対話も大事。
……とはカッコつけたものの、どうすればいいだろうか。飼われてるってことは、生け捕りが前提だ。
「手加減とか出来ないから痛いと思うけど、死ぬなよ……!」
猪の前に陣取り、突進に備える。どうやら猪のやつは俺しか目に入っていないようだ。それはいいのだが、攻撃が集中する=大変だと言うことは分かる。
まぁ、こいつの攻撃方法は突進しかないのだから、あまり変わりはしないのだが。
そう考えていると、再度魔力を溜め、突進の体制に入っていた。
「魔力を溜めてる……つまりホーミング突進か。あれ避けるのは面倒だからなぁ……受けるか」
腕とブーツに、同じように魔力を通す。ブーツの踵から刃が飛び出し、地面に突き刺さり固定する。
「来いよ、根比べだ……! 受け止めるか、お前が吹き飛ばすか、それだけだけどな!」
その言葉を言い終わるか終わらないかで、弾丸のように飛び出して来た。タイミングを合わせ、猪の牙に手を伸ばし、掴んで力勝負に持ち込む。
勿論、力勝負では猪には敵わない。なら何故こんな勝負を挑んだのかというと……正直、何も考えていなかったというのが本音だ。
力で駄目なら技で、とも思ったが、投げるぐらいしか思い付かない。投げられるかと言うと正直、微妙だ。
だから、魔力を腕に回し筋力を強化した。足を地面に突き刺し固定した。それを使っても出来ないなら正直拳で殴るしかない。
牙を掴まれた状態で、猪は何度も抵抗するように頭を振り、牙への拘束を振りほどこうとする。何度もバランスを崩しかけるが、すんでの所で倒れずに済んだ。
「にゃろ……! 負けてやれないんだよ、意地があるんだこっちには!」
猪が頭を当てようと前のめりになった瞬間、牙を離し、頭の上に飛び乗る。
「少しオイタが過ぎたみたいだ、ねっ!」
拳を頭の上から牙を叩き込む。少し伸びていて、危険だと思ったので片方だけでも折っておこうと考えたからだ。
しかし、自分の筋力で殴ってへし折れるなんてことは考えていない。幾ら強化してるとはいえ、罅が入れば上々だと思ってたが、罅すら入る気配がない。まるで大木を殴っているような感覚だ。
なら、へし折るまで殴るだけだ。
二発目、罅も入らなければ、まだ折れない。
三発目、義手で殴り、ピシリと音がした。
四発目、罅が少し広がる。拳が裂け、血が滲む。
しかし、まだまだ足りない。なら折れるまで殴り続けよう。拳が砕けるか、お前の牙が折れるかの勝負だ。
そしてもう一度拳を振り下ろそうとした時に、猪の様子がおかしいことに気がついた。なんだか……震えている?
自分の自慢の牙が折られそうになっていることに、恐怖を覚えたのか……?
「……お前、もしかして牙をそのままにしたいから逃げ出したのか?」
猪は、俺の言葉に答えるように、頭を上下に激しく振る。あまりに振るものだから、俺も振り落とされた。地面に落ち、土を落としながら立ち上がる。
「なるほど……でもな? お前の牙伸びすぎてるんだよ、このまま行ったら頭に突き刺さるぞ?」
こんな言い方で通じるのか分からないが、言い聞かせるように話しかける。だが、猪もこの牙を取られたくないらしい。
……あー、どうしたものか。削るのは論外だろうし……
「待てよ? お前魔力使えば生えるんじゃないの? そうすれば斬られてもいいし、牙の成長も好きな所で止められるだろ」
猪にそう問いかけてみると、それは思い付かなかったというような動きで喜びを表現していた。
いや、よかったよかった。途中で気づけてホントによかったよ。
まぁ、牙を切られたりするのは代わらないだろうが。向こうから飼い主の人、それっぽい道具を持ってきてるし。