命懸けの鬼ごっこ。
…揺れてる…速度からして、車ではないな…
《目が覚めたようだな…黙っておれよ、喋れば何をされるか分からん。》
どうやら、かなりまずい状況みたい…というかまずい状況。どうやって逃げるか…
《ねぇ、テリー。僕は魔法とか使えないの?》
素朴な疑問があった。龍ならば、炎の一つや二つ使えるだろうと。あの鳥だって爆発を起こせたんだから、僕にだって…
《難しいな。魔法の魔の字も知らんだろう?》
「いや難しいんかい」
あ、ヤベ。口出しちまった…バレたか…?
「起きたようだな…どうする?」
「とりあえず、角だけ切って落とそうぜ?」
なんか雲行きが良くない…というよりこのまま行ったら死ぬ!?冗談じゃない、死んで堪るか!
僕は縛られた状態で奴等の一人に突進し、走り出した。
「ぐあっ!アイツ逃げやがった!」
「龍人の角は高く売れる、なんとしてでも捕らえよ!」
なるほど理解した!角狙われてるんだ!龍人って角あったんだね、顔を見れなかったから分からなかったよ!
《おい、紅蓮を忘れているぞ!》
「しまった、そうだったよ!」
ブレーキを掛け、反転し、追っ手に向かう。
「おい、向かってきたぞ!?」
「何かあんのか…!?」
何もないです!ただ武器を回収したいんです!
男達の顔面に蹴りを拳を叩き込み、馬車にあった紅蓮を回収し、逃げる。
「逃がすなぁぁ!!奴を追え!!」
まだ追ってくんの!?…しつこいんだけど!
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何十分走ったんだろうか。逃げているうちに、崖に架かるつり橋が見えてきた。下は急流、落ちたら助かる可能性は薄いな…
「待てぇ…!」
まだ追って来てるの…!?逃げなきゃ!
「なぁ、もういいだろ?別のやつから値のはる物をもらおうぜ?」
やった、逃げきった!…っ!?
その言葉が聞こえ、少し油断したのだろう。
…僕の背中に、何本も矢が突き刺さった。
「…があっ…!」
「おい!龍人を殺すな、次いつ見つけられるか…」
「はぁ? おいおいオタク、あれをここで逃がす方が馬鹿げてるでしょ。金が欲しいんでしょ、金が。だったら仕留めて角取った方がいいでしょうが」
「それはそうだが……」
ヤバい。背中が焼けるように痛い。このままじゃ…
さらに追撃、また3本程矢が腕に突き刺さる。
「ぐっ!?あああああ!?」
痛い、痛い痛い!!みっともなく腕を押さえて転がってるんだろうが、まだ生きてる。こんな所で…
「死、んで、堪るか…!」
這いずってでも進んでやる。まだ何も分かってない事が多すぎるんだ、死んでやれない!
「…あー、恨みはないが、じゃあな」
「…ぁ…」
矢が飛び、つり橋の縄を全て落とされた。僕は今、痛みによってまともに動くことも出来ない…
あの荒れ狂う急流に向かって落ちる事しか出来ない。
「…くそっ!まだ、何も出来ていないのに…」
この世界の事も分かってない、自分が何をしたいかも決まってないのに…!
そして、急流に呑まれ、気を失った…
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…意識が覚醒する。布団…のような物に寝かせられてるみたいだ。
「…の…無…ですか?」
何か話してるけど、距離が遠すぎて何を言ってるのか途切れ途切れにしか聞こえない…
《…運が良かったな。お前は、この里の女に助けられたようだ》
良かった!テリーも無事みたいだ。
「いつもは不運なのにね…よいしょっと」
《おい、今は起き上がらない方が…》
…瞬間、この里に僕の悲鳴が響き渡った。