことのある物を拾う。
それは光牙と戦った際、密室で起爆した魔導爆弾《炎海》だった。雷だけでもかなりの被害は出たろうが、さらに追い討ちといったように空からばら撒いたのだろう。
「……ひでぇことすんな、本当」
この惨状を作り出した物に何も思うことがないわけではないが、何かに使えるだろうと、それをポケットにしまうと、再度音のした方向に駆け出した。
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「はぁ……はぁ……にしてもどこまで行きやがった……全然見当たらねぇとなると小屋の中か、それとも埋められたか……」
先程から全力で駆けているため、体力の消耗が激しい。汗が吹き出、息が切れていた。
「もしかすると、捕まったか……?」
最悪の想像が頭を過る。そんなことになったら、また雛の機嫌というか精神にダメージが入るだろうしなぁ……
「生きてんなら連れて戻る。死んでるなら出来るだけダメージのない伝え方をする。……出来れば、生きててくれた方が楽なんだがねぇ……」
歩いているうちに、足に堅いものが当たった。足元を見ると、それは多少煤けているが、どこも壊れている様子のない義手。それを着けている光牙が倒れていた。
「漸く見つけた! おいおたく生きてんな!? 脈は……ある! よしなら起きろ! おたく背負って行けるほどもう体力ないんだよ俺は!!」
光牙の体を揺するが、全く目覚める気配がない。ダメージが深いのもあるが、疲労が溜まっているのだろう。
「あぁもう! 体力がないって言ってるのによ! とりあえず連れてくぞ……! 生きてるならどうにかなる、欠損とかじゃなけりゃお嬢が治してくれるだろうよ!!」
光牙をなんとか背負い、仲間の元に走り出す。
自分の疲労もあるが、なんとかならない重さではない。ゆっくりと歩くことになるが、大丈夫だろう。
とりあえず今回の俺の仕事は、こいつを仲間の所に運んで行くことだ。