服探し。
「……なんだろう、ものすごい恥ずかしいこと言ってたような」
眉間を押さえながらベッドから起き上がり、小さく呟く。少し、体が重く感じた。鉛のような、とは思わなかったが、重りをつけられた感じだ。
「そりゃ、最近は寝て起きてだったからなぁ……体も鈍るか……」
ベッドから降り、自分の服を見てふと考え込む。
「なんというか、ボロボロだな……袖口は焦げてるし、解れとかも出てきているし」
何度も戦っているうちに、服にダメージが蓄積されており、かなりギリギリの状態になっていた。もうダメージ加工とかそういうレベルじゃないね。
「やっぱり普通の服じゃ、すぐボロボロになるよな……気に入ってたんだけどなぁ。直しても同じ結果になるし……」
義手で頭を掻きながら、置いてあった自分の荷物から地味目の服を取り出す。前の住人が置いていったのか、家の倉庫にあったのを拝借したものだ。
「今日はこれ着とくか……素朴な村人、みたいになるけど」
髪の色から素朴な村人は無理だろうが、少しだけでも地味にはなるだろう。出来れば赤色がよかったが……残念なことに、深い緑色だ。
なんで赤が好きなんだっけと、頭を回しながら、テキパキと着替えていく。
「……あれか? 赤はヒーローの色ーってやつか。それか自分のトレードマークだと思っていたか」
まぁどちらにせよ、子供っぽいというかなんと言うか。昔の子供だった頃の自分は純粋だったんだなと思うよ。
俺は、ヒーローにはなれないし、なる気もない。自分の繋がりを守るだけのヒーローなんて酷いものだ。だから俺はヒーローにはなれない。
「……鏡見て寝癖直したら、服屋行ってみるか……」
鏡台に向かい、目に飛び込んで来たのは、酷い寝癖のついた頭だった。所々髪が跳ねている。
「……これはなんとかしないといけないな。こんな鳥の巣みたいな髪じゃ、鳥が止まりそうだ……」
俺は、自分の寝癖を十分かけて直し、そのまま玄関から外に繰り出した。
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「さて、問題は自分のセンスがどれぐらいかと言うことだが……流石にそこまで派手なのはいらないしなぁ。シンプルなもの。それが欲しいや」
俺は道を歩きながら、服屋を探して歩いていた。いつもの癖でフードを被ろうと手を伸ばすが、今はフードがないことに気がつき、手を引っ込める。そしてそれを数回繰り返し、目的の場所にたどり着いた。
「ここか……服屋。素材持ち込みもできるのか……とりあえず今回は見て回るだけだからな……後で持ち込めばいいだろう。あの狼の毛皮とか」
俺は店の扉を押し開け、中に入る。かなり上質な素材を使っているのもあれば、普通の素材で作られた物もある。
様々な服に目を通して行くと、赤地に黒のラインの入ったコートが目に入った。
これは……いいな。格好いいし。その隣にある赤のシャツも買ってと……赤のシャツだけでもいいような……? 後は……下だな。こっちはまだ黒いズボンとかがあるし……
「……そういや、金は金貨が何枚とか、銀貨が何枚とかだったな……足りるかな……両方五枚ずつもらってきたけど……」
ポケットの中から、金貨を取り出す。これだけあれば足りない、なんてことはないだろうが……
「なんだろう、足りる足りない以前の問題な気がしてきた……問題に巻き込まれるとか」
そして俺は、この先この発言を後悔することになる。