経過二日。
「ぐうっ……! まだ少し痛むか……! 耐えられない程じゃないけれど……!」
まだ夜も明けてない頃、俺は義手の痛みによって目を覚ました。咄嗟に義手を押さえ、痛みに呻く。
装着時、一日目と比べれば痛みが和らいでいるが、最悪の目覚めであることは確かだ。
「にしても……自殺志願者か……俺の行動はそんな風に見えていたのか……」
昨夜、ティナに言われたことが、頭の中を駆け巡る。自分の価値なんてそんなものだ、なら自分の為じゃなく、人の為に消えよう……それが自分の生き方だと考えてきた……
「……今更、変わることなんてできねぇよ……」
そう口にすると、義手の痛みが強まったような気がして、身を縮こまらせた。
「俺は……変われない。変われないんだ。今更、自分の命なんて、考えて行動出来るわけがない……」
義手から走る痛みが、更に強くなった気がした。
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「おはよ……光牙、大丈夫? 顔色悪いよ? もう少し寝てたら?」
部屋から出た途端、リーネと鉢合わせる。そういや、頭の中がぐちゃぐちゃで、昨日はろくに眠れなかった。顔色が悪いのはそのせいもあるのだろう。
「大丈夫……眠れなかっただけなんだ……それだけだから……」
これの何処が大丈夫なんだろうかと、内心では苦笑する。以前ではこんなことで悩むことはなかった。
本心を隠すのは得意だ、他人の前ではいつも本心を隠し、仮面を被り生きて来た……そういや、俺はどんな感情を封じていた……?
「駄目だよ、顔真っ青だよー? 今にも倒れそうだし……」
「大丈夫だって言ったろ? ほら、先に行ってて……」
「……分かったよ……無茶しないでね?」
そう言い、先に居間に向かうリーネ。それを見送り、自分も向かおうとするが、足が縺れ、壁に頭をぶつけそうになる。
「……案外、精神的に揺さぶられているのかもな……大事を取って休んどくか……リーネにあぁ言った手前、少し気が引けるけど……」
そう思い、リーネに心の中で謝り、来た道を戻る途中で、ロビンと出会う。
「おろ、どうしたよ? 先に行ってる物だと思ってたんだけど?」
一瞬狙ったかのようなタイミングだなと思ったが、そんなことはないだろうとその考えを振り払う。
「いやぁ……少し体調が悪くてね。先に行ったリーネにも無理するなって言われたけど、朝食はとろうと思って向かおうと思ったら足が縺れてさ……リーネや皆にも伝えといてくれないか?」
「あいよ、了解~。無理すんなよ~」
飄々とした様子でそう言い、居間へと向かっていく。
「さてと……自分の部屋に戻るか……」
そう言い、自分の部屋に向かったその瞬間。
……何かが、自分目掛けて降ってきた。
「っ!? あぶねぇ!」
咄嗟に飛び退くことで避け、落下地点を見ようとするが、強烈な暴風が吹き荒れ、目を開けることすら出来なくなる。
「ぐうっ……なんだよ一体!?」
暴風が止むまで、目を閉じ耐える。薄く目を開けると近くから何かが伸び、首を掴まれ、壁に叩きつけられる。
「がっ……! なんだこれ……!?」
首を掴む物は、自分の腕力など気にしないかのように締め上げ続けている。
「動くなよ? 動けばお前の仲間に危害が及ぶ」
どうやら飛んで来たのは生物のようだ。それもかなり考えている。先に俺の戦闘力を削ぐのではなく、俺の弱みにつけこんできた。
「……かはっ! 取り敢えずもう少し掴む場所考えてくれないかなぁ? 首が締まって、苦しいんだ」
「……そうだ、生きて連れてこいと言われたな……」
よし、これで少し隙ができる……そこを突けば……首を離したらすぐに攻撃……!
首から手が離れ、呼吸が楽になる。その瞬間、腹部から下半身にかけ、硬化しながら回し蹴りを放つ。
俺の回し蹴りは直撃し、鈍い音を響かせなかまら吹き飛ばす。だが、相手はダメージにもなっていないようだ。ケロリとしている。
「ふむ……この程度か……軽い蹴りだな。お手本を見せてやろう。攻撃とはこうするのだ」
「何言ってん──」
俺が答える暇もなく、目の前に襲撃者が現れ、腹部に焼けるような痛みが走る。腹部を見ると手刀が鱗を貫き、深く突き刺さっている。
「このように、龍人相手ならば一撃で行動不能にさせねばな。攻撃は通らぬよ」
勢いよく手刀が引き抜かれる。自身の腹から、血が滝のように出てくる。堪らず、その場に膝を着き、倒れ込む。
一瞬のうちに起こった出来事が、理解できなかった。かなり離れていた相手が目の前に現れ、自分にできる最大の防御を貫き、傷を負わせた。
しかし、その焼けるような痛みが現実だと訴えている。嫌でも理解してしまう。脳が訴えかけている。
こいつには、俺では勝てないと。
「しまった、加減し損ねた……まぁ、死ななければいいのだ。一撃与えられた分、耐えてもらうとしよう」
脳が警鐘を鳴らしている。逃げろ、殺られるぞと。だが逃げようとする意志が出てこない。完全に心が折れ、足が動かない。
あぁ、これ死んだなぁ……と考え始めた瞬間、目の前まで迫った襲撃者が撥ね飛ばされた。
「おたくはなんでこう、絡まれることが多いんですかねぇ……まぁ、その怪我じゃ戦えないでしょう? ま、ここからは任せとけ。俺がおたくの分もぶん殴ってくるからよ」
この時に俺は、助かったと思い、気を失った。