苦悩。
「うぐっ……あ? ……体調が悪かったとはいえ、このザマか……」
腹の傷は、既に魔法によって完治している。だが、簡単に接近を許したこと、防御したが、その防御ごと簡単に貫かれたこと。
……勝てないと、諦めを覚えたこと。それが、どうしようもなく悔しい。
「クソッ……! 結局未熟じゃ勝つことも出来やしないじゃないか……!!」
義手を、机に叩きつける。机には罅が入り、どれだけ力を入れているかが伺える。
「一撃……たった一撃だぞ!? 俺はそれだけで心を折られちまった……! 情けねぇ!」
怒りに任せ、何度も足に拳を叩きつける。そして、気づいた時には、その部分が青く変色していたが、何度も力任せに叩き続けた。
「くそっ……!! くそっ!」
……何度拳を叩きつけたか、もう分からない。気づけば右手の拳からは、強く握り過ぎたのか、血が滲んでいた。足にもその血が垂れ始めている。
「……焦ったって何もならねぇだろうが……何してんだ俺……」
自分の血を見て冷静に戻ると、義手で頭を押さえ、考え込む。
どうすれば自分の繋がりを守れる? 失わずに済む? 考えれば考えるほど、悪い考えばかり浮かび、その度にどうすればとなる。
「……意志を強く持つ? だがそんな物、今回みたいに圧倒的なやつが来てしまえばすぐに折られてしまう。どうすれば……」
頭をかきむしる。結局、いい案が自分の頭から出ることはなかった。なら人に聞くべきか……?しかし、こんなことを聞くのも……
「……だぁっ、くそっ! どっちにしろ何もしなきゃ変わらないだろうが! ウジウジしてんじゃ……はぁ……」
「あの……大丈夫ですか? 隣の部屋まですごい音が聞こえましたけど……」
扉の外から、雛が話しかけてきた。声を抑えることもしていなかったからな……それに立て続けに響く打撃音。雛さんが心配しない筈がない。
「……大丈夫です。少し包帯をくれるとありがたいですけど……」
「包帯が必要な時点で大丈夫じゃないと思いますけど……まぁ待ってて下さい、取ってきますね」
ごもっともです……そしてありがとうございます……取りあえず、足のダメージを直しておこう。レーテさんの魔法から、応急措置だけでもと思い、真似をした魔法を使って経過を見ることにした。
「上手くいってくれよ……《ファーストエイド》」
足の青アザが、少しずつ消えていく。どうやらレーテさんのフルヒールとは遠く及ばないが、青アザ等の怪我はなんとかなるらしい。……ただし、とてもゆっくりと治っているのだが。一気には癒せないようだ。
「光牙さん、持ってきましたよって、なにしたんですか!? 手から血が! それに足にも治っていってるとは言え青アザが……!?」
「え、あっ! これはその……」
タイミング悪く扉が開き、治りかけの青アザまで見られてしまった。せめて青アザだけは治しておきたかったけれど……
その後のことと言えば、かなり長い間説教をくらい、その説教の間に青アザが完全に治ったということ位だ。
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「……俺って、弱いな……」
「はい? どうしました?」
俺が包帯を巻こうと四苦八苦していたが、それを見かねた雛さんが包帯を巻いてくれるというので、そのご厚意に甘えていたところ、ふと口から漏れてしまった。
最初はやってしまったと思ったが、もう口にしてしまった以上、一気に言ってしまおう。
「いや……自分の戦いを振り返ってみるとさ、ほとんど負けなんだよね。ティナとミノタウロス、それ位にしか勝てちゃいないんだ。だから俺って弱いのかなって……考えちゃって」
「光牙さん……確かに、ここのメンバーの中ではあなたは弱い部類ですね」
……やはり、か。頭の何処かで理解していたが、俺は弱い。
強く、義手の拳を握り締める。やはり、反射的に体が動いてしまっていた。
「ですが、それは今だけの話です。最初から、強い人なんていません。それに、強さってのは力だけじゃないですよね? 力だけじゃ守れない物もありますよ? あなたが強さを求めてる理由は分からない。けれど……一人でやる必要はないんでしょう?」
……確かに、そうだ。最初から強いなんてやつはいない。才能があったとしても、それを磨かなければ、いつかは努力したものに追い抜かれる。力だけじゃ守れない物もある。
そうだ、俺が手に入れたいと思う物、それは心の強さだ。誰にもこの繋がりを奪わせてたまるかと強い決意を抱くことができる心の強さが欲しい! その為には、俺一人じゃ到底無理だ。だから誰かと協力しなきゃいけない。
「……確かに。ありがとうございます、雛さん。大分気楽になりました。俺の気負い過ぎでした」
感じていた不安に近いものが消えたようだ。とても体が軽く感じる。
「えぇ、気楽になったらよかったです! それと、さんはいらないですよ。いつまでも壁があるみたいで嫌じゃないですか。それになんか……違和感がありますし」
違和感? 俺はそこまで感じてないのだが…… まぁ、自分もなんか壁を感じていたし、ちょうどいいのだろう。
「……分かったよ、雛。これでいいんだよな? 他の人に話すようにやるけど……」
「はい、それでお願いします。では、念には念をということで少し寝ていましょう、何かあっても困りますし」
「あぁ、そうするよ……ありがとう」
そう言うと、俺の意識はすぐに眠りについた。