猪。
「うん、フィットしてて動きやすいな。見る目には少し自信がなかったけど、こればっかりはいい買い物したね」
買った服とブーツを着て、そのまま店を出る。先程まで来ていた服よりも、体が軽く感じる。どうやら何かしらの身体能力向上の魔法がかかっているようだ。これならまともに戦える……かもしれない。
「でも前のパーカーも捨てがたいんだよな……今度直してもらおうかな。愛着はあるし、素材は……なんとかなるかな」
狼の毛皮だからモコモコしたものになりそうだけど。寒い所に向かうにはいいな!
なんてことを考えていると、前を勢いよく、大きな四足歩行の動物が横切った。
「……あっぶねぇ……なんだ今の」
「おいアンタ! 大丈夫だったかぁ?」
動物が来た方から、一人の男性が駆けてきた。とても汗を流していることから、先程の動物を追いかけていたのだろう。
「あぁ、大丈夫だ……今のは何だったんだ?」
「ダンガンイノシシだよ。普通の猪より突進が早くて、魔力を使うことでさらに速くなるんだ」
「それ魔物だよね君。なんで飼ってんだよ」
「魔物でも危険度が低ければ飼えるよ」
……魔物を……飼えるのか……にしてもあれだな。確かに見た目は動物に近いが……魔力がある時点で警戒するべきだと思うんだが……
「でも魔物がこう動き回ってるってことはあまりよい事じゃないな、捕まえるのを手伝うよ」
「いいのかい? 助かるよ! ただ気を付けてくれ。かなり爆発力のある魔物だから。今みたいに足に魔力を貯めて突撃してくるから!」
「え、今? 今って……」
そう言いながら、猪の方に視線を向けると、地面に少し足が埋まる位に力を入れている。確かにこれを見ると、とても力を入れた突撃をするのだろうと嫌でも分かった。
だが、一つだけ確かなのは、間違いなくその突進の軌道が自分に向けられるということだろう。
「はぁ……何も起こらない日はないのかね……ないんだろうけどさ」
そう呟いたのが聞こえたのか、その名が示す通りに、弾丸のように飛び出してきた。しかし突進の性質上、急には曲がれない筈、ギリギリで横に飛べば避けられる!
そう考え、ギリギリまで引き付け横に避けた。
だが、避けた瞬間、俺の脇腹に衝撃が走り、体が宙に舞うのを感じた。そして近くにあった店に、背中から突っ込んだ。その上に折れた柱等が降り注ぎ、埋まってしまった。
「ごめん! そいつ軌道修正ってのも使えるんだ! 先に言っとくべきだった!」
「敵の情報は全部は言っとけよこの野郎!! にしても全然痛くねぇな、これ。衝撃は来たけど」
自分の上のガラクタを退かしながら、立ち上がる。しかし新しい服の性能も分かった。かなりの勢いでぶつかられたのに痛みがない。衝撃があった場所に少し残った程度だ。
前の格好ならこれだけで行動が難しくなる程のダメージを受けていただろう。
「よーし……まだ遊びには付き合ってやるよ。かかってきな!」
また同じように飛び込んで来たが、今度は先程よりも遅い。どうやら魔力を使った行動はインターバルが必要となるらしい。先程と同じように横に避けたが、今回は先程のようにはならなかった。
「大体分かったな……ここからは遊んでやるよ」
そう言った後、猪を見据え、拳を構えた。