義手装着。
「よーし、じゃあ着けるぞ……と言いたい所だが、うちでやったら3日はここにいなくちゃならねぇしな……坊主の家でやることになるが、いいか?」
「……じ、自分から頼んで断る、ってのはなんかおかしいだろ?」
とは言ったものの、顔はひきつっているだろう。昔から俺は痛みに弱いんだ。
「私は大丈夫ですけど、他の方が大丈夫というかどうかは……大丈夫ですね、多分あの人達なら」
雛さん、変な納得の仕方になってるから! その納得の仕方は流石に失礼じゃなかろうか!
「そうか、なら行くぞ。……痛みには気合いで耐えろよ? ショック死とかもあり得るからな」
……し、死んだかも……?
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「坊主……お前……」
このおっさん、どうやらここにいる面子がほとんど龍人だと思っていたようだ。
「突っ込み入れないでよ? 自分でも統一性はないなってなってるから。……あ、やっべ、白焔に餌あげてなくない? レーテさん、あげました? というか里に入れてます?」
「彼なら、大きさを自由に変化させられるようだから普通に入れたわよ? それに、狼に餌って……」
「あれ? これ俺がおかしいんですか?」
確かに狼に餌って言うのはおかしいとは思うが、仲間だぞ? 動物園の猛獣に餌やることと変わらないと思うんだが。
「飼い慣らしてる訳でもないでしょう? それに餌をあげようとしても取りに行ってるのよ、自分で」
「餌は自分でとってきてるのかあいつ……なら餌の心配はないな……」
「それより、あなた顔が真っ青だけど、何かするの?」
やはり顔色は悪くなっていたようだ。ヤバいというか……ヤバいんだよな、これ。
「義手を……」
「あー……御愁傷様ね。着ける時にも痛いし、着けた後にも暫く痛むらしいわよ?」
「はい、聞きました……」
「取り敢えず、抑えが必要なら分かるでしょうし、頑張って……と言うのもおかしいかしらね?」
「取り敢えず、気合いで耐えます……」
その言葉を最後に、レーテさんとの会話を終え、自室に向かった。
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「よし、じゃあ坊主、耐えろよ?」
「ちょっと待って、なんで縛られてんの? 俺が暴れること前提なの?」
部屋に入った途端、
「おう、暴れるといけねぇからな。それにお前は暴れるだろ?」
「多分……でも麻酔とか……」
多分ないんだろうけどさ! 一縷の望みをかけて……
「なんだそりゃ? 初めて聞いたぞ」
存在すらしてないかぁ……諦めるか。バカみたいに痛いんだろうけど……
「あぁ……いいんだ、忘れてくれ。早めに頼むわ」
そう言うと、力を抜き痛みに備える。
「じゃ行くぞー……ふん!」
その言葉と同時に、俺の隻腕に義手がくっついた。……かなりの勢いで。
「ぐうっ……!! 馬鹿じゃねぇの!? そんな勢いでやったらあんた、突き刺してるようなもんでしょうがあだだだだだ!!」
「おお、早めにやれって言ったろ? だから早めに突き刺したんだが」
「そう言うことじゃねぇんだわ!! 頭の中空っぽかこの……あぁいってぇ……!」
「光牙さん、大丈夫ですか……!?」
雛の声にも、応答する余裕がない。これもうなんか突き刺さった上に燃えてるんじゃないのかってレベルで痛い。実際突き刺さった訳ですけど……
「がぁぁぁぁ……!! あぐっ、ぐぅあぁぁ!!」
柱に縄で縛られていた腕を動かそうとするも、きつく縛られており、外れることも、千切れる気配もない。足をばたつかせる事でしか、痛みを訴えることができない。
「光牙さん……!」
「嬢ちゃん、そっちの足押さえて声かけとけ。 気が狂っちまったらおしまいだ」
「は、はい! 光牙さん、しっかり! 大丈夫ですから!」
ヤバい……油断してた。あの時は、自分からということも、アドレナリンでも出ていたんだろう。だからそこまで痛みを感じることはなかった。
けどこれはヤバい! 真面目に痛みで死ぬかもしれない……!
「光……さん! しっかり……!い……を……」
ヤバい、雛さんの声も聞こえなくなってきた……これは……うん、死んだかも……
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「光牙さん! しっかり、気を強く持って!」
「こいつは……不味いかもな……!!」
光牙さんが義手を着けてから、すぐに反応を返さなくなってしまった。まさか……!?
最悪の予想が頭をよぎり、一瞬でもそんなことを考えた自分をふざけるなと罵りたくなる。でも一度考えてしまえば、その予想は消えない訳で……
「どうしたら、本当にどうしたらいいの……!? どうすれば意識は……!」
正直、ここまで自分が脆くなるとは思っていなかった。最初は気の毒な人だ、そうとしか捉えていなかったのに。
なのに、今はこうだ。繋がりを持ってしまえば、失った時に辛くなると、分かっていたのに……
「落ち着け嬢ちゃん! 戻ってこい!」
「はっ!……すみません……」
「そんなことはいい、だが、大丈夫か?」
義手職人の方に、肩を掴まれ揺さぶられることで我に返る。大丈夫か?ということは顔色もかなり悪いのだろう。
「はい、大丈夫です……」
「いや、大丈夫そうには見えねぇ。今にも吐きそうだぞ」
……そこまでか。現在の自分の顔色は真っ青を通り越して白なんだろうか。
「大丈夫ですって。心配症ですね……」
「……ならいいんだが」
あぁ、やっぱり人との繋がりというのは私の心を蝕むのだろう。漸く、失った痛みも薄れてきたというのに。
……なのに。
今はこうして、失うことを恐れている。
本当、情けないなぁ……弱くなるから繋がりを得たくないのに、出来た繋がりを失いたくないだなんて。
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「大きな叫び声だったこと……」
俺は今、敷地内にある池をボーッと見ながら思ったことを呟いた。死んでないだろうな……死んだら治してやることもできねぇぞ……?
「……すっげぇ叫び声したなぁ……オタクはどう思うよ? レイン。ほらよ、頼まれてた飲み物」
先程の光牙の大きな叫び声から少しして、買い物帰りのロビンが話しかけてきた。ついでに飲み物も渡しに来たんだろう。
「サンキュー……一応聞いておくが、それはどういう意味だ?」
「いや、あれで光牙という龍人は死んだと思うか?って」
お前は何を言ってるんだ。……本気で何を言ってるんだ。
「そんな顔すんなって、例えばの話ですよー? 俺とオタクはまだ互いのことを全く知らねぇ。知ってることと言えば、得意なこと戦闘スタイル位だ……あと治療が得意だったか。という訳で、オタクの意見を聞きたいと思ってよ」
「どこがという訳でなのか全く分からないが、そうだな……死ぬわけないだろ。逆に、あいつがショック死するような奴か? そんな奴だったらあんな酷い傷を負えば普通に死んでるだろ………」
と、俺は飲み物を飲みながら思ったことをはっきり伝える。
「ほうほう。……まぁ、俺も同じ結論だわ。あいつがそう簡単にくたばるとは考えられねぇわ。信じられるか? あいつ、爆弾を自分ごと起爆させてダメージ与えて来たんだぜ?」
「……何だと?」
あいつ、自分の命を何とも思ってないのか? 義手を着ける原因になった攻撃もそうだが……まさかな。するとストッパーが必要になるな……
「どうした? 長く考え込んで」
「……なぁロビン、俺達はとんでもないことに気がついたかもしれん」
「あいつが自分の命を軽視してるってことか?」
「……気付いてたのか……ならヤバいと思ったら俺達がブレーキになってやろう」
「そうするしかねぇな。いつかまた喧嘩するっての忘れてねぇよな、あいつ……」
「それはあいつに聞け」
……光牙、俺達じゃ、お前の価値観を変えるのは難しいかもしれない。それどころか……お前の無茶を止めることすらできないかもしれない。
けれど、お前は団長の仇をとってくれた。そんなお前が死にに行くって言うのなら……
……この命を使ってでも、お前を止めてやるからな。