一蹴。
「さてと……おたくは敵でいいんだよな?」
「貴様がそこに倒れているのを守るというなら、敵だな」
互いに睨み合い、相手が一歩踏み出す瞬間を見逃さないようにする。
俺は光牙との手合わせで、急に馬力を上げてくるような無茶苦茶なやつがいると分かった為、気を抜けないんだよなぁ……よし、まずは勝利条件を確認しよう。
まず一つ、相手の排除。生死を問わない。二つ、光牙の安全の確保。この二つだな。となると、こいつを抑えてられるといいんだが……まずここで戦うのは得策じゃねぇな。
……駄目元で提案してみるか。
「じゃあよ……場所を移そうぜ。ここには無関係のやつもいる。どこかいい場所はないか?」
「良いだろう。丁度、いい場所なら知っている」
そう言うが早いか、走って来て俺の顔面を掴む。そしてすぐに感じる浮遊感。これやベーなと感じ始め、腕を殴るが、あまり効果は見られない。そしてすぐに手が離され、地面に背中から落下した。
「いってぇ……! お前ここどこだよ!? 遺跡なのは分かるけど! どうやってここまで……」
「お前の里から見える山にある遺跡だ。貴様に合わせていては二日ほど経ってしまうのでな、少し飛んだ。早く着いただろう?」
本当に、敵側の龍人の身体能力はどうなってやがんだと叫びたくなったが、ギリギリ抑えた。
しかし、あいつは俺に合わせていたら二日ほどかかると言った。要するに、ここから光牙の所まで、時間をかけることなく到達できる。
ここで倒すしかない訳か……じゃあ、敗北条件。
これは簡単だ。俺が倒されること。それ以外にも不安要素があるが、取り敢えず今は捨て置く。
「こーれはキツいかもしれねぇですわ……」
格闘の構えを取り、相手の攻撃に備える。
「構えたな? なら……行くぞ!」
襲撃者の姿が消える。加速か、転移……はないな。
ま、どこにいるかなんてのは分かってるんですけどね。
「……オラァ!!」
俺の回し蹴りが、相手の横腹に入り、近くにあった柱まで吹き飛ばす。当たった時、骨をへし折る感覚が足に感じ、行動を阻害できると感じた。
「なるほど、狼人特有の気配察知か。忘れていた」
しかし、相手は柱に手をかけ、何事もなかったかのように立ち上がる。
(嘘だろおい……あの部分の骨折れてんなら普通はまともに……!)
すると、先ほど相手が衝突したことが原因なのか、柱に罅が入り、折れた。折れた柱が相手を押し潰していく。
「流石に死んだだろ……」
「いや、生きているよ」
柱の瓦礫をものともせずに、立ち上がる。
「……もうあんた、体が金属でできてるって行った方が信じられるよ」
「……聞いたことがないか? 龍人の中で、体を金属のように硬くして砲撃も防ぐやつがいると」
「あー……いたわ。ということはおたくは……ロックか。金属なのに岩か……まぁいいや、名前なんて」
「ほう……?」
そう、名前なんてどうでもいい。鉄並みの硬度? それがどうした。 砲撃を防ぐ? だからなんだ。
「敵なら容赦なんて、いらねぇだろうが!」
魔法を使用し、先ほどより早く駆ける。相手もそれを確認し、全身を硬化するロック。
「俺は、自分の肉体を強化することしかできないみたいでね……!! 《リミット・オフ》!」
俺の肉体を、白い閃光が駆け巡る。ロックの拳が大振りに振るわれ、俺に衝撃が伝わる。当たった部分がとても痛い。骨が折れたのだろう。
だが、止まる訳にはいかない。耐えられない痛み、なんてレベルではないんだから。
「うぐっ……うぉぉぉらぁぁぁぁ!!」
肉体の限界を一度だけ取り払い、今自身にできる最強の一撃をロックの首に当てる。へし折った感覚を一瞬感じ、もの言わぬ肉の塊になった肉体は遠くに吹っ飛んでいった。
「あー……クソ痛ぇ。まぁ……一応勝利だわな。限界以上の一撃だから足がボロボロだけど」
俺は、足を押さえながら、どうやって戻ろうか考え始めた。