経過一日。
「……あれ?」
気付けば、ベッドの上で寝かされていた。やはり痛みで失神してしまったようだ。あれほどの痛みはもう二度と体験したくない。仲間にもそれは言える。
「こんな痛いのは……味わってほしくないな」
義手との接地面を押さえ、ポツリと呟く。
さて、あれからどれぐらい経ったんだろうか。多分そんなに時間は経ってない筈だがっ……!?
「ヤバい……また来た……っ! 何日続くんだっけこれ……!」
再度、左腕から痛みが走る。義手を着けた時よりはましだが、それでもかなりの痛みだ。
「うぐっ……!! やっぱり痛ぇ……!!」
左腕の痛みに対して出来ることは、自分の腕を押さえ蹲ることのみ。それで痛みがましになるわけではないが、今はこれしかできない。
「ぐっ……!! あぁぁぁ!!」
腕を押さえながら、ベッドから転がり落ちる。そのまま床で悶え苦しむことしかできない。
「い、痛みに弱いったって……ここまでとは……ぐうっ……!! そういうのにも、強くなった方がいいのかねぇ……!」
暫く、左腕を押さえ蹲っていると、少しずつ痛みが引いていくのを感じた。痛みが完全に引くと、俺は体を大の字にし、床に四肢を投げ出した。
「はぁっ……はぁっ……こんな痛みが3日位続くのか……辛い」
呼吸は荒く、体は油汗でべっとりとしていて、気持ち悪い。
……だけど、ショック死は避けられた。そういった方面に考えれば、生きてるということを実感できる。
自分の義手を動かし、天井に手のひらを向ける。
案外、動かすのには困らなさそうでよかった。以外と高性能だ、思ったように動く。少しのズレもないから、剣を振るときも大丈夫そうだ。
それが分かったのはいいけど、ベタついて気持ち悪いなぁ……
「……水浴びでもするか……ずっと汗かいたままだと」
俺は、体の汗を長そうと部屋を出た。
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「光牙? おい、大丈夫なのか?」
「レインか。あぁ、大丈夫だよ。痛みが来たら立てなくなるんだろうけど」
「それは大丈夫とは言えないだろ……」
池に向かう途中に、レインと出くわした。一時的に動けるならばセーフだと思うんだけどな……
「まぁ、大丈夫だって! ほら、こんなに動かせるからさ!」
義手をぐるぐると動かし、大丈夫だということをアピールする。
「ならいいんだが……無茶はするなよ?」
一言そう言うと、去っていくレイン。レインが角を曲がり、姿が見えなくると、俺は左腕を押さえて壁に寄りかかった。
「あっぶねぇ……俺のポーカーフェイスも捨てたもんじゃねぇな……」
「何をしてるんだ、壁に寄りかかって……」
「……ティナ、見ちゃったか……」
どこから現れたのか知らないが、壁に寄りかかっているのをバッチリとティナに見られてしまっていた。左腕を押さえているのだから、痛んでいるということはバレるだろう。
「全く……何処へ行きたいんだ?」
俺に肩を貸しながら、ティナが問いかけて来る。
……ちょっと待って、この人キャラ変わってない?
「どうした、早く答えないか」
「……え? あぁ、風呂場に行きたいと思って。汗が凄くてさ」
「そうか、左腕が痛むといけない、ゆっくり向かうか」
ティナの肩を借りて、ゆっくりと風呂場に向かう。……なんだろう、すごい違和感がする。
「なぁ、ティナ。あんたもこういうことするんだな……」
「む、それは心外だ。私だって、こうやって誰かを支えたり、支えられてきたんだぞ? それに……今回の行動は、お前への罪悪感、と言うべき物なんだろうな」
……罪悪感? あぁ、そういうことか……
「別に気にすることないのに。あれは俺が自分で考えて判断した結果だし」
「それでもだ……私が、洗脳に近い物を受けていなければ、お前の腕はまだここにあっただろう!? 今は義手になってしまった場所に」
急に義手を掴まれ、思考が止まる。少しして再スタートした思考は纏まらず、頭の中は【何故?】というべき物で一杯だ。
「……もしこうだったら、なんて話はやめようぜ? 今は今だ、振り返って戻ってくる物じゃない」
「……そうだな……すまない、考えすぎた」
「気にするなっての。俺も無茶は控えないと」
よし、なんとか気は反らせたようだ。このまま気にしないようになってくれるといいんだけど……
……しかし……案外いい部分もあれば、嫌な部分もある。これじゃ、人の体温も測れない。
当たり前だが、鉄の腕より生まれつき、備わった腕の方がいいだろう。義手よりも動きは柔らかいだろうし、人の体温を感じられるから。
俺の左腕は、もう他人の温度を感じることはない……そう考えると、何か悲しくなり、左の拳を握っていた。
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「あ゛ぁ……やっぱ風呂ってのはいいなぁ……落ち着くわぁ……」
風呂場前でティナと別れ、浴槽に浸かっていた。ここの拠点の風呂は広く、最早露天風呂というレベルの広さになっている。
「本当、こういうのを使っちゃっていいのかなぁ……これ着けてたら入れない、なんてこともないし、よかった……」
湯船から義手を出し、眺める。そういや細かい装飾まで見てはいなかったなと思ったからだ。
「へぇ、綺麗に作られてるな……どうやってこんな風に作ったんだろうか。あれかな、ゴーレムとかと……」
なんだろう、義手のことを調べようと思うと、次から次へと疑問が出て来てとても……面白い。しかし、自分の語彙力が恨めしい。もっと他に言い表せる言葉あったろうに。これって他にギミックとかないのかな? ヤバい、気になる……
少しの間眺めていると、脱衣場への扉が開いた。咄嗟に湯船の中に義手を突っ込む。何故か少し気恥ずかしい物があったんだ。
湯煙のせいでよく分からないが、男だろうということは分かった。良かった男の人で。雛とかだったら普通に……あれ? 何で雛が出てくる? まぁいいや。取り敢えず誰か聞いてみよう。
「誰~? ロビンか?」
「おう、当たりだ。オタクは何ずっと腕を眺めてんの? それも楽しそうに。正直不気味だぜ?」
……バレてるし。
「義手はロマンと言うからさ、ゆっくりと見てたんだ。まぁ、どうなってるか分からなかったけど」
義手を動かしながら、答える。正直、何が出来るのかは全く分からない。けど、使える物であることは確かなことだった。
「そうかい、ならいいけどよ。ぶっ壊れたかと思った」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ……それに何で服着てるんだよ!」
「あ、そうだったそうだった。伝える為に入ったんだったわ、お嬢の頼まれごと忘れてたわ。朝は女性陣が入ること多いから気を付けろ~。じゃあな」
そう言うと、魔法を使い、塀を飛び越えて行ってしまった。
……ちょっと待てとんでもないことを言い残していきやがったなあいつ!
「ゆっくりしてたら鉢合わせるかもしれねぇ、出るか! というか出よう! 朝は入らないとやってられないって程じゃないし!」
湯船から上がり、出来るだけ急いで脱衣場に急ぐ。実際走ったら転けたことがある。そこまで子供じゃないし、これで怪我したら大分恥ずかしい。
「さて、脱衣場には着いた。先ずは下半身から隠そう! 入ってきた人に息子を晒す訳にはいかないし!」
体を拭き、まずは下着とズボンを履く。これで息子を晒すことは免れた。
よし、次d─
「あ、光牙さん入ってたんですか? ってすみません!?」
「……あ、はい……入ってました……お気になさらず……次からノックを忘れないで……」
……雛さん、もう少しゆっくり入ってきてほしいかなぁ……