困惑。
「……今まで何してた、オタクは。それに左腕どうした」
尻餅をついた状態でロビンを見上げる。狼人の威圧が、自分の体を硬直させる。以前敵として相対した時とは違い、明白な怒りを感じとれる。
まぁ、以前がそういうのに疎すぎたのかもしれないが。録な会話してこなかったなぁ……相槌を打ったり、最低限の会話しかしてこなかった。
「……必死で生き延びたよ、死んでたまるかって気持ちで。左腕は魔力暴走させて一緒に吹き飛んだ」
「そうかい……なぁ、俺あん時は死にに行くような物だってオタクを止めたよな? なんで俺の話を無視した」
「誰かが残る必要があったから、俺が殿勤めようと……いでっ!?」
話の途中で、額に衝撃が走る。ロビンがデコピンをしたようだ。案外痛い。
「オタクなぁ……! オタクはどちらかというと弱い方だっただろ!? なんで突っ込んだ! 目を潰して逃げるとかあっただろう!?」
お前……ならこっちにも言いたいことがあるんだよ!
「……じゃあ聞くけど、あいつに目潰しが効くようなやつに見えた? 効いたとして、逃げたとしても追ってくる、そう感じなかった!? なら弱くても誰かが殿勤めるしかねぇだろ!」
互いに胸ぐらを掴み合い、相手の目を見て叫ぶように言い合う。
「あぁもうこいつ分かってねぇな……! 俺が言いてぇのは、なんで誰も頼らなかったってことだ! オタクにとってそんなに俺は信用できねぇか!?」
……あぁ、なんだ。そういうことか。何故戦えたのに、俺を頼らなかった。そういうことを言いたいのか。そう理解した途端、頭にあった苛立ちはスッと消えていった。
「……まさかお前、頼って欲しかったのか?」
「あぁそうだよ! あんなんに一人で挑むのは自殺行為だ、ならせめて少しでも生き残る確率を上げるべきだ!」
こいつ……完全に本心から言ってるのか……? ほんの少し一緒に過ごしただけだろ……?
底なしのお人好しか……?
「……悪かった。あのときは、どうやったら生き残れるか、それで頭が一杯だったんだ。言い訳にしかならないけど」
「理解してもらえたんならいい。俺とお嬢はな。雛はどうなるか分からねぇわ。ぼこぼこにされるんじゃねぇか?」
「……覚悟しておこう。レイン、お前も適当に時間潰しておいて」
「分かった」
俺の言葉を聞き、ティナ達が向かった方向に歩いていく。……本当に歩いていきやがったあいつ。少しは残ってやろうとかないのか。ないよね。あ、殴られた部分に湿布的な物を貼っておこう。
「よしいくぞー、覚悟はできたな?」
「最初から出来てる、けど実行に移すのは怖い」
「はいどーん」
うわぁぁぁぁぁ!! こいつやりやがった家の中に押し込みやがった!! しかもこの感じ蹴りじゃねえか!
「まだ怒ってるよなお前……?」
「なーんのことですかー?」
すっとぼけてやがる……今度寒い所に向かうことになったら氷水の所に放り込んでやる……
「雛ー、客だぞー」
「お客さんですか? 来客の予定はなかったと思うんですけ……ど……」
こちらを見た雛が、硬直した。あり得ない物を見たかのようだ。黒かった髪は白く変色している。
「……あー、何て言うかさ。生きてます! 何度死ぬかと思ったけど、何とか生き残ってます!」
……自分で言った後で言うのもなんだけど、これはないな。幾ら何でもこれはないぞ……
「……本当に……光牙さん?」
「え? あぁはい、光牙です」
「左腕はどうしたんです……? やはりあの龍との戦いで……!」
「いえ、その後です。左腕は魔力を暴走させた際に吹き飛びました」
俺の言葉を聞いた後、俯いてします。握られた手に力がこもるのが分かる。
「あなたって本当……!! 無茶ばかりしてぇ!!」
次の瞬間、頬に衝撃が走り、倒れた俺は床に後頭部を打ち付けた。ヒリヒリする範囲から、平手打ちを受けたようだ。そのまま、雛は全身を使い、逃げられないように床に押さえつけられる。
……これ端から見たらヤバい絵面じゃない? とかふざけた思考が出たのは内緒。
「いいですか!? 無茶するのは構いません、けど一人で突撃するのは止めてください! それだけ死ぬ可能性が高まるんですから!」
俺の顔に、雛の目から涙がポロポロ落ちてくる。
……滅茶苦茶心配してくれてる……? 正直、俺がしてきたことそんなにいいことしてないぞ……?
……うーん、正直分からん! 取り敢えず……
この状況……どうすれば……